地域経済の浮上のカギは地方銀行の連携と企業版ふるさと納税 地域経済の浮上のカギは地方銀行の連携と企業版ふるさと納税

地域経済の低迷に伴い、地方銀行や信用金庫・組合の経営も苦境に立たされている。この厳しい現状の中で、各地の金融機関の連携や企業版ふるさと納税の活用によって、地域企業・経済の再生、活性化に取り組んでいるのが、2019年創業のRCGである。地方銀行でキャリアを積んだ同社の代表取締役CEO 天間幸生氏に、その狙いと背景を聞いた。

バンカーとして地方銀行の存在意義を見直したい

―創業前、東北と北海道の地方銀行ではどのような業務をされていたのでしょうか。

私は大学卒業後、1995年に地元・青森のみちのく銀行に就職しました。バブル崩壊後で県内はどこもシャッター街と化し、地域経済の落ち込みぶりを痛感しました。入行10年目にロシアのハバロフスク支店に転勤となり、2007年に支店長となるのですが、ロシア経済の活気ぶりに驚きました。当時、ロシアはBRICsと呼ばれる経済の新興国として成長中だったのです。

帰国後、08年に北海道銀行に転職し、国際部で日本企業のロシア進出を支援するようになりました。しかし、銀行では活動できる範囲が限られ、当事者になりきれません。そこで、社内ベンチャー制度を活用して全国で初めての銀行系地域商社となる北海道総合商事を設立しました。その結果、商品の仕入れや販売業務が可能となり、進出企業への支援の幅が大きく広がりました。

―その後、なぜRCGを創業されたのでしょうか。

北海道企業のロシア進出を中心に手がけていたのですが、そのうち東南アジアへも業務が広がりました。そうなると、北海道銀行と北海道総合商事だけではリソースが限られます。海外にビジネスのフィールドを広げるためには、金融機関が水平連携するプラットフォームの必要性を実感しました。そのプラットフォームこそが、RCGなのです。

RCGはRegional Company Groupの略で、地元の金融機関を通じた地域企業の支援がミッションです。地方における持続可能な事業モデルを構築し、地域間連携に基づく地方再生を目指しています。地方銀行が担う重要な役割の1つに、取引先である地域企業の活性化があります。地銀のバンカーとして、その存在意義を見直したいという思いもありました。

RCG

代表取締役 CEO

天間 幸生

RCG 代表取締役 CEO 天間 幸生氏

地域企業の海外進出と国内の売り上げ支援につなげる2つの事業

―その事業モデルの第1弾である金融機関連携型デジタルプラットフォーム「SELAS」は、どのような仕組みでしょうか。

日本企業の海外進出支援に特化し、海外企業とのビジネスマッチングとショッピング機能を持つ国内初のシステムになります。SELASはギリシャ語でオーロラを意味します。中小企業に輝いてほしいという願いと逆から読んだ時には「SALES(セールス)」と読める、つまり販売支援機能を掛けたネーミングとなっています。

地方の中小企業にとって海外進出はまだまだハードルが高い。しかし、SELASを利用していただければ、すべてオンラインで海外のビジネスや企業情報の入手、商談、輸出入の実務まで支援します。現在、15カ国・地域に30人の専任コーディネーターを設置しており、外国語も含めてサポートしていますので、企業は日本語のみで参加が可能です。SELASは全国13の金融機関と提携しており、各金融機関は国内側サポーターとして企業を支援しています。

―その次には、地域産品相互販売事業「BANKER'S Choice」を立ち上げられました。

新型コロナウイルス禍もあり、新たに海外ビジネスを進めるのが難しい状況です。そこで、まずは国内での販売を促進しようと始めました。地方金融機関は、地元一押しの逸品に詳しいですから、その知見と情報を活用して地方の事業者と消費者をつなぐ狙いです。

現在、提携している全国25の金融機関に商品提供企業を誘致していただいています。ご紹介いただいた商品は自社制作のカタログやECサイトへの掲載を通じて販売をしています。カタログは提携金融機関の窓口に設置され、店舗の職員がお客様に商品を紹介します。21年6月からスタートし、商品提供者は200を超えました。また、最近では企業が従業員に提供する福利厚生の一環としてご利用いただくケースも多くなってきています。

―このBANKER'S Choiceを、企業に対して福利厚生の一環として販売するというのは画期的なサービスですね。

これはある信用金庫が開催した総代会で、参加した経営者が「コロナ禍で社員旅行やイベントなどを実施できないので、社員への福利厚生に使いたい」と発言したことがきっかけでした。そこで、5000円と1万円(ともに税抜き)の2コースを設定し、企業が従業員の人数分を購入し提供すれば、従業員はカタログから好きな商品を無償で受け取れることにしたのです。企業にとっても福利厚生費として活用できるケースがあるので、税効果等のメリットがあります。

提携金融機関にはその販売をお手伝いいただき、契約が成立すると、広告宣伝費として金融機関に手数料が支払われます。この支払料率に工夫を凝らし、地元以外の商品、つまり他行が推薦した商品を販売した方が手数料を高く取れるようにしました。その結果、金融機関同士の連携が強くなり、各地の産品が売れるようになりました。

企業版ふるさと納税の推進がEVスタンド普及の手助けに

―このBANKER'S Choiceと「企業版ふるさと納税」を組み合わせたサービスも展開されています。そもそも、企業版ふるさと納税とはどのような制度なのでしょうか。

個人版ふるさと納税が広く普及しているのに対して、企業版はほとんど活用されていません。2020年度の受入金額は個人版が約6725億円であるのに対して、企業版は約110億円です。企業が自治体に寄付することにより地域を活性化する目的で制定されましたが、個人版と比較して制度自体の認知度がまだまだ低い状態です。企業版は、寄付額のうち約3割が損金算入され、ふるさと納税の特別措置でさらに最大約6割が税額控除されるので、実質最小約1割負担で寄付ができるという仕組みです。

当社では、地方自治体および全国の金融機関との提携を通して、企業がふるさと納税に取り組みやすい「BANKER'Sふるさと納税」という仕組みを考案しました。「BANKER'Sふるさと納税」で寄付した場合、納税企業に対して「RCG SDGsポイント」が付与されます。納税企業はポイントを利用することで、前述のBANKER'S Choice福利厚生を割引した特別価格で利用することが可能です。これにより、企業版ふるさと納税での地域貢献はもちろん、BANKER’S Choice活用による地域貢献という相乗効果を生み出すことができます。

―企業版ふるさと納税制度を活用した電気自動車用の充電インフラ整備にも取り組まれているようですね。

世界中で電気自動車(EV)シフトが進んでいる一方、日本の充電インフラ整備は遅れています。急速充電器の設置やメンテナンスにコストがかかるためです。そこで、企業版ふるさと納税の寄付金を活用して、懸念される費用面をカバーできると考えました。

充電インフラ整備事業は、寄付をする企業にとっては自動車関連企業や物流関連企業といった直接関連する企業だけでなく、充電インフラが設置されることで集客が見込めるコンビニやスーパー、レジャー施設など、より広い業種の企業に喜んでいただけます。もちろん、自治体や地元企業、住民にとっても役に立つものです。25年には4000基、30年には1万2000基の設置を目指します。この数字は、政府の設置目標の半数を本事業が担う想定で設定しました。本年度から本格稼働したサービスではありますが、すでに複数社から寄付を得ています。今後さらに周知を広げ、導入いただける自治体・企業を増やしていきたいと考えています。

地方金融機関は取引先の業務やニーズに詳しいので、ぜひ経営者の方々に企業版ふるさと納税は地域社会に貢献し、様々な付加価値を高められるという理解を広めてほしいと考えています。地域に元気が生まれれば、日本全体も活性化するのですから。

RCG 代表取締役 CEO 天間 幸生氏

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株式会社RCG