リポート5日経電子版オンラインセミナー「エクスペリエンス・サミット」

提供:PwCコンサルティング

[ CX × Experience ]

アフターコロナCX。

トランスフォーメーションBXT加速する

  • パネリスト

    株式会社ファミリーマート
    エグゼクティブ・ディレクター
    チーフ・マーケティング・オフィサー

    足立 光

  • パネリスト

    株式会社ユナイテッドアローズ
    執行役員 CDO マーケティング本部 本部長

    藤原 義昭

  • パネリスト

    PwCコンサルティング合同会社
    エクスペリエンスコンサルティング・
    マネージャー

    Ayaka Wang

  • モデレーター

    PwCコンサルティング合同会社
    エクスペリエンスコンサルティング・
    パートナー

    荒井 叙哉

多くの業種業界で市場競争が激化するなか、製品のコモディティー化が急速に進み、もはや製品の機能や品質、価格だけでは差別化を図ることが難しい時代になっている。一方でデジタルネーティブなZ世代など新たな顧客が台頭し、これまでになかった価値観による消費行動をとるようになった。こうした顧客への価値提供で欠かせないのが、顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)を高める取り組みだ。アフターコロナ時代も見据えたCX向上のアプローチとはいかなるものなのか。ファミリーマートの足立光氏、ユナイテッドアローズの藤原義昭氏、PwCコンサルティングのAyaka Wang氏が意見を交わした。
(モデレーター:PwCコンサルティング 荒井叙哉氏)

顧客起点でトランスフォーメーションに
取り組む先進事例

荒井 まずは顧客体験(CX)をテーマに、ファミリーマートとユナイテッドアローズがどのような取り組みを進めているのか紹介ください。

足立 ファミリーマートには2021年秋まで「FamilyMart」「FamilyMart Collection」「お母さん食堂」という3つのプライベートブランドがありました。ところが、これらのプライベートブランドにはそれぞれ課題がありました。FamilyMart Collectionの場合、商品の作り方や素材の“こだわり”が伝わらないことが課題でした。お母さん食堂は、ネーミングにそぐわないインターナショナルな商品が登場するなど、お客さま視点からわかりにくい部分がありました。さらに、これらのプライベートブランドの新商品を告知する際に「ファミリーマートのお母さん食堂の何何」といったように、コミュニケーションロスの多さにも悩まされていました。

 お客さま視点で考えたとき、プライベートブランドは1ブランドだけにしたほうがわかりやすいことは明らかです。また、FamilyMart Collectionでは“こだわり”が伝わらないし、お母さん食堂のブランドで日用品を展開することはできません。

 そこで新たなブランドへ一新することにし、「ファミマル」というプライベートブランドを開発しました。ファミマルは、ファミリーマートの愛称である「ファミマ」と、「おいしい◎ うれしい◎ あんしん◎」というキャッチフレーズの「マル」を組み合わせたもので、お客さまからのわかりやすさを第一に名づけました。

 ファミマルのパッケージデザインには、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れています。商品のこだわりや安全・安心など、お客さまが一番知りたいことがひと目でわかるアイコンを採用し、商品を直感的に見分けやすい色分けにし、特長が端的に伝わる商品名やコピーをルール化するなど、ゼロから再設計しました。

写真:足立 光 氏

パネリスト
株式会社ファミリーマート
エグゼクティブ・ディレクター
チーフ・マーケティング・オフィサー
足立 光

P&Gジャパン、シュワルツコフヘンケル、ワールドなどを経て、2015年に日本マクドナルド 上級執行役員 マーケティング本部長に就任し、売上V字回復に貢献。その後、ナイアンティック シニアディレクター プロダクト・マーケティング(APAC)としてアジア太平洋地域におけるマーケティングを統括。20年10月にファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)に就任(現職)。

 これにより多国籍化する店員も整然と陳列しやすくなり、お客さまの店頭体験につなげる配慮もしています。さらにプライベートブランドのイメージを向上させるために、わかりやすく話題性のある広告コピーでのコミュニケーションも心がけました。これらはすべて、顧客視点・顧客起点で考えた取り組みです。

ファミリーマートの新しいプライベートブランド「ファミマル」
図1:ファミリーマートの新しいプライベートブランド「ファミマル」

藤原 ユナイテッドアローズには約120万人に及ぶハウスカード会員の顧客基盤があります。何がどこで売れたかといった日々のデータは集まるのですが、お客さまとの継続的な関係性を築くことが難しく、常に新規のお客さまを獲得し続けなくてはいけないという課題がありました。

 この課題を解決するために、この1年で進めたのが「ライフタイムバリュー(LTV)の向上を目的として事実をもとに分析し、ゴールデンルールを見つける」という取り組みです。

写真:藤原 義昭 氏

パネリスト
株式会社ユナイテッドアローズ
執行役員 CDO マーケティング本部 本部長
藤原 義昭

大学卒業後、リユース大手企業に入社。ジュエリー部門に配属となり、鑑定・査定業務や商品の仕入れを担当。その後、同社ECサイトの立ち上げ、および運営の中心メンバーとして参画する。マーケティング、営業戦略、広報、販促、CRM、IT、出店開発などさまざまな部門の業務に従事し、同社における最終役職は執行役員 マーケティング統括部長。2021年4月、ユナイテッドアローズ 執行役員 CDO マーケティング本部本部長に就任(現職)

 具体的には、店舗のスタッフがお客さまとの会話のなかで困り事や要望、意見を集め、それを分析して、キャンペーンではこのような施策を行えばお客さまが喜び、売り上げもアップするだろうという仮説を立てます。またパネルリサーチを実施して、当社で購入したお客さまが全国にどのくらいいるのか、当社のブランドは競合に比べてどのような強みがあるのか、お客さまの興味はどこにあるか、どんなメディアを見ているのかといった調査を行います。さらに会員データを分析し、ある商品を購入したお客さまが興味を示す別の商品を見つけたり、そこから得られた示唆をもとにお客さまにインタビューを実施したりしています。このように仮説を立て、リサーチ、会員データ分析、インタビューを通じて検証し、そこから企画に落として実行、その結果を振り返るというサイクルを回しています。

 これらの取り組みを進めるなかで、例えばパンツ(ズボン)を購入したお客さまはシャツやカットソーの購買率が高くなることがわかりました。これがゴールデンルールの一つです。そこで店舗スタッフは、パンツを試着するお客さまとの会話を増やすといった接客を心がけるようにし、お客さまのLTVを向上させて売上アップにつなげています。

ユナイテッドアローズが目指すライフタイムバリュー(LTV)の向上
図2:ユナイテッドアローズが目指すライフタイムバリュー(LTV)の向上

荒井 ファミリーマートの施策は一目瞭然のわかりやすさ、直感的な伝わりやすさを重視した、素晴らしい取り組みだと感じました。ユナイテッドアローズが実施する定量的なリサーチや定性的なインタビューなどは、PwCのコンサルティングサービスでも重視しています。とくにデザイン思考では、お客さまの課題やインサイトに共感することが大切です。両社のような顧客起点の取り組みは、人間中心のアプローチをビジネスの基盤として考えるPwCも強く共感します。

アフターコロナを見据えて
「リアルとデジタル」を組み合わせた施策の推進

荒井 今回のセッションは「アフターコロナのCX。トランスフォーメーションをBXTで加速する」がテーマになっていますが、新型コロナウイルス禍で顧客のリアル体験が長らく制限された影響は大きいと思います。リアルとデジタルを組み合わせた顧客体験について具体的にお聞かせください。

足立 ファミリーマートではさまざまなメディアを駆使しています。例えば店頭に掲出するボードやポスター、店内放送、ホームページといった「オウンド(自社)メディア」、SNSを使ったPR・パブリシティなどの「アーンド(稼ぐ)メディア」、テレビや新聞などの「ペイド(広告)メディア」があります。コロナ禍の前と後で変わらないのは、オウンドメディアが最も強いということです。毎日千数百万人のお客さまが来店し、必ず見ていただいています。

 ただし、それぞれのメディアの担当者が異なっているため、同じタイミングなのにポスター、ホームページ、SNS、広告の内容が違うといったチグハグなことが起こりがちです。そこで、すべてのメディアを同期させるとともに、顧客視点で最も効果のあるオウンドメディアから順番に一緒に考えていくという方法に切り替え、オウンドメディアもアーンドメディアもペイドメディアも、共通のビジュアル、イメージ、コピーで一斉に発信しています。

 また、すべてのメディアが同期しているかどうかを確認する責任者をアサインし、広告代理店にも店頭のポスターから順番に考え始めるよう仕事の進め方を変えました。

ファミリーマートが駆使する3つのメディア
図3:ファミリーマートが駆使する3つのメディア

藤原 コロナ禍が続くなか、とくに都心部の商業施設ではまだお客さまが戻っていないところもありますが、ユナイテッドアローズの店舗の大半は昨年比で100%を超えるなど、お客さまが増えている状況にあります。その要因として、先ほど紹介したようなお客さまに寄り添った接客も挙げられますが、もう一つ全社で取り組んでいるのが、デジタルを使った施策です。

 これは約120万人のハウスカード会員に限られますが、購入いただいたお客さまにアンケートメールを必ず送信するようにしています。毎週約1000件のフィードバックがあり、このアンケート結果をもとに購買に結びついた顧客体験が何か、どのように接客すればお客さまに喜んでいただけるかといった分析を行っています。もちろん、データの集計結果を見ただけではダメなので、お客さまからの回答を全店舗のスタッフに展開し、スタッフのモチベーションを高めたり、改善点を見つけたりすることにも活用しています。

ユナイテッドアローズではアンケートメールを通じて顧客体験を探索
図4:ユナイテッドアローズではアンケートメールを通じて顧客体験を探索

写真:Ayaka Wang 氏

パネリスト
PwCコンサルティング合同会社
エクスペリエンスコンサルティング・
マネージャー
Ayaka Wang

総合商社の経営企画を経て、マネジメントコンサルティング会社 中国支社の立ち上げプロジェクトに参画し、組織戦略、人材開発に関するコンサルティング、ソリューション営業に従事。その後、PwCコンサルティングに入社。エクスペリエンスコンサルティング・マネージャーとして、デザインリサーチ、エクスペリエンスデザイン、ワークショップデザイン、ファシリテーターなどの業務を担当する。

写真:荒井 叙哉 氏

モデレーター
PwCコンサルティング合同会社
エクスペリエンスコンサルティング・
パートナー
荒井 叙哉

大手外資系消費財メーカー3社で10年以上、ブランドマーケティング、トレードマーケティングなどの実務を経験。専門は人間中心型のBXTアプローチに基づくエクスペリエンスコンサルティング、およびマーケティング領域のビジネスコンサルティング。ブランド戦略策定、顧客インサイト、カスタマーエクスペリエンス設計、プロトタイピング、新商品・サービスや新規事業の開発など、エクスペリエンスデザイン全般の業務を担当する。

荒井 ここで、PwCコンサルティングが顧客視点のコンサルティングを進めるうえで基本的な考え方としている「BXT(Business eXperience Technology)」アプローチについて、Wangさんから紹介してください。

Wang BXTとは、ビジネスとエクスペリエンス、テクノロジーの視点を持ったプロフェッショナルが結集し、お客さまとともに協業する考え方、仕事の仕方、エンゲージメントの作り方といったPwC独自のアプローチのことです。お客さまと会話やコラボレーションをしながら、信頼関係を構築し、新しいプロダクトやサービスのデザイン、ブランドデザインの取り組みを支援しています。

 今回のテーマであるCXについては、人間中心のデザインにより理想的な顧客体験を実現し、それをビジネス変革に結びつけるために、課題の定義、ユーザーリサーチ、コンセプト・プロトタイプ作り、テストを短いスプリントを繰り返すアジャイル型の支援をしています。例えばカスタマーエンゲージメント向上のためのアプリケーションをローンチし、その利用促進のためのプロモーション施策を打ったとしましょう。顧客起点や人間中心の視点を欠くと、顧客から「なぜ買い物をするのにこのアプリケーションを使わなければいけないのか」「この企業は本当に私たち顧客のことをわかっているのか」といった否定的な反応が返ってくることがあります。これに対してPwCでは、顧客起点でスプリントを回す中で、コンセプト開発段階から徹底的なユーザーリサーチを行い、ユーザーテストを繰り返しながらプロダクトやサービスをブラッシュアップしていきます。

 このようにエンドユーザーをデザインプロセスに巻き込み、ローンチ後のコミュニケーションも「使いやすいように一緒に試してみましょう」「操作してみましょう」という顧客エンゲージメントを高めるアプローチをとります。こうして最初から最後までエンドユーザーを巻き込みながら、顧客関係を構築・向上させていくわけです。

 PwCのBXTアプローチは、リサーチ、コラボレーション、ビジュアライズという3つのデザインケイパビリティーを活用し、ビジネス戦略から実行までを支援するところに強みがあります。とくに日本企業には組織横断な連携がしづらい部門最適なケースが多いので、コンプライアンス、マーケティング、セールスなど異なる部門の当事者を集めてワークショップを開催し、顧客リサーチ結果やデータを見ながら“顧客を見る目線”をそろえるといった取り組みも支援しています。

PwCではデザインのケイパビリティーを活用し、ビジネス戦略から戦術までを支援
図5:PwCではデザインのケイパビリティーを活用し、ビジネス戦略から戦術までを支援

荒井 今回のパネルディスカッションでは、ファミリーマートの足立さん、ユナイテッドアローズの藤原さんに、生々しいビジネス現場のお話をしていただき、テーマである顧客体験に関するたくさんの示唆が得られました。本日はありがとうございました。

集合写真

「エクスペリエンス・サミット」のセッションの様子を
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動画

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