コモディティー投資の魅力

[第4章]商品先物取引の利活用

目次

  1. [1]企業による商品先物取引の利用
  2. [2]商品先物取引利用の実例

企業による商品先物取引の利用

原材料価格が上昇した場合、企業は原材料コストの上昇分を生産の効率化などによって吸収しようとする。しかし原材料価格の値上がりは、先物取引を使ってその一部を吸収することもできる。

企業は、既に金利が安いと思えば固定金利で借り入れをして、金利が上昇してもその変動リスクにはさらされない。また日本の輸出企業の5割が行っていると言われる為替予約は、販売契約をすると同時に為替予約をすることにより、売り上げは円建てで計算できることになり、その後為替が変動しても、為替予約のおかげで利益が損なわれることはない。それ以上の円安になればもうけ損なうことになるが、採算は取れているのであるから、為替リスクを取ってもうけようとするのは、安定した企業経営としては好ましくないだろう。

同じことが原材料の購入コストにも言える。原材料が安いと思われるときに大量に買えば、その後もっと原材料価格が下がるかもしれないし、在庫にかかる金利負担や保管コストの経費がかさむ。在庫の毀損、劣化などの問題も抱える。原材料の価格変動について、商品先物取引などを活用すれば、為替変動をヘッジするのと同様にリスクを回避、低減することが可能である。

商品先物取引利用の実例

実際に白金(プラチナ)先物を利用する取引の例をみてみよう。

ある商社のプラチナ地金の輸入販売を行うチームの例を考える。プラチナを、南アフリカの鉱山会社からディーラー間で取引されている価格で購入する。これは貴金属OTC(相対取引市場)の価格であり、情報ベンダーの端末上に記載される価格である。この価格は1秒ごとに変わっている。例えば100で買った価格は、数秒後には102になったり98になったりする。担当者は左手でロイター端末を叩いて、買い価格を決定すると同時に、右手で白金先物市場の端末で先物の売り契約をする。ドル建てで買ったため、為替レートも財務部との間で受渡月の為替を予約する。そうすれば、円貨のプラチナの買いと、白金先物市場における円貨の売りが建つことになる。

購入したプラチナ地金の価格が、円貨で例えば100の買い(現物)と100の売り(先物)だったとしよう。午後になって自動車メーカーから自動車触媒に使うプラチナ地金の買いの引き合いが入る。自動車メーカーの購買担当者もロイターの端末を見ているため、朝方買った価格で自動車メーカーに売ることはできない。例えば95の価格で買い注文が入る。朝買った地金の数量と午後に売る地金の数量は異なるが、手持ちの在庫から販売するので数量の誤差は問題ない。しかし、価格は100で買ったものを数時間後に95で売ることになり、そのままではマイナス5の損失が出る。そこで自動車メーカーとの販売契約が成立すると同時に、右手で東京商品取引所のプラチナを販売した数量だけ買い戻すのである。宝飾品メーカーや、時には化学工場などからプラチナ地金の注文を受けるが、同様の手続きで販売を続ける。結果としては100で買ったものを95で売ったが、東京商品取引所との間では100で売ったものを95で買い戻すことになる。それぞれにマイナス5とプラス5の損益が発生し、価格変動リスクは価格がいくらになろうが、東京商品取引所の先物価格とロコ・チューリッヒ(現物の受渡場所をチューリッヒとすることを条件とした取引)の価格変動が同じように動いていれば、損益はゼロとなる。商社のもうけは、販売先から受け取る買い付け手数料である。時には南アフリカの鉱山会社から販売手数料を受け取ることもある。そうした取り扱い手数料分だけ収益となり、プラチナ価格の変動や、為替の変動からは差損益はでない。

市場間、つまりスイスの市場と東京市場の価格は同じ時間帯であれば同じ価格のはずである。これはアービトラージを専門とするディーラー(アービトラージャー)がいるからだ。アービトラージとは日本語では「裁定取引」と言う。ある時間帯にニューヨーク市場のプラチナが高くて、東京市場のプラチナが安い場合、安い方を買って高い方を売るのがアービトラージャ―である。彼らは安く買ったものを高い市場に運んで売るわけではない。そのため、たとえ航空便が止まったとしても、困ることはない。アービトラージャ―は、同じ時間で安い市場があれば安い市場で買って、高い市場で売る。現物を移動させることはなく、「安い市場は時間の経過とともに高くなり、高い市場は時間の経過とともに価格が下がるはずだ」という論理の下で行動している。だから、損益は安い市場で買ったプラチナが同じ市場で高くなったときに売り払い、高い市場で売ったプラチナは安くなったら買い戻すという、両市場で別々の売買をするのだ。

現物と先物の価格も常に変動している。だから、現物が高くて、先物が安い状態になれば、高い現物を売って安い現物を買うという取引を行うディーラーもいる。ただ、現物が高いときは往々にして物が不足しているときであり、不足が激しくなればますます高くなることもあるので、高いから売りだと一概に決めつけるのは間違いである。

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近藤 雅世

コモディティー インテリジェンス 代表取締役

1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。商品ファンドを日本で初めて作った一人。2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンスを設立。代表取締役社長就任。