提供:NIKKEI Realestate Summit 2023特集

都市の未来を展望する大型サミット NIKKEI Real Estate Summit 2023

不動産の力で、
社会課題を超えていく

日本経済を再び上昇基調に乗せるために不動産が果たす役割とは。生活者の価値観やライフスタイルがますます多様化し、また様々な社会課題が顕在化する中で、日本の不動産業界はどのように対応していくのか。

#02 NIKKEI PropTechConference 不動産イノベーションの最前線を探る

PropTech(不動産テック)がもたらすイノベーションは、生産性向上だけでなく社会問題の解決にもつながる。新たな価値創出に求められる社会基盤と企業がとるべき姿勢について、業界をけん引する有識者が語った。

基調講演「不動産における『イノベーション』とは何か」から考える今後の不動産業~bridging actors & valuing innovation~

東京大学 不動産イノベーション研究センター(CREI) 特任研究員長瀬 洋裕

「気づく」面白さ、社会で育むイノベーション

イノベーションは新しい製品やサービスそのものではなく、「発想を転換し、新たな価値を生むこと」自体を指す。使い古された技術でも、新たな活用法に気づき、生み出した価値で社会を前進させればイノベーションとなる。新旧二つの社会のはざまにある概念ともいえるだろう。

では、PropTech(不動産テック)は不動産業界にどのような価値と革新をもたらすのか。例としては、コストやコミュニケーションの負担削減が挙げられる。業務効率の改善によって生まれた余剰や顧客タッチポイントの変化は、従業員のウェルビーイングの改善、新たな投資機会、顧客体験の改善となるだろう。民泊・リモートワークなど住居以外の場所として活用したい人と所有者のマッチングサービスや不動産投資の小口化で、不動産の流動性を向上し、新たな資産価値を創出した事例もある。次の段階としては、多様なサービスが生まれて便利になったPropTech同士の情報共有を期待したい。業界が保有するデータをビッグデータ化し活用できれば、不動産業界の財産になるのみならず、社会問題を解決する。

イノベーションの活性化には、「価値に気づく」面白さを浸透させ、変化を楽しめる社会を育まなくてはならない。また、経済やコミュニティーだけでなく、物理的環境も欠かせない。仕事や住居、レクリエーション施設が効率よく集約した、時間や人生の価値を最大化できる街づくりも重要になる。

STI(Science, Technology, Innovation)の概念を統合したイメージ
イメージ図

サムネイル画像
NIKKEI CHANNELNIKKEI PropTechConference 基調講演
アーカイブ動画の再生はこちら

企業講演1不動産市場向けSaaSの最新傾向と、不動産市場、フィンテック、そして地方創生に融合と革新をもたらす真の不動産テック

いい生活 代表取締役社長 CEO前野 善一

DX加速 業務「標準化」で

国内不動産市場の特性として、中小事業者が全国各地に多数所在する点がある。法律上、各社の業務フローは類似しているものの、大半が独自の業務プロセスやルールを持つ。従来はそれらを「部分最適」するマイクロSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)でのDX(デジタルトランスフォーメーション)が盛んだったが、コア業務の本質的な課題に対しては効果が薄かった。

IT(情報技術)を活用した重要事項説明解禁などの相次ぐ法改正により、DXの流れが加速する今、求められるのは、各業務をシームレスに連携させる、業務一体をカバーする構造化されたSaaSだ。モノ、ヒト、カネのデータを一元管理することで、消費者ニーズへの柔軟な対応や生産性向上が期待される。

SaaSの活用には業務を「標準化」し、システムに落とし込む必要があるが、その恩恵は作業効率の改善だけにとどまらない。一連の工程をデジタル化することで、敷金や空室期間、顧客の属性、入居中や退去時のコストなどあらゆるデータが蓄積。不動産の長期的な価値や自社の課題や強みの分析が可能となる。不動産市場とフィンテックのシナジーは今後ますます高まりを見せ、人の決断を後押ししていくはずだ。

SaaS+コンサルティング
イメージ図
SaaSの提供にとどまらない「プロセスの設計と標準化」とその先をサポート
サムネイル画像
NIKKEI CHANNELNIKKEI PropTechConference 企業講演①
アーカイブ動画の再生はこちら

企業講演2全国500社導入現役不動産営業が作成した地図型DXツール

ネットデータ 代表取締役 松岡 明

二つの知見で機能を絞る

不動産企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)では、不動産とIT(情報技術)の両分野に精通した人材確保が成功のカギを握る。

DXの失敗パターンとして、複雑すぎるシステムの導入がある。肥大化の原因は主に二つ。一つは開発者が不動産業務を知らず、現場が求めていない要件まで事細かに盛り込んでしまうこと。もう一つは、現場社員がITに疎く、デジタル化に不向きな業務までシステムで解決しようとすることだ。結果、現場と開発者で認識の相違が生じ、実用性のないシステムとなる。

特定の課題解決に機能を絞り、設計をシンプルにするほど、現場で定着しやすい。機能の取捨選択には現場社員がどのような課題を抱え、どう解決するか、不動産業とIT両方の知見から判断する必要がある。少なくとも各業界で5年程度の経験は欲しいところだ。

営業社員の業務のうち、顧客対応の時間は全体の2割とされる。利益に直結しない業務をいかに削減するかが生産性向上の勘所となるが、すべてをデジタル化する必要はない。業務フローの見直しや分業化など、アナログでの業務改善に取り組みながら、要所要所でDXを進める。ときには業務自体をDXに適した内容へ変えていくなど、柔軟な視点を持って挑みたい。

DXツールの導入で
成功したもの:シンプルなもの、単機能なもの、失敗したもの:複雑なもの、使いづらいもの。数百万円以上かけて導入したシステムが使えなかったことも何度も……
不動産DXツールを活用するには……
不動産の専門:不動産について理解が深く、不動産の要件を整理できる+プログラミングの専門:整理された要件をもとに自ら作成できる。両方を兼ね備えた人材が必要(それぞれ5年前後ずつを目安)
サムネイル画像
NIKKEI CHANNELNIKKEI PropTechConference 企業講演②
アーカイブ動画の再生はこちら