リポート1日経電子版オンラインセミナー「エクスペリエンス・サミット」

提供:PwCコンサルティング

デザイン思考で、経営をアップデートせよ。

パーパス経営、DX、CX、
Web3戦略を革新する。

いま注目の「BXT(Business eXperience Technology)」とは?いま注目の「BXT(Business eXperience Technology)」とは?

写真

多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けた取り組みを加速させるなか、企業のミッション、ビジョン、バリューの上位に“パーパス(存在意義)”を置いた次世代の経営モデルが注目を集めている。しかしその一方、自社のパーパスを経営戦略にどのように落とし込めばよいのか悩む企業も少なくない。そうした悩み解決のヒントになるのが、デザイン思考を軸に「ビジネスについてのナレッジと経験」「テクノロジーの知見」「エクスペリエンス創出のアイデア」を融合させた、ビジネス変革のためのアプローチ「BXT(Business eXperience Technology)」だ。

本稿は2022年5月13日に開催された日経電子版オンラインセミナー「エクスペリエンス・サミット」(主催:日本経済新聞社、協賛:PwCコンサルティング)の基調講演のもようをお届けする。

テクノロジーを真の競争優位に結びつけるために

写真:山口 周 氏

株式会社ライプニッツ
代表取締役
山口 周

独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ビジネスの未来』『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『武器になる哲学』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。

 日経電子版オンラインセミナー「エクスペリエンス・サミット」が22年5月13日に開催された。セミナープログラムの冒頭には、株式会社ライプニッツ 代表取締役の山口周氏が登壇、「テクノロジーを真の競争優位に結びつけるために」と題した基調講演を行った。

 近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれるなか、企業の間では最先端のテクノロジーを積極的に取り入れる動きが活発になっている。だが山口氏は、「テクノロジーは多くの企業にとって、誰でもアクセス可能なツールボックスになっているが、それを自社の競争力につなげられる企業とそうでない企業に分かれてしまっている」と指摘する。

 「企業がプロジェクトを実行するとき、本来は単なる“手段”でしかないものを“目的”にしてしまっていることがあります。当然のことながら、何をもってプロジェクトを成功とするかがはっきりしないまま、安易にテクノロジーを導入して走り始めても、必ず失敗します。テクノロジーをどのように活用して何を実現するかという『問題を設定する力』が企業の競争優位性を大きく左右するわけです」

 山口氏によると、問題とは“ありたい姿”と“現状”のギャップであり、ありたい姿が思い描けなければ問題を設定することはできない。つまり、ありたい姿を描いてそこから問題を浮き彫りにすることが、競争優位の源泉になるというのだ。そうしたテクノロジーを競争優位性に結びつけた事例として、山口氏は「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」の受賞作品を紹介。これらに共通しているのは「それまで誰も解こうとしなかった問題を追及しているところにある」と指摘する。

 「日本のテクノロジー関連プロジェクトは、すでにある程度解決された問題、人手で解決されている問題を、テクノロジーを活用してもっと早く効率的にするという発想のものが多い。本来であればテクノロジーを活用する前に、それよりも自由度の高い上流段階の戦略やビジョンに時間を割くべきなのですが、多くのプロジェクトは成果に最もインパクトのある上流段階の思考量が足りていない状況です」

 さらに、顧客側から問題を投げかけられることが少ない今の時代、サービスを提供する企業側から「本来はこうあるべきで、テクノロジーの力を使うとこういうことが実現できる」といった提案が求められているという。

 「大きな成功を遂げた新事業の多くが『世界はこうあるべきだ』と独善的に思い描いたものであることを考えると、まずはトップダウンでビジョンを設定し、ありたい姿とのギャップを埋めるための問題を見つけ、テクノロジーを導入していくというビジョンドリブン型の思考が必要になります。そこでカギとなるのが、リベラルアーツの考え方です。リベラルアーツにもとづいて世の中のあるべき姿を描けない限り、テクノロジーは単なるツールボックスに過ぎず、競争優位に貢献しません」

 テクノロジーを競争優位につなげていくには「これまでの当たり前の延長線上で効率化するのではなく、いったんゼロベースにして常識にとらわれることのない自由さが最も大切です」と、山口氏は基調講演を締めくくった。

デザイン経営を実現するBXTアプローチ

写真:馬渕 邦美 氏

PwCコンサルティング合同会社
エクスペリエンスコンサルティング・マネージングディレクター
馬渕 邦美

大学卒業後、米国のエージェンシー勤務を経て、デジタルエージェンシーのスタートアップを起業。事業を拡大しバイアウトした後、米国のメガ・エージェンシー・グループの日本代表に転身。4社のCEOを歴任し、デジタルマーケティング業界で20年以上に及ぶトップマネジメントを経験。その後、米国ソーシャルプラットフォーマーのシニアマネージメント職を経て現職。経営、マーケティング、DX、エマージングテクノロジーを専門とする。

 山口氏の基調講演に続き、PwCコンサルティング エクスペリエンスコンサルティング・マネージングディレクターの馬渕邦美氏が登壇、「デザイン経営を実現するBXTアプローチ」と題するプレゼンテーションを行った。

 新型コロナウイルス禍のなか、多くの企業がデジタル化に取り組んでいる。しかし馬渕氏は「企業が競争力を高めるには、もはやデジタル化だけでは不十分」と話す。

 「なぜなら価値創造のあり方が根本的に変化しているからです。例えば需要の変化に対応して顧客の期待を満たすだけでは不十分であり、企業間連携やエコシステムといった供給の変化も起きています。また社会環境が変容し、ESG/SDGsといった新たな時代の要請に応えることも求められるようになりました。つまり今こそ、自社が創造する価値を根源から見直すべき時であり、デジタルの先(Beyond Digital)へ向かう時が来ています」

 さらに馬渕氏は「国富を生む方程式が変容し、テクノロジーを用いた創造的破壊型イノベーションの新時代が到来している」と指摘する。

 「かつては大きな売り上げ、付加価値、利益を生むことで企業価値につながる富を生むというのが基本の方程式でした。しかしこれからは『未来を変える』ことが企業価値となり、それをテコに投資して付加価値や利益につながる真逆の流れに変化しています。刷新が済んでいない産業ではスタートアップ企業が躍進していますが、守る側よりも仕掛ける側のほうが圧倒的に有利な状況です。したがって、企業が生き残っていくにはパーパスを再考するとともに、過去のルールにとらわれることなくビジョン主導で企業改革を進めていかなければなりません」

 馬渕氏は企業が改革を進めるには、①自社の存在意義を再考する、②エコシステムを通じて価値創造する、③自社ならではの顧客インサイトを獲得する、④成果志向型の組織を構築する、⑤リーダーシップチームが一丸となる、⑥従業員との関係を再定義する、⑦リーダーシップを創造的に破壊する、これら7つの必須要件を満たす必要があるという。なかでも自社ならではの顧客インサイトを得ることが他社との差別化につながり、カスタマーエクスペリエンスを戦略の中心に据えることが重要だと強調する。

 こうしたデジタルの先の改革を目指す企業に対し、PwCコンサルティングが提供しているのが「エクスペリエンスコンサルティング」だ。

 「エクスペリエンスコンサルティングは、エージェンシーとコンサルタントの長所を融合させ、複雑なビジネス課題に対してユニークかつファクトにもとづいた視点を提供するサービスです。デザインの力で変革を促し実現することが私たちのビジョンであり、UXデザインと戦略、プロジェクト推進、テクノロジーを組み合わせた、実績のあるBXT(Business eXperience Technology)方法論を活用し、新しい世界に向けた製品・サービスの創造を支援しています」

デザイン思考で経営をアップデートせよ

 山口氏の基調講演、馬渕氏のプレゼンテーションに続いて行われたのが、「デザイン思考で経営をアップデートせよ」と題した両氏による対談だ。対談は馬渕氏がモデレーターを務め、山口氏に質問を投げかける形で進められた。

 まず馬渕氏は、基調講演の内容を深掘りする質問を行った。

 「基調講演では『ありたい姿が描けないと問題を生み出せない、問題を解くよりも発見して提案する』といった話がありました。この点から考えると、日本企業が生き残っていくためには何がポイントになるのでしょうか」

 これに対して、山口氏は次のように回答した。

 「世界の潮流には時間軸と空間軸という2つの軸がありますが、世界的なムーブメントになる可能性をいち早くとらえ、将来起こり得る問題への対処をしておくことがポイントになるでしょう。せいぜい2~3年先しか見ていない、日本という閉じた空間だけしか考えていないのでは、その先の未来に発生する大きな問題の予見は困難だし、ビジネスサイズも矮(わい)小化してしまいます」

 また、「企業がトップダウンでビジョンを設定するにはどこから手をつければよいか」という馬渕氏の質問に対し、山口氏は「“盗む”ことが重要」と回答した。

 「ビジョンとは、まさにありたい姿の絵を描くわけですから、アートや音楽と同じように何らかの構想が必要になります。けれども、まったく新しい構想をつくることは非常に難しいのが実情です。では、アートや音楽の世界ではどうしているかというと、師匠筋に当たる人や名作品から貪欲に学び取るわけです。つまり、ビジョンの策定のようにデザイン思考で経営をアップデートするには、多くの企業の事業やコンセプトをたくさん見て、ピカソが言うところの“盗む”から始めるのが効果的だと思います」

 最後に、馬渕氏からセミナー参加者へのアドバイスを求められた山口氏は「自分の行動や思考の可能性を狭めてはいけない」と語った。

 「スタートポイントは、自分にかかった“呪い”を解くことです。呪いとは人の自由度を奪うことを意味します。『こんなことはできるはずがない』『こんなことは許されない』『こうあるべきだ』といった呪いにかかったままでは、テクノロジーがこれだけ発展しても、テクノロジーを活用していくアイデアを創出する最大のボトルネックになってしまいます。まずは自分の行動や思考の可能性を狭める呪いを解くことが重要になります」

 テクノロジーに対する向き合い方、ビジョンに対する考え方など、山口氏と馬渕氏の対談は非常にわかりやすい言葉で進められた。ここではそのすべてを紹介できないが、自社でこれから取り組むビジネス変革の一助としていただきたい。

対談写真

「エクスペリエンス・サミット」のセッションの様子を
アーカイブ動画でも視聴いただけます。

動画

アーカイブ動画の視聴はこちらから

↑