コモディティー投資の魅力

[第6章]商品先物取引のリスクマネジメント

目次

  1. [1]マネーマネジメント
    1. マネーマネジメント(5分の1ルール)
  2. [2]休むも相場
  3. [3]損切り
    1. ① 損切りは積極的な投資手法
    2. ② 投資家は常に相場を見ていなければならない
    3. ③ 最大ドローダウンを小さくする
  4. [4]バックオフィスをつくること

さて商品先物取引を始める方に必ず守ってほしいことが四つある。

マネーマネジメント

マネーマネジメント(5分の1ルール)

証拠金に使うために預けた資金の5分の1しか証拠金として使わないこと。割合は一つの例であり、必ずしも5分の1にこだわる必要はないが、資金を一度にたくさん使わないという警告である。

四つのリスクマネジメント

図

例えば5分の1ルールでは100万円資金を預けたら、金の取引を1枚以上行わないことである。金の証拠金は約22万8000円(期間:2020年7月1日から15日)であるので、たとえ100万円の資金があったとしても、22万8000円以上は証拠金に充当してはならない、つまり1枚以上取引しないということである。

これは過大投資による追加証拠金の発生を防ぐためである。例えば100万円で4枚取引を行うと、証拠金は22万8000円×4枚=91万2000円必要となる。価格が逆の方向に250円動くと預託金100万円はなくなってしまい、追加の証拠金が必要になる。

過去10年間で金価格は、1日当たり平均135円(前日終値との差)(※始値と終値の差の平均は127円)動いている。4枚取引していれば、1日で、135円×4枚=540円×1000倍=54万円の損益が発生する。250円は運が悪ければ2日で到達してしまう価格の動きである。

その場合は、追加証拠金の請求があった翌日の正午までに不足額を満たす額を預託しないと、自動的に反対売買されて損失が確定してしまう。つまり、22万8000円の証拠金が設定されている状況においては、100万円で4枚取引するのは危険である。

それでは1枚ならどうであろうか? 1日で13万5000円の損益が出るとしても、6日連続で反対の方向に動かない限り、追加証拠金は必要とならない。6日連続で反対の方向になることもしばしばあるが、その前に損切りをすべきであり、その場合は預託金の大半は残っているはずだ。

休むも相場

いつも取引を行わないということ。休むのも相場ルールである。

どんな投資でもそうであるが、先行きの見通しがあって初めて、投資を行うのが鉄則である。投資は将来の価格の展開を予測する材料があり、予測に基づいて行うものである。

投資した商品の価格が上がると思ったときだけ買い、下がると思ったときだけ売る。休むも相場という言葉があるが、価格に大きなトレンドが出るのは年に1、2度である。それぞれの商品によって価格変動要因は異なるが、価格が横ばいになっていることもある。

二つ目のルールはいつも取引を行わないということ
(休むも相場)

  1. 投資とギャンブルの違いは、予測する方法があるかないか
  2. 予測が可能な状況は年に何度もない
  3. かなり予測の確率が高いと思う時だけ投資する

損切り

① 損切りは積極的な投資手法

最も大切なルールは損切りである。損切りを必ずしなくてはいけない理由は三つある。

確率は価格が上がるか下がるかの二者択一だとしても、それを当て続ける確率は5割に収れんし、取引手数料だけ損失となるのが原理である。グラフのように、長期間投資した時の損切りをした場合の収益は、損切りして損失が出なかった収益から、手数料分を引いた額が利益(図右の青い部分)として残るという原理である。損切りは守りの手段ではなく、積極的に収益を取りに行く方法である。

必ず損切りをしなくてはいけない理由

損切りは積極的な投資手法である

図

② 投資家は常に相場を見ていなければならない

損切りができる前提条件として、投資家は常に市場を見ている必要があることがある。些細な動きに敏感に反応するためには、常時市場を見つめていないといけない。

大きな損失を出さないため常に市場に張り付いていなければならない投資家が、トイレに行くことができ、安心して眠ることができるのは、損切り注文を行っているためである。

③ 最大ドローダウンを小さくする

チャートは2020年初めからの円建ての金先物価格の動きを示したものである。当時新型コロナウィルスが世界にまん延し始め、世界各国の株価は下落し、経済活動が休止し始めた。そうした事情を背景に、年初5473円だった金価格は2月25日の5913円まで440円上昇した。しかし、その後3月17日には4876円まで下落している。これは多くの人がプロフィットテイクをして金を売却したためだ。2008年のリーマン・ショック後金価格は上昇し、2011年9月に過去最高値の1923.7ドルを付けたがそれまでの上昇チャートは何度も下押ししながら上昇している。一般的に価格が上昇するときは、多くの投資家のプロフィットテイクによる下落がつきものである。

仮に1月初めに金を買ったとすると2月中旬までは利益が出ても、3月17日までの急落は予期せぬ出来事だったので、損失を出していたかもしれない。

しかし、仮に、損切りラインを5400円、5500円、5600円と価格が上がるたびに上に動かしていれば、最後の5600円の損切りが引っかかって、プロフィットテイクになっていたはずだ。

投資でなかなかできないのは、いつ反対売買をするかという決断である。利益をどこまで大きく取ることができるかが投資の成否を分けるものであり、そのサインは損切りを使えば自動的にできるということである。ここが天井と思って売ってもさらに価格は上がってしまうことはよくあることだ。損切りはそれを自動的に損失も収益も確定してくれる道具なのである。

東京金[日足] 2019年12月13日 - 20年6月29日

図

少なくとも上記の三つのルール(5分の1ルール、休むも相場ルール、損切りルール)を守っていただければ商品先物取引を行って、なかなかもうからないという状況はあるとしても、大損したという結果にはならないと思う。

バックオフィスをつくること

最後に四つ目のルールについて述べると、それは、投資を独りでやらないということだ。上記の損切りのルールについても、損切りラインを下に動かす誘惑にかられる。損失を出すより、もう少し我慢すれば、元に戻るのではないかと淡い期待を抱いて、自ら設定した損切りラインを動かしたり、消し去ったりすることが大きな損失を招く原因となる。

ファンドやディーリングの場合、必ずお目付け役のバックオフィスが毎日ファンドマネージャ―やディーラーのポジションを管理して損益を計算している。このバックオフィスは、もしディーラーの損失が大きくなるとオーバールールでポジションを切ってしまう権限を持つ。こうしたダブルチェックが効いていれば、大きな最大ドローダウンを被ることはない。

つまり個人投資家でも、奥様等が取引を監視することが肝心であるというのが第4のルールである。少なくとも、プロの投資家でバックオフィスがないトレードはないと言っても過言ではないだろう。

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近藤 雅世

コモディティー インテリジェンス 代表取締役

1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。商品ファンドを日本で初めて作った一人。2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンスを設立。代表取締役社長就任。