提供:内閣府

働き方再考 プロ人材 地方で輝く 国が進める 地域企業と都市部人材とのマッチング

地域企業に「攻めの経営」への転換を促し、それを実践するプロフェッショナル人材(プロ人材)の活用支援を行い、地域経済の活性化を図ることを目的とした、国と各道府県で運営するプロフェッショナル人材事業(プロ人材事業)。基本的には、民間人材ビジネス事業者等を通じてマッチングを行うが、それ以外に、都市部で働く大企業人材と地域企業との人材交流を促す「大企業連携」という取り組みがある。それは、都市部の大企業人材や大企業にとってもメリットは大きい。

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テレワーク浸透。地域企業への転職、副業が現実的に

都市部から地方への人の流れが強まっている。東京都が発表した2月1日時点の推計人口は、前年同月比662人減の1395万人。1996年6月以来、24年8カ月ぶりに前年を下回った。新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークが浸透したことにより、職住近接の必要性が薄れ、地方都市に移り住む動きが活発化しているのだ。また、人生100年時代を迎え、職業キャリアが長期化、多様化していることも一因だろう。セカンドキャリアとして地域企業へ転職する、地域企業で副業することも現実的な選択肢になりつつある。

しかし地域企業への転職、副業には、常にマッチングの不安がつきまとう。「自分の経験やスキルを生かせる仕事はあるのか?」「やりがいを感じられる仕事があるのか?」という不安が解消できなければ、なかなか転職、副業に踏み切れないのが実情だろう。

経営者と未来を共有、新規事業をカタチに

フォト:手代木克介氏

手代木克介氏 54歳
転職先:東北工商(岩手県)、Iターン

「もちろん不安はあった」と話すのは、東京から岩手県盛岡市へのIターン転職を果たした手代木克介氏だ。手代木氏は大手住宅メーカーや商社で新規事業やブランディング、マーケティングなどを手がけ、中小企業支援の経験も持つ。その後独立して起業したが、東日本大震災の影響でパートナー企業が撤退するというアクシデントに見舞われ、やむなく求職活動をすることを決意。その際に登録した民間人材ビジネス事業者が、プロ人材事業と提携しており、岩手県で土木・建築資材の販売・施工を手がける東北工商を紹介された。

当初抱いていた「果たして自分の経験やスキルを生かすことができるだろうか」という最大の不安は、面接時に一気に払拭されたという。

「東北工商は確固たる未来構想を持っていたため、そこで果たすべき自分の役割が明確にイメージできた。一般的に中小企業は自身の持つ潜在的価値に気づいていないことが多いが、同社はUAV(Unmanned Air Vehicle:無人機)を活用した新規事業という具体的なアイデアを温めていた。ならば私がやるべきことは、それをカタチにすること。面接の場で、経営者と同じ未来を共有することができ、事業化に向けての意見交換まで飛び出した」(手代木氏)。

営業部長という肩書で迎え入れられた手代木氏に与えられたミッションは、新規事業の立ち上げ、企業ブランディングの確立、そして新営業チャネルの開拓というものだった。転職1カ月後には、ドローンによる橋梁等の点検事業を提案。社内承認されるや、橋梁点検事業者など複数の地元企業との連携を推進。共同でAI(人工知能)による画像診断システムの開発プロジェクトを立ち上げ、県や市町村に事業採択に向けた働きかけも開始した。時には自らドローンを操縦して測量業務にも携わる。

同社の宮野祐樹常務は「スピーディーに新規事業が進んでいくのを目の当たりにして、他の従業員も大いに刺激を受けている。地元メディアなどに取り上げられることも多くなり、社内の雰囲気も活発化した」と、手代木氏のもたらした効果が新規事業の推進だけにとどまらず、社内にも大きな好影響を与えたことを強調する。

今回のマッチングは、プロ人材事業を通じ実現したものだ。同事業は、都市部で働く求職者と地域企業をマッチングし、橋渡しをする。東京都と沖縄県を除く各道府県にあるプロフェッショナル人材戦略拠点(プロ拠点)が、地域企業の経営者等と対話を重ね、企業の経営課題とその解決に必要な人材像を明確化し、民間人材ビジネス事業者等と連携して、人材マッチングを行う。このように、受け入れ企業側の経営課題解決に焦点を当てて、それに適した求職者を探していることが、プロ人材事業の大きな特色である。だからこそ、手代木氏は課題解決に向けた明確なミッションに対して自身のスキルを生かし、東北工商を課題解決や新たな挑戦に導いているのだ。

現在、ドローン点検事業は検証段階に進み、すでに多くの問い合わせや依頼が舞い込んでいるという。手代木氏は「地方の中小企業では営業も総務も人事もない。自分ができることすべてをやらなければいけないし、行うことができる。だからこれまでのキャリアで役に立たないものなどない。すべてが生きている」と、満足げに笑う。同社に転職以降、家族には「眉間のしわが消えて人相が変わった」とよく言われるそうだ。

フォト:宮野祐樹常務・手代木克介氏

ドローンによるインフラ点検事業を推進。宮野祐樹常務(写真右)の右腕としても活躍

副業で、自身のスキルを試し・磨き、人脈広げる

選択肢は転職だけではない。2018年、厚生労働省が働き方改革の一環として「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表して以降、企業の副業解禁は大幅に増加した。都市部にある企業に勤務しながら、地域企業でリモートワークによる副業を行うビジネスマンも増加傾向にある。

フォト:松本真二氏

松本真二氏 37歳
副業先:野口製作所(群馬県)

愛知県在住の松本真二氏は、プロ人材事業の副業・兼業マッチングを通じて、地域企業で副業をしている。本業として愛知県内で在宅医療クリニックに勤務しつつ、副業として群馬県にある金属プレス加工を営む野口製作所で働いているのだ。

副業を始めた理由について、松本氏は「これからは個の時代。社名や肩書ではなく、自分の名前で仕事ができる人材にならなければ生き残ることはできない。副業で自分のスキルを試し、磨くと同時に、多様な経験を積み、人脈を広げることが重要だと考えた」と話す。

野口製作所は、プロ人材事業と提携する民間人材ビジネス事業者からの紹介だ。「最初は金属プレスの会社と聞いて驚いたが、介護業界向けに情報共有サイトを立ち上げるという内容だったので、医療・介護分野で培ったスキルが生かせると思いエントリーした。野口大輔社長と話し、介護業界に対し本業を通じて感じていた課題感を共有することができたのが決め手だった」(松本氏)。

一方の野口製作所も畑違いの介護業界に進出するうえで、介護業界に詳しい副業人材を求めていた。「妻が介護業界で働いており、業界の抱える人材不足、離職率の高さという問題を何とか解決できないかと考えていた。しかし、そのために社内のリソースを大きく割くわけにはいかなかった。そんな時にメインバンクからプロ人材事業を紹介され、副業人材の活用に至った」(野口社長)。

事業アイデアはあってもそれを実行するために、既存事業との兼ね合いから社内のリソースを大きく割けない企業と、本業以外でもスキルを磨き、経験を重ねたい人材。それが交差したとき思わぬ派生効果が生まれる。「本業で交流のある介護業界の人々にインタビューやアンケートを行い、事業の可能性や課題の明確化を行った」(松本氏)。新事業は、端末機器に介護業界で働く人々に日々の状態をワンタッチで入力してもらい、AIが疲れや不安などの兆候を見いだすとカウンセラーがすぐに対応するという仕組み。現在は今秋のサービス開始に向けてシステム開発を急ピッチで進めている。

副業の仕事はすべてリモート。ZoomやSlackを活用してプロジェクトを進めている。副業の仕事にかける時間は意外に少なく、野口製作所への申告稼働時間は月に数時間程度だという。松本氏は「収入面だけでいえばそれほど多くはない。しかし副業で得られる経験や人脈、やりがいはプライスレス」と、副業から始まった可能性の広がりに期待を膨らませている。

フォト:野口大輔社長・松本真二氏

仕事はすべてリモートで。野口大輔社長(写真左)とのコミュニケーションもばっちり

大手広告会社から長浜市観光産業の中核企業へ

フォト:進晴彦氏

進晴彦氏 63歳
転職先:黒壁(滋賀県)

事業承継のケースも紹介しよう。滋賀県長浜市の黒壁は、「黒壁銀行」の愛称で地元の人々に親しまれてきた明治時代の建物を残したいという、市民の思いから生まれた第3セクターの株式会社だ。この建物を改装した「黒壁ガラス館」を中心に、現在は商店街にある空き店舗や商家を活用したガラス工芸品の製造・販売や土産物の販売、喫茶店等を運営している。その店舗群は「黒壁スクエア」と呼ばれ、年間200万人もの観光客が訪れる長浜市観光産業の中心となっている。しかし設立30年を迎え、国内観光客の減少による新たな経営戦略の確立や、持続可能な地域の再生に取り組むため、事業を承継し、新たな風を吹き込むプロ人材を求めていた。

進晴彦氏はその経営者募集に手を挙げた一人だ。進氏は長く大手広告会社に勤務し、オーストラリア、ドイツ、カナダ、中国等の海外支店長を歴任。退社後は、タイの広告会社の会長職も務めた経歴を持つ。進氏は、その応募の経緯を「タイでの業務に一定のめどが立ったことから日本に帰国。起業も含めた様々な可能性を模索するなかで、民間人材ビジネス事業者に紹介されたのが黒壁だった。当初は、ガラス工芸品の小売りを中心とした事業と広告会社では接点がないように思えたが、よく話を聞いてみると広告会社がもっとも得意とするマーケティングこそが求められていると確信するようになった」と話す。

北国街道のランドマークとなる黒壁土蔵の建物とレトロな味わいのガラス細工。街並みに溶け込んだ地元食材を使った喫茶店や土産物店。「黒壁スクエア」は地域と観光客の双方に親しまれるひとつのブランドだ。しかし進氏は、それが「マーケティングを意識せずに偶然生まれたブランド」であることに危機感を抱いたと言う。採用面接では、過去の経験に裏付けられたマーケティングの観点から「『黒壁ブランド』をどう生かし、大切にしていくのかが重要だ」と強くアピールし、50人強の応募者の中から採用されることになった。

社長に就任した進氏は、まず事業ごとにブランドを体系化するとともに、「お客様にいい時間と空気を」というブランドミッションを明示。さらにブランドビジョンとして「文化をデザインする」を掲げ、社員にブランド意識を徹底させた。黒壁は何を提供するのか、どこを目指すのか。それを常に意識することで行動も変容する。「それまでガラス館の周辺施設と思われていた土産物店や喫茶店も、来店されるお客様にいい時間と空気を提供する空間として高いサービス意識を持つようになり、リピート客も増えたようだ」(進氏)。

前職の経験が役立つのはマーケティング面だけではない。「広告会社の海外支社では現地企業トップと交流の機会が多かった。それが現在のステークホルダーとのリレーションにも生かされている。これは意外な発見だった」と進氏は笑う。

現在は家族を東京に残して単身赴任中。「それは海外単身赴任時代と同じ。違うのは初めての田舎暮らしが満喫できること。毎日琵琶湖を見ながら通勤するたび、恵まれた環境で働けることに感謝し、転職して本当に良かったとしみじみ思う」とのことだ。

フォト:進晴彦氏

長浜再生のシンボル「黒壁ガラス館」で。まちのブランド価値向上を図るアイデアが続々と

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プロ人材事業の仕組みとメリット

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