新しい時代に
求められる営業職
必要とされる
スキル、その未来

Z アカデミア学長 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長 伊藤羊一氏 × パーソルキャリア執行役員 兼 doda編集長 喜多恭子氏

提供:パーソルキャリア

デジタル化の進展など激しく変化する環境のなか、多くの分野で人の持つスキルが陳腐化するスピードも速まっている。自分の仕事がAI(人工知能)にとって代わられるのではないかと心配する声が聞こえる一方で、新しい時代に求められる「営業職」の需要が急増している。時代が変わっても営業職は重要であり続けるのか――。Z アカデミア学長、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長の伊藤羊一氏とパーソルキャリア執行役員 兼 doda編集長の喜多恭子氏が語り合った。

「顧客の課題を解決する仕事」は時代が変わってもなくならない

――まず、それぞれのキャリアを振り返っていただけますか。

伊藤 新卒で入社した銀行では、営業職として10年ほど働きました。その後、事業の前線に立ちたいと思うようになり、総合事務用品メーカーに転職。物流やマーケティングなど様々な部門を経験しました。その後はヤフーに移り、現在はZアカデミアとYahoo!アカデミア、武蔵大学アントレプレナーシップ学部で仕事をしています。最近は営業を科学する学問の必要性を強く感じるようになりました。いずれは「営業学」のプログラムをつくりたいと思っています。

伊藤羊一氏

Z アカデミア学長、
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長
伊藤羊一

喜多 私は一貫して人材関係の仕事に携わってきました。働き始めてすぐに関西支社の立ち上げに参加し、「とにかく黒字に」という環境でハードな営業現場を体験。その後、中途採用領域、派遣領域、アルバイト・パート領域の全事業に携わり、今は転職メディア事業部を統括しています。

喜多恭子氏

パーソルキャリア執行役員
兼 doda編集長
喜多恭子

――営業職の現状についてうかがいます。

喜多 下記は、営業職における「転職求人倍率、求人数、転職希望者数」の推移を表したグラフです。一時的にコロナ禍により求人数は減りましたが、全体的に見ると最近はコロナ前の9割程度まで回復しています。当社の2021年7月時点でのデータでは、営業職の求人数(前月比)は4カ月連続で増加しています。そして、リモートワークやEC販売の急増を背景に、営業スタイルも変化しており、求人の中身も変わってきています。

図:転職求人倍率・求人数・転職希望者数

――「求人の中身が変わってきている」とは、どのように変わってきているのでしょうか。

喜多 営業という複雑で多岐にわたる業務を、機能や専門性で切り分けた職種の求人が増えてきています。理由は、機能や専門性を高めた職種を配置することが、より顧客の事業成長に貢献する手段となり、また顧客からもそういった専門性の高い価値提供が求められているからです。従来の営業職は、見込み顧客の獲得から商談設定・受注、購入・契約後の顧客に対するフォローまで全て担っていましたが、これらのプロセスを分業化した、オンラインツールなどを用いて見込み顧客の獲得から商談設定・受注までを行う「インサイドセールス」、購入・契約後の顧客に対するフォローを通じて自社サービスの価値を最大限に引き出せるよう支援する「カスタマーサクセス」の求人が増えています。

 下記が、「インサイドセールス」「カスタマーサクセス」の求人数の推移です。

喜多 赤い線グラフがインサイドセールス、カスタマーサクセスの求人数の合計です。2019年頃から、SaaS系の企業の台頭に伴い増え始めました。2020年4月から新型コロナウイルス感染拡大の影響で一時的に減ったものの、その後急速に増え、2019年1月と2021年5月を比較すると求人数は約6倍になっています。水色の線グラフの営業職全体はほぼ横ばいなので、営業職の機能分化が進んできていることが分かります。背景として、コロナによってビジネスモデルの変換や営業組織の在り方が変わったことが挙げられます。今後も、インサイドセールスやカスタマーサクセス職のニーズは拡大すると考えており、これからの新しい時代に求められる営業職となっていくと予想しています。

――インサイドセールスやカスタマーサクセスには、どのようなスキルが求められると考えていますか?

喜多 機能が分化した分、求められるスキルは明確です。まずインサイドセールスには、顧客とのコミュニケーションを図り、顕在・潜在ニーズを引き出すことが重要なため、傾聴力や共感力などのコミュニケーション能力が求められます。カスタマーサクセスには、日々のコミュニケーションの中から、顧客の事業の成長を支援できる提案を具体的にイメージし、それをしっかりと伝えるスキルや、コミュニケーションを継続するための関係構築力が求められます。でも実はこれらのスキルは、営業職であれば既に持っているスキルでもあるんですよね。ですから、インサイドセールスやカスタマーサクセスへの転職を考える場合は、自分のスキルのどこを磨いていきたいのか、という選択になると思っています。

 一方で、今営業職の方を見た時に、そういったスキルを持っているにも関わらず、将来に漠然とした不安を感じる若手は少なくないようです。「AIが進化すれば営業はいらなくなるのではないか」といった声を聞くこともあります。

伊藤 営業の定義にもよりますが、まったくの誤解ですね。もし「顧客が求めているものを売る」だけなら、顧客はEC(電子商取引)で注文すればいい。AIのチャットボットでもいいでしょう。それは少なくとも私の考える営業とはかけ離れています。営業を「顧客の課題を解決する仕事」だとすれば、AIにできるはずがありません。

喜多 同感です。営業は人の心を動かす仕事です。AIに人の心はわかりません。

伊藤 なくなるどころか、重要性が高まるのではないでしょうか。モノや情報量はどんどん増えています。企業の意思決定者にとっては、選択肢が多すぎてこれまで以上に判断が難しくなります。企業に寄り添い、パートナーとして判断をサポートする営業職の役割はより大きくなるのではないでしょうか。

喜多 そう考えると、新しい時代に求められる営業職の求人数が増えている説明ができますね。機能分化した方がきめ細かく寄り添うことができ、顧客企業の成長により貢献することができます。そして、個人にとっては本当に価値提供できる営業職へのステップが見えやすくなったと言えるかもしれません。さらに、機能分化しているからこそ、従来よりもKPIが立てやすい。より成功実感を得やすい職種と言えると思います。

売り込むことが営業? 営業スキルは応用がきかない?

――「営業=売り込むこと」と考えている人も多いようです。

伊藤 それも違いますね。そもそも顧客は、自分の課題が明確にわかっていないケースが多い。課題の一部を言語化できていても、言語化できていない部分が相当残っているはずです。それを顧客と一緒に言語化し、課題をクリアにしたうえで「それならこの商品・サービスで解決できます」と提案するのが営業の役割です。もちろん、自社が提供する製品やサービスの特徴や強みを深く理解していることが前提です。コンサルティング営業という言い方がありますが、すべての営業にはコンサルティング的な要素が含まれており、それが最も重要な要素であると私は考えています。そのためには対話や議論が大事なので、Z アカデミアでもそういった目的のセミナーを定期的に行っています。

喜多 そうですよね。「営業=売り込むこと」と捉えてしまうと、自分が提供できる価値や可能性も狭く思えてしまう。でも実は営業職って「売り込む」だけどころか、伊藤さんがコンサルティングとおっしゃったように、企業の課題を一緒に解決するために複雑性の高いことをやっているんですよね。それを自覚していない方も多いように思いますが、実はやっている。

伊藤 そうですね、僕は人って可能性をいくらでも広げられると思っていて。だから自分の可能性を自分で閉ざしちゃっている人が多いけど、自分の可能性を信じるように、そこは解放してあげたいと思うんですよね。やれることからやってみる、というのが大事。実際、新しい時代に求められるスキルは、営業職の経験者なら持っている。それを信じてみてほしいですね。

喜多 はい、私もそう思います。

 営業のスタイルの話に戻ると、最近では課題解決からもう一歩踏み込んで、顧客の目指すゴールの設定からその実現までをサポートする営業スタイルが注目されています。

伊藤羊一氏

伊藤 確かに、よりクリエーティブな営業スタイルと言えるかもしれませんね。銀行に勤めていたとき、多くの子会社を持つ取引先に「全体のマネジメントが複雑なので、ファイナンス機能については専門の子会社を設立してまとめたらどうですか」と提案したことがあります。マネジメントの課題解決のための提案ですが、ファイナンス子会社が金融サービスを提供するようになれば、結果としてゴール設定に近いことを提案したことになるでしょう。

 当初から私は「融資を増やそう」ではなく、「この会社の役に立ちたい」と思って仕事をしていました。例えば取引先が新規事業を始めるとき、経営状況に合わせて最適な提案をする。銀行にとってはもうけが減る提案だとしても気にしませんでした。取引先はそんな私をしっかり見てくれていて、あるときから一気に大きな仕事を任されるようになりました。どうやったら課題が解決できるのか、どうすれば顧客の価値を最大化できるかを考え抜くことが重要です。

喜多 営業のマインドとしてそれが本質だと思います。それは機能分化したどの営業職にも言えることですよね。ハイパフォーマーは「顧客にこうなってもらいたい」という思いやその熱量が圧倒的に大きい。きちんと企業と目線を合わせて寄り添えれば、結果は後からついて来るということですね。

 一方で、「営業スキル」は「応用がきかない」と思っている人もいるようです。

伊藤 それも大間違いです。営業のことを「顧客の課題を解決する仕事」と言いましたが、それは事業そのものといってもいい。ビジネスに携わるなら一度は営業を経験すべし、と言いたいくらいです。少なくとも営業マインドは持ってもらいたい。営業には多様な能力が求められます。プレゼンやコーチングのスキルも必要ですし、ときには耐える力も大事です。顧客の信頼を勝ち取って成功体験を味わうこともできます。営業で鍛えた幅広い能力の活かし方はいくらでもあります。

伊藤羊一氏

「営業には多様な能力が求められます。顧客の信頼を勝ち取って成功体験を味わうこともできます。営業で鍛えた幅広い能力の活かし方はいくらでもあります」

喜多 おっしゃる通りだと思います。営業職の機能分化が進んでいると話しましたが、営業職で得るスキルも多様なので分化して考えることができますよね。そう考えると自分の強みも見えてくる。その強みを活かしてスペシャリティを磨いていくこともできると思います。

――最後に、営業現場の人たちや、これから新しい時代に求められる営業職の仕事に就きたいと思っている若い人たちにメッセージをお願いします。

喜多 多岐にわたる能力を駆使して、相手・他者の気持ちを変え、その人のウィルの実現をサポートする伴走者。それが、私の考える営業という仕事です。本気で営業に取り組めば自分自身の能力、やりたいことを達成する能力を手に入れることができる。特に若い時期は、幅広い経験やスキルが身につく営業職を経験してほしいと思います。

 また、新しい時代に求められるインサイドセールスやカスタマーサクセス職では、コンサルティングスキル、関係性や信頼構築スキル(人間関係の構築)、話を引き出せる傾聴スキルなどを磨くことができる。これらのスキルは非常に汎用性が高いスキルなので、業界や職種が変わっても活用することができ、キャリアアップにも役立つと考えています。それらの職種を求める企業は今後も増えてきますので、ぜひこのタイミングで目を向けてみてほしいと思います。

喜多恭子氏

「インサイドセールスやカスタマーサクセス職では自分の強みを活かしてスペシャリティを磨いていくこともできる」

伊藤 今、営業職として働いている人は素晴らしい経験をしていると思いますし、これから営業の現場に飛び込もうとしている人はチャレンジしてもらいたいですね。営業で培ったスキルは長期的に生きてきます。キャリアは「轍(わだち)」という意味をもちます。たどった道がキャリアになるわけですから、ぜひ主体性を持ち、自分の可能性を信じて、今できることをやってみるという意識を持ってほしいと思います。

Profile

伊藤羊一氏

伊藤羊一Z アカデミア学長、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長。日本興業銀行、プラスを経て2015年ヤフーへ。現在はZアカデミア学長としてZホールディングス全体の次世代リーダー開発を行う。またウェイウェイ代表、グロービス経営大学院客員教授としてリーダー開発を行う。2021年4月、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)学部長就任。代表作に52万部超ベストセラー「1分で話せ」のほか、「1行書くだけ日記」「FREE, FLAT, FUN」など。

※このインタビューは新型コロナウィルスの感染防止に配慮し、対策を講じた上で実施しました。

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