OBAYASHI WOOD VISION vol.1:Port Plus®

未来の木造建築はどんな形?

大林組が昨年横浜市に建設した自社の研修施設Port Plusは地上構造部材のすべてに木材を使用した「これからの知を育む場」をコンセプトとした高層純木造耐火建築物だ。木造建築を通じて、同社はどのような社会を目指しているのか。設計を担当した太田 真理氏と木造・木質化建築プロジェクト・チームの岡 有氏に聞いた。

純木造の高層建築Port Plusの可能性純木造の高層建築 Port Plusの可能性

――Port Plusはどのような思いから生まれたのでしょうか。

日本の木材自給率は長らく50%を切っており、建築部材としての木材はその多くを輸入に頼ってきました。2021年には世界的な木材不足でウッドショックが生じ、昨年にはロシア産材の禁輸措置が行われるなど、輸入材のリスクが顕在化しています。国も「都市(まち)の木造化推進法」を施行し、国産材活用への関心が高まっています。当社は「OBAYASHI WOOD VISION」を掲げ、木を中心とした豊かな循環型社会を目指しています。Port Plusはその実現の第一歩として、木材の可能性を探るため建設しました。純木造耐火建築物としては日本一の高さとなる、 高さ44メートル11階建ての高層建築で、技術的にも様々なチャレンジをしています。

太田これまで木造建築の高層化で大きなハードルであった、耐震性能、耐火性能の課題を技術的に解決し、中高層木造建築を実現しています。耐火性と耐震性を高めるため、部材には、表面に燃えしろとなる層を設け3時間耐火を実現した「オメガウッド(耐火)」や強度・剛性を確保するための接合法(「十字形の剛接合仕口ユニット」)を採用。いわゆるプレハブ形式を採り入れ、工場で前もって部材をユニット化しておくことで、製作精度の向上による高品質化、施工時の省人化を達成し、工期の短縮にもつなげています。また、地上構造部材にコンクリートを使用していないため、施工時に発生する騒音やほこりなどを抑制でき、周辺環境に配慮した施工を実現しました。

太田 真理氏
設計本部 木造・木質設計推進部 主任
太田 真理氏
岡 有氏
木造・木質化建築プロジェクト・チーム担当部長
岡 有氏

■オメガウッド(耐火)の構造

■オメガウッド(耐火)の構造
拡大する

Column1:オメガウッド(耐火)とは?

木造での大スパン架構を実現するために造られた大断面の構造材「オメガウッド(※)」に、燃えしろ層・燃え止まり層(耐火層)を設けることで、最大3時間耐火の認定を取得しました。表面に木材の層を設けたことで、木のぬくもりを感じられる外観を残しています。柱梁の構造材は3層構成とし、ビスで接合する工法(オメガウッド)により、従来の2次接着を行う工法に対して約60%のコスト削減と納期の短縮が可能です。中大規模の事務所や商業施設をはじめ、医療福祉施設、教育施設など耐火構造が必要となる幅広い用途で、木の見える耐火木造をローコストに実現できます。

※大断面に必要な枚数の単板積層材を、ボルトやビスといったつづり材で一体化することで、準耐火構造用の大断面材を作る技術

  • 研修施設Port Plus
  • 研修施設Port Plus
  • 研修施設Port Plus

脱炭素化を体現する都市の第二の森林脱炭素化を体現する都市の第二の森林

――カーボンニュートラルの観点からどのような意義をもった建築物なのでしょうか。

私たちが目指しているのは植林から、製材加工、建築物の設計・施工、解体までが木の循環によって成り立つサーキュラー・ティンバー・コンストラクションです。CO2の固定や削減につながる木造木質化建築は、林野庁が掲げる「第二の森林」という位置づけです。Port Plus は1990立方メートルの木材を使用しており、そのCO2固定量は1652トンに上ります。さらに、材料製作から建設、解体・廃棄にいたるライフサイクル全体では、鉄骨造と比べて約1700トン(約40%)のCO2削減効果を達成しました。

太田木造建築と自然のつながりを感じられるよう、テラスや吹き抜けを設け、建物内にはバイオフィリックデザインを用いています。天井や壁に植栽を施し、香り空調や森林環境音の仕掛けを加えることで、心身の健康に働きかけるウェルネスな研修スペースをつくりました。五感で木造・木質空間の心地よさを感じてもらうことで、脱炭素や森林資源について考えるきっかけになればうれしいですね。

研修施設Port Plus
剛接合仕口ユニットにより工期を短縮
剛接合仕口ユニットにより工期を短縮
  • CLTユニット工法
  • CLTユニット工法
  • 岩谷産業新研修所
    岩谷産業新研修所

純木造からハイブリッド構造まで国内外に広がるプロジェクト純木造からハイブリッド構造まで国内外に広がるプロジェクト

――獲得されたノウハウはどのように生かされていますか。

木造と、RC造や鉄骨造などを組み合わせた、より経済合理性の高いハイブリッド木造でも新たな挑戦を始めています。木造とRC造のハイブリッド構造で3月に竣工する仙台梅田寮(宮城県)では、CLTパネルの壁と天井を工場でユニット化させた「CLTユニット工法」を採用しました。このユニットは4トントラックに積めるサイズで、ブロックを積むように組み立てることができます。病院やホテルのような個室が並ぶ建物への応用を検討しています。また現在進行中のハイブリッド木造プロジェクトとして、純水素型燃料電池・J-クレジットを活用したカーボンオフセットLPガス・太陽光を活用した岩谷産業様の新研修所工事などがあります。

太田その取り組みは、国内だけでなく海外にも広げています。オーストラリアのシドニーで現地大手不動産ファンド開発会社のDexus社様から受注した、アトラシアン・セントラル新築工事は、木造ハイブリッド構造としては世界最高の高さ182メートル(地上39階建て)のビル建設に挑みます。建設中に排出されるCO2を従来の50%以下に抑制することを目指し、完成後も100%再生可能エネルギーでの稼働を目標としています。

当社は、木材を活用した新たな技術とノウハウで、国産材を利用した木造建築の普及を促進し、カーボンニュートラルの実現に貢献していきます。

アトラシアン・セントラルビル
アトラシアン・セントラルビル

■CLTユニット工法の概念図

■CLTユニット工法の概念図

Column2:CLTユニット工法とは?

壁・天井・床の四方を囲う形が一般的なユニットを、壁と天井のみで組み立てる形状とすることで、4トントラックで運搬できるサイズ(幅:2200mm、高さ:2800mm、長さ:6000mm)に抑えます。道路運搬規制によって難しいとされてきたPPVC(※)を可能にし、工期の短縮や粉じんの発生を抑制するなどのメリットがあります。集合住宅やホテルなど同じ形状の部屋が連続する建物用途に適し、木造建築物の市場拡大への寄与が見込まれます。

※PPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction)
自立型ユニットを工場などあらかじめ製造しておき現場で設置する工法

PAGE TOP