目次
1「(売値−買値)×倍率×枚数」を覚えれば終わり、
売りが先でも構わない
実際に商品先物取引をどうするのか、例を挙げてみよう。
金の標準取引で、2020年12月限(ぎり)の金を1枚(取引単位を基準に枚という単位で数える:倉荷証券1枚という意味だと言われるが定かではない)5400円で買った場合は、証拠金22万8000円(2020年7月前半の証拠金:証拠金は毎月2回改訂され、取引業者によって異なる場合がある)を商品先物取引業者など(2020年7月以降は証券会社でもできることになる)に預託する。金の倍率は1000倍とあらかじめ決められている(表参照)。この倍率は商品ごとに異なる。
さて5400円で買った金の価格が10日後に5600円になった。
評価損益は+200円×1000倍=20万円である。もっと上がると思ってそのままやり過ごしていたら、5000円まで急落してしまった。今度は30万円の損失であり、損失が証拠金22万8000円を超えてしまった。
証拠金不足になると、取引業者から翌日の正午までに追加証拠金(『追い証』と呼ぶ)を請求され、期限までに預託しない場合は、取引業者により取引が清算されて、損金が請求される。
一般的に商品先物取引業者などに預託している資金は、証拠金の22万8000円より多い場合が多いので、例えば100万円預託して1枚しか取引しなければ、この場合は追い証を請求されることはない。たくさんの資金を預託して、少ない枚数の取引を行えば追い証がかかることはまずない。後ほどリスクマネジメントの項で詳しく説明するが、100万円で1枚が限度と覚えてほしい。
ポジションの解消方法としては、5200円で売り注文を出せば、20万円の損失が確定する。また、仮に100万円を預託していた場合、2020年12月までこの金の買い契約をそのまま維持して、仮に金価格が2020年12月に6000円になっていた場合、5400円で購入した買い契約は有効であり、600円つまり1枚当たり60万円の利益が出る。
2ポジションの解消方法
ポジションを解消する方法は二つ
売り買いしたポジションを決済する方法は、反対売買をするか、満期の限月に現物を受け渡すかの2通りである。
前述のように反対売買をして利益を確定し差金決済するか、あるいは、1キログラムの金地金を5400円/グラムで取得・売却(受渡決済)するかである。受渡決済により金地金を受ける場合は消費税10%と総代金、つまり594万円が必要となる。本当は540万円するものを、22万8000円の証拠金で、2020年12月受け渡しの金1キログラムの購入契約をしていたことになる。空売りしていた場合は、手持ちの金1キログラムを差し出すことになる。
なお、金ミニ取引などの場合は受け渡し規定がなく差金決済だけである。
商品先物投資を行うには、これまでは商品先物取扱業者に注文を出すことが一般的であった。2020年7月からは証券会社にも、商品先物投資の注文を出すことが可能になる予定だ。商品先物等を取引できるかについては、利用している証券会社に確認してみよう。
3倍率、証拠金、限月、ミニ取引、納会日、受渡日、無限月の取引、税金
倍率
金の標準取引の取引単位は1000グラム、つまり1キログラムの金の売買だ。呼び値は円/グラムのため、取引単位÷呼び値で規定される倍率は1000倍となる。1枚当たり1円の価格が動くと、1000円の損益が発生するということになる。その他、プラチナの倍率は500倍、原油は50倍である。それぞれの商品の商習慣に応じて、倍率は異なっている。
証拠金
商品先物取引では日経225先物などの金融先物取引と同様、「取引証拠金」を取引の担保として預託し、売買を行う。この投資資金効率の良さが先物取引のメリットだが、証拠金の額に比べて数十倍の取引を行うため、大きな利益を期待できる反面、同等の損失を被る可能性がある。
価格変動リスクが高まっている場合には証拠金を多めに預けることになる。投資家を価格変動から保護する役割を果たしている。証拠金は半月ごとに改定されている。
2020年7月時点の主な証拠金と倍率表
商品名 | 証拠金 | 倍率 |
---|---|---|
金 | 228,000円 | 1,000倍 |
ゴールドミニ/スポット取引 | 22,800円 | 100倍 |
銀 | 75,000円 | 10,000倍 |
白金 | 180,000円 | 500倍 |
プラチナミニ/スポット取引 | 34,800円 | 100倍 |
パラジウム | 525,000円 | 500倍 |
バージガソリン | 400,000円 | 50倍 |
バージ灯油 | 400,000円 | 50倍 |
プラッツドバイ原油 | 400,000円 | 50倍 |
ゴムRSS3 | 50,000円 | 5,000倍 |
ゴムTSR20 | 80,000円 | 5,000倍 |
とうもろこし | 50,000円 | 50倍 |
一般大豆 | 80,000円 | 25倍 |
小豆 | 55,000円 | 80倍 |
ミニ取引
資金が少ない人でも取引を始めやすいのは、金ミニ取引や白金ミニ取引である。金ミニ取引の場合、倍率が100倍と標準取引の10分の1になり、証拠金も2万2800円とお手軽である。金価格が100円上がると1枚当たり100円×100倍の1万円の利益となり、100円下がると1枚当たり1万円の損失となる。小口の資金で投資する場合は最適であろう。
限月
商品先物取引は、将来受け渡しを行う商品を売買するものであり、商品によって取引量の多い限月は異なるが、金などの貴金属やとうもろこしなどの穀物は12限月制で1年先物が最も取引が多い。原油やゴムは6限月制で、6カ月先が最も取引が多い。海外の市場はアクティブな限月が異なり、米国の場合は当限から3カ月先物までの期近限月の取引量が最も多い。これはそれぞれの市場の慣習に基づいている。
納会日(取引最終日)
取引限月の最終取引日のこと。現物の受け渡しを伴う商品設計を採用した取引(現物先物取引という)では、納会日までに反対売買(差金決済)を行わないと受け渡しの履行義務が生じる(受渡決済)。
受渡日
現物先物取引では、現物の受け渡しを行う日(受渡日)があらかじめ決められており、納会日までに反対売買(差金決済)を行わない市場参加者は現物の受け渡しによって決済されることになる。買い建てている市場参加者は、受渡日に総代金(金1枚の場合は、例えば買った価格5400円の買いであれば540万円と消費税10%の540万円の合計)を支払い、1キログラムの金地金(実際は倉荷証券)を受け取ることになる。売り建てている場合は、1キログラムの金地金(倉荷証券)を渡し、総代金を受け取ることになる。
無限月の取引
ゴールドスポット取引やプラチナスポット取引は、差金決済されない限り、日々ロールオーバーされることから、限月はなく、いつまででも保持できる。そのため、現物投資と同じ効果のある取引となる。保管料や売買スプレッドが無い点が有利となっている。
先物取引の損益
売った価格から、買った価格を差し引いた金額に倍率を掛けたもの。売りと買いは、どちらが先でも構わない。
利益に対する課税
商品先物取引で得た所得には、税率20%(所得税15%、住民税5%)の申告分離課税がなされる。損失は、翌年以降3年間は繰越控除ができる。また、金融商品先物取引など(くりっく365、日経225先物など)との損益通算も可能である。店頭商品デリバティブ取引、店頭金融デリバティブ取引なども損益通算の対象だ。詳しくは証券会社または商品取引業者に問い合わせされたい。
4投資効率の高い資産運用が可能
先物取引は、証拠金を差し入れることにより取引を行うことができるため、投資効率の高い資産運用が可能である(ハイリスク・ハイリターン型)。
無論そのためにリスクが大きくなり、リスクマネジメントが大切になる。
また、商品先物取引は、価格変動の相関性の小さな株式や債券などの金融資産と組み合わせることによって、より安定的で有利な資産運用を実現する手段として活用できる。