リポート3日経電子版オンラインセミナー「エクスペリエンス・サミット」

提供:PwCコンサルティング

[ Web3 × Experience ]

Web3 Metaverse × 経営未来

BXT思考する

  • パネリスト

    一般社団法人渋谷未来デザイン
    理事・事務局長

    長田 新子

  • パネリスト

    VRアーティスト

    せきぐちあいみ

  • パネリスト

    株式会社グラコネ
    代表取締役

    藤本 真衣

  • パネリスト

    PwCコンサルティング合同会社
    エクスペリエンスコンサルティング・シニアアソシエイト

    和泉 佳南子

  • モデレーター

    PwCコンサルティング合同会社
    エクスペリエンスコンサルティング・マネージングディレクター

    馬渕 邦美

デジタルの最前線ではいま、「Web3(Web 3.0)」が注目されている。メールやWebサイトが主体の「Web 1.0」、スマートフォンやSNSがリードした「Web 2.0」に続く概念として登場し、メタバース(三次元仮想空間)、NFT(非代替性トークン)、DAO(分散型自律組織)といった最先端技術を包含するWeb3は、テックジャイアントが独占していたデジタル経済圏の構造を大きく変えて、新たな技術革新をもたらすと期待されている。そんなWeb3をテーマに、渋谷未来デザインの長田新子氏、VRアーティストのせきぐちあいみ氏、BlockchainPROseedの藤本真衣氏、PwCコンサルティングの和泉佳南子氏が意見を交わした。
(モデレーター:PwCコンサルティング 馬渕邦美氏)

メタバースやNFTの急速な普及によりWeb3が瞬く間に到来

写真:長田 新子 氏

パネリスト
一般社団法人渋谷未来デザイン
理事・事務局長
長田 新子

大手通信事業者を経て、2007年にレッドブル・ジャパンに入社。コミュニケーション統括責任者、およびマーケティング本部長(CMO)として、エナジードリンク市場の確立と製品ブランディングに従事した。18年に渋谷未来デザイン理事に就任し、都市の多様な可能性をデザインするプロジェクト活動を推進する。現在はNEW KIDS社代表、Metaverse Japan代表理事、マーケターキャリア協会理事を兼任するほか、キャリア支援活動も行う。

馬渕 このセッションでは、これからのWeb3時代に企業はどのようにイノベーションを実現していくのかというテーマで、Web3に詳しい専門家の皆さんに意見をお聞きします。まずは渋谷未来デザインの長田さんからお願いします。

長田 渋谷未来デザインは渋谷の街づくりのなかで、新たな都市としての可能性を実験・実装していくために2018年に立ち上げた団体です。イノベーション事業とインキュベーション事業を軸に、多様なアプローチで“可能性開拓型”のさまざまなプロジェクトを推進しています。

 今回はメタバース(三次元仮想空間)やWeb3に関連する事業である「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」を紹介します。20年にスタートしたこのプロジェクトは、これからの5G時代を見据え、テクノロジーを駆使した都市の未来像とエンターテイメントの力によって、最先端で、かつアクティブな街づくりを目指すものです。プロジェクトにはKDDIをはじめ多数のパートナー企業が参画し、新たな体験価値を生み出す取り組みを進めています。

 例えば20年1月には、ハチ公前に5G基地局を設置して5GとXR技術により1964年の渋谷が体験できるブースを開設。また仮想空間上に道路や建物を忠実に再現した都市連動型メタバース「バーチャル渋谷」を構築し、ニューノーマル時代のエンターテイメント実験場としてバーチャルからリアルを盛り上げるイベントなどを開催してきました。

 このプロジェクトを推進するなかで見えてきたことは、メタバースやバーチャルを活用した街づくりには無限の可能性があるということです。ただし多彩なコンテンツを実装していくには、コミュニティづくりやガイドラインが必要であることから、21年11月に「バーチャルシティコンソーシアム」、22年3月に「一般社団法人Metaverse Japan」を立ち上げました。これらの団体を起点に、次の時代をつくる活動に取り組んでいきたいと考えています。

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトが開発した「バーチャル渋谷」
図1:渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトが開発した「バーチャル渋谷」

馬渕 いま話のあったMetaverse Japanは、長田さんが代表理事、私が共同代表理事を務め、せきぐちさん、藤本さんもアドバイザーとして参加しています。日本の持っている力を世界に解き放ちたいという思いから、メタバースに関わる主だった人物が集って立ち上げました。

 では続いて、VRアーティストのせきぐちさんから日本におけるNFT(非代替性トークン)やメタバースの取り組みについて紹介ください。

写真:せきぐちあいみ 氏

パネリスト
VRアーティスト
せきぐちあいみ

クリーク・アンド・リバー社所属。滋慶学園COMグループ VR教育顧問、Withingsアンバサダー、福島県南相馬市「みなみそうま 未来えがき大使」を務める。VRアーティストとして多種多様なアート作品を制作しながら、国内外でVRパフォーマンスを披露。2017年にはVRアート普及に努め、世界初のVR個展を開催。21年3月に自身の作品が約1300万円で落札された。Forbes Japanが選ぶ21年の顔100人「2021 Forbes JAPAN 100」にも選出。

せきぐち NFTやメタバースについては日本発の先進的なプロジェクトも数多く立ち上がっています。いずれも小規模なプロジェクトにかかわらず、グローバルで大きな注目を集めています。このようなプロジェクトは一部の人たちの興味だけで終わるものではありません。先ほど長田さんからメタバースやデジタルツインの取り組みについて紹介がありましたが、これからはこうしたデジタル技術によってリアルとバーチャルの境界線は消え、フィールドがさらに広がると感じています。

 例えば21年1月に、夜の鳥取砂丘を舞台にARで月面都市が体験できるというコンテンツの実証実験が行われました。これは月面をバーチャルに体験できることで、リアルの観光産業を盛り上げていくといった効果が期待できます。逆にリアルの世界を3Dスキャンしてバーチャルの世界で再現するといったコンテンツも登場するなど、リアルとバーチャルはボーダーレスになっています。メタバースの世界では環境や地域格差といった問題とも一切無縁です。これはまさに持続可能性、つまりSDGsを実現していると言えるでしょう。

 NFTについてはまだ懐疑的な見方をする人も少なくないので、私は本当に役立つ事例をつくろうと、福島県南相馬市と共同でNFTチャリティーイベントを行いました。このイベントでは、作成したVRアートをライブオークションで購入してもらい、売上を寄付するという形で行いました。NFTとVRアートはこうしたチャリティーイベントととても相性が良いことを実証できました。今では例えばウクライナ支援を目的とするNFTプロジェクトなどもどんどん立ち上がっています。

 NFTやメタバースを中心とするWeb3は、今後ますます広がっていく可能性しかありません。国境、年齢、ジェンダー、障害といった垣根もなくなり、たとえ自分が年齢を重ねて動けなくなったとしても、世界とつながって活躍できるデジタルアクティブな世界が実現されると思います。

グローバルで注目を集める日本発のNFTプロジェクト
図2:グローバルで注目を集める日本発のNFTプロジェクト

馬渕 ブロックチェーン技術を活用してデジタル資産が唯一無二であると証明するNFTは、VRアートをはじめとするデジタルアートにとって必要不可欠な技術です。25年頃にはVRグラスの普及版が登場すると予想されており、その時代になるとオフィスや公共空間を含むメタバース生活圏が確立され、私たちの生活もリアル中心からバーチャル中心へと変わっていくことが考えられます。

 次に藤本さんからWeb3に関する動向を紹介いただきます。

写真:藤本 真衣 氏

パネリスト
BlockchainPROseed
Co-founder
藤本 真衣

国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進(まいしん)。“ミス・ビットコイン”と呼ばれ親しまれている。自身は日本初の暗号資産による寄付サイト「KIZUNA」を立ち上げ、17億円以上の寄付実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動。GMOインターネットをはじめとする国内外企業の顧問も務める。2018年からは国内最大規模のNFTに特化したイベントNonFungibleTokyoを主催。20年以降は事業投資活動にも力を入れており、Sky Mavis社などに出資している。国

藤本 私からはメタバースで雇用が生まれるという海外の事例を紹介します。これまでにもMMORPGやVRチャットのように3Dアバターでコミュニケーションできる場所はたくさんありました。ただし、それらはあくまでもリアルの経済圏と切り離された趣味のコミュニティーでした。ところがWeb3やメタバースを掛け合わせることで、リアルマネーをメタバース上で稼げるようになり、メタバース上の活動で生活する人が実際に出てきました。

 最もわかりやすい事例は「AXIE INFINITY」というSky Mavis社がリリースしたオンラインゲームです。このゲームは“AXIE”と呼ばれる仮想の生き物を購入・育成・取引して対戦させるというものですが、21年第3四半期に月商が350億円を超えています。このAXIE INFINITYは新型コロナウイルス禍によって生活に困窮した人々を救ったということでも大きな話題になりました。実際にゲームを通じて生活費を稼ぐという職業、つまり雇用が生まれたわけです。世界には銀行口座を持たない人が20~25億人いると言われていますが、そうした人たちにもリーチして金融包摂(Financial Inclusion)を実現することにつながるわけです。このようなことが世界では実際に起こっているのだということを、日本の皆さんとも共有したいと思います。

雇用を生み出したメタバース「AXIE INFINITY」
図3:雇用を生み出したメタバース「AXIE INFINITY」

馬渕 いま金融包摂の話がありましたが、日本では政府がWeb3時代を見据えた「NFTホワイトペーパー」をまとめている最中です。日本にはNFTに関するルールが存在せず、税制や法規制によりエコシステムがつくりにくいという課題があります。こうした状況を打破するために、ようやく政府が動き出したところです。

未来を想像しソリューションに落とす「Futures thinkingアプローチ」

写真:和泉 佳南子 氏

パネリスト
PwCコンサルティング合同会社
エクスペリエンスコンサルティング・シニアアソシエイト
和泉 佳南子

米国の大学で土木工学と都市デザイン学を専攻し、学内パブリックスペースのユーザーエクスペリエンス向上プロジェクトや市の都市機能改善プロジェクトを通じてデザインシンキングを学ぶ。ペット関連のスタートアップを経てPwCコンサルティングに入社。現職では新規事業・サービス開発案件やブランディング案件を中心に、ユーザーリサーチ、UI/UXデザイン、ワークショップ設計、アジャイルコーチングなど幅広い領域の業務に従事。

写真:馬渕 邦美 氏

モデレーター
PwCコンサルティング合同会社
エクスペリエンスコンサルティング・マネージングディレクター
馬渕 邦美

大学卒業後、米国のエージェンシー勤務を経て、デジタルエージェンシーのスタートアップを起業。事業を拡大しバイアウトした後、米国のメガ・エージェンシー・グループの日本代表に転身。4社のCEOを歴任し、デジタルマーケティング業界で20年以上に及ぶトップマネジメントを経験。その後、米国ソーシャルプラットフォーマーのシニアマネージメント職を経て現職。経営、マーケティング、DX、エマージングテクノロジーを専門とする。

和泉 パネリストの皆さんからWeb3の取り組み事例についての紹介がありましたが、いまのWeb2企業、例えば個人情報を収集してそれぞれに最適な体験を提供するというモデルでビジネスを展開している企業は、Web3時代に向けてどのようにビジネスを転換していくべきなのでしょうか。

藤本 Web2企業がどのような価値を提供していくのかは、企業によって異なります。従来のビジネスモデルのまま進む企業もあるでしょうし、Web3時代に向けて新たな取り組みを進める企業もあります。Web3に100%移行するのではなく、50%程度取り入れるという企業も出てくるでしょう。

 しかしながら、理解しておきたい大きな違いがあります。Web2時代まではステークホルダーとユーザーは分かれていましたが、NFTが当たり前のWeb3時代になるとステークホルダーとユーザーが一緒になることです。サービスを受ける一方だったユーザー側が、企業の経営に参加してくる可能性もあります。つまり、Web3ではユーザーの共感を呼ぶマインドセットを持って戦略をプランニングし、ビジネスを展開していくことが重要になると思います。

 とはいえ、日本でもものすごいスピードで変化が起きていることには驚いています。政府が進めているNFTホワイトペーパーもそうですが、あっという間にここまで来るとは思ってもいませんでした。

馬渕 Web3時代が到来するとともに、コロナ禍や地政学的リスクが表面化するなかで、企業はどのように未来をキャッチアップしていくべきなのでしょうか。PwCコンサルティングの取り組みについて和泉さんから紹介してください。

和泉 Web3やメタバースなどがここまで短期間で広まると予想できなかったように、専門家でさえも未来に起きる潮流を予測することが非常に難しくなっています。そうしたなか、PwCコンサルティングでは未来像を何とか読み取って、そこからビジネスを生み出していくというソリューションアプローチの開発に取り組んでいます。それが「Futures thinkingアプローチ」と名づけた未来想像型のアプローチであり、バックキャスト型アプローチとデザインシンキングを組み合わせたものです。デザインシンキングでは課題を見つけて解決策を見つける「ダブルダイヤモンドモデル」が有名ですが、そこに未来を見立てる、すなわちビジョンを定義するステップを加え、その上で課題解決につなげていこうという考え方です。

 Futures thinkingアプローチでは、多様な参加者の議論を可視化して合意形成を加速させるワークショップを開催するとともに、PwC独自のフレームワークやツールを使って短時間のうちにプロセスを進めます。このフレームワークには、カスタマーエクスペリエンスの分析にもとづいたデジタル技術によるイノベーションを創出する「BXT(Business eXperience Technology)」も含まれます。

馬渕 Web3やメタバースなどをビジネスに取り入れた未来を予測するために、Futures thinkingアプローチは十分に活用できると思います。パネリストの皆さん、本日はありがとうございました。

PwCコンサルティングが開発した「Futures thinkingアプローチ」
図4:PwCコンサルティングが開発した「Futures thinkingアプローチ」

対談写真

「エクスペリエンス・サミット」のセッションの様子を
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動画

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