提供:セールスフォース・ジャパン

国内2万1000店を支えるIT基盤 AIとデータの融合でさらに進化

セブン‐イレブン・ジャパン
執行役員システム本部長

西村 出

多用なシステム業務経験を経て2014年からセブン&アイ・ホールディングスに出向、19年4月入社し、現在に至る。セブン‐イレブン・ジャパンでは、業界を先駆けたインバウンドシステムを企画、SFDC、GCPなどマルチクラウドを活用したDXを積極的に推進し、20年には災害対策システム「セブンVIEW」、リアルタイムデータ基盤「セブンセントラル」構築等が評価され第1回Google Customer Awardを受賞。

レガシーシステムの崖をクラウドサービスへの切り替えを通じていち早く乗り越え、今もDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略のトップランナーとして走り続けるセブン‐イレブン・ジャパン。店舗の発注業務を支援する需要予測や商品企画などで生成AI(人工知能)の活用にもいち早く着手している。これからの生成AIの可能性やそのために必要なデータ基盤について、西村出・執行役員システム本部長に聞いた。

chapter 1

クラウドでシステム刷新

――セブン‐イレブン・ジャパンはデータドリブン経営の代表格と言われています。それを支える先進的なIT基盤を構築していますが、それ以前、どのような課題があったのでしょうか。

「私たちのDNAの一つが単品管理です。1980年代にはPOS(販売時点情報管理)データを活用した、オーナー様の経営を支援するシステムなどをいち早く構築していました。しかし、2000年代に入り、インターネットを活用したサービスやスマートフォンの普及により国民生活の中にITサービスが浸透してくると、世の中の技術の進歩と私たちが企業として抱えてきたシステムとの間に乖離(かいり)ができるようになってしまいました」

「私たちが大事にしているもう一つのDNAである変化対応、お客様の思考やニーズの変化にいかに早く対応するかという点でも、レガシーとなったシステムでは変化になかなか追いつけないという状態でした」

――経済産業省が18年のDXレポートで指摘した「2025年の崖」がいち早く到来した訳ですが、どう乗り越えたのでしょう。

「目を付けたのが、当時普及し始めていたSalesforceに代表されるクラウドサービスでした。今もパブリッククラウドを活用しながらレガシーなシステムの再構築に取り組んでいますが、業務システムのクラウド化を進めると、これがデータのプラットフォームとしてもかなり有益なものだということが分かってきました」

「従来のオンプレミス・システムではベンダー様への依存度が高く、分析に必要なデータも毎回ベンダー様に依頼しないと抽出できない状態でした。私たち自身がアーキテクチャーに踏み込んで主体的に開発し、クラウド上にリアルタイムデータを蓄積する現在のやり方に切り替えたことで、データを自由にコントロールすることが可能になりました。今では私たち自身が新しい技術を使うことをしっかり宣言をし、パートナー企業に賛同してもらいながら、システムをつくっていくことが重要だと再認識しています」

――この経験を踏まえて「2025年の崖」をクリアするためのアドバイスはありますか。

「すべてゼロから作るのではなく、クラウドサービスの圧倒的なその処理能力やデータ容量、安全性をうまく利用することが重要であり合理的だと考えています。自分たちが用意したマシン以上の性能が出せないというインフラの構築と維持の呪縛から解放されることで社内のリソースをアプリケーション開発など他の仕事に集中することができると考えています」

「例えば、国内約2万1千を超える店舗のPOSデータをリアルタイムで処理するデータ活用基盤『セブンセントラル』の場合、例えばおにぎりにおいては、1秒間に約60個以上の販売データであり、1日全体では約100億レコード・約3テラのボリュームを平均的にさばいています。それら高速で集まるデータを有効活用するために、人間の目だけではなく、ダイナミックにAIを活用して様々な分析をする取り組みも始めています」

1日3.2テラバイト 『セブンセントラル』の平均処理能力
chapter 2

AIが様々部署の会議に参加

――生成AIにも積極的と聞いています。具体的な活用例を教えてください。

「一つ目が需要予測AIです。23年3月からフランチャイズチェーン(FC)加盟店様向けの発注支援システムとして需要予測AIを全国展開しています。過去13カ月分の蓄積データや気象データに、店舗サイズなどの個別データを組み合わせて適正な発注リストを提案するというもので、提案をもとにオーナー様が発注量を決定することができる仕組みです。現在はオリジナルフレッシュフード以外の商品が対象ですが、将来的にすべての商品に対応できるよう挑戦をしているところです」

「発注業務の負担を軽減することでその分を接客などのフレンドリーサービスの強化に充てることができます。さらに、売り切れによる機会ロスや廃棄ロスという二つのロスを減らす面にも寄与しています。オーナー様からは『助かっている』という声をいただいており、私たちのモチベーションにもつながっています」

フォト:西村 出氏

「もう一つが商品企画での生成AI活用です。考えていることを人に伝えたり、整理したりする行為を生成AIで省力化し、考える時間を増やす取り組みです。今は試行期間ですが、加盟店様向けにご案内している商品概要資料の自動作成など一部の業務では実際の活用が始まっています。

また、特定の議論も先に生成AIにディスカッションさせ、ある程度その結果が出てきてから人間が本当の会議を始めるようにすることで、会議時間を短縮する取り組みも始めています。複数のAIにそれぞれ『批判する人』『コストに厳しい人』など5つ程度のキャラクターを与えることで議論が始まり、次に『経営者目線で批判を』『プランナー目線で改善案を』といった指示を出すと別の案が示されたりもするので、人間だけでやってきたことに比べればだいぶ時間の短縮ができます。議論の過程はテキストベースでみることができ、従来の人だけの会議の最初の1、2回分の内容は生成AIでたどり着いてしまう感覚です」

「テキストだけでなく、音声や画像、動画などを複合的に生成できるマルチモーダルAIにも注目しています。映像をつくるための撮影が不要になり、言葉で説明するだけで、オリジナルの動画をつくれるようになる可能性があり、複数のAIエンジンで試行しているところです。今後は生成AIで生み出したもののオリジナリティーや商標をチェックする機能も必要になってくると思いますが、いずれこうした面を担うAIも出てくるでしょう」

――生成AIの活用範囲を広げていくうえで、どのような点に留意すべきでしょう。

「気を付けなければならないのはプロンプトの書き方によってAIが導き出す結論を恣意的に動かせることです。だからこそ、リテラシーや公平性という視点が重要になります」

――AIを使ったデータ活用ではどんな工夫をしていますか。

「安全に複数の生成AIが活用できる当社専用のプラットフォームを『Google Cloud Platform』上につくりました。社員しか使えないように完全に鍵の掛かった閉鎖的で安全性の高いデジタル空間で、『セブンセントラル』やSalesforceなどの社内データやSNSなどの社外データと適切なAIをつなぐことで、AIを仕事に役立ててもらえる環境を提供しています。その中にAIを活用するためのプロンプトや結果も蓄積していき、再利用できるような環境を目指しています」

「データが手元にあるといっても、一般の社員が必要なデータを取り出して利用するためにはシステム部門を頼る必要があります。そのため、社員の要望を生成AIが理解し、データを入手するための言語に自動変換してAIライブラリーを介して簡単に入手できるようにしているところです」

フォト:西村 出氏
データを真に民主化したものに育てる
chapter 3

「信頼」はAI時代のキーワード

――データの信頼性や安全性についてはどうですか。

「生成AIが事実と異なるもっともらしい情報を生むハルシネーションを過度に警戒して立ち止まるのはあまり合理的な判断ではないと思います。今は生成AIの良さを引き出す使い方の啓発に力を入れています。ただ、生成AIの活用がマルチモーダルになり、様々な部署で成果物を利用するようになると、トラスト(信頼性)が重要になるし、チェックもしていかなければならないため、それらは注意すべきポイントになってくるでしょうね」

「そのため、Salesforceがデータと生成AIをうまくつなげるグラウンディングの部分に力を入れているのはとても良い戦略だと思います。Salesforceの『Data Cloud』というプロダクトを使えば無駄な作業なく連携できるため、データの移動がなくセキュリティーの面でも安心できます」

――AI時代にデータ活用基盤を構築する上で重視しているのは何ですか。

「『セブンセントラル』で目標としたのは在庫に関するリアルタイムデータ基盤をつくることでした。目標や用途が決まるとサービスのロジックまで基盤に入れたくなってしまうのですが、そうなるとシステム同士が複雑に絡み合う『スパゲティ』状態になる懸念があるため、ピュアなデータ基盤でロジックは外に持たせることを徹底しました」

「あくまでデータ基盤はデータ基盤であり、マスターではないということをしっかりと定義づけることも必要でしょう。マスターはいわゆる台帳でセブン‐イレブンに必要なデータをすべて記録する一方、データ基盤はあくまで特定のサービスや業務でデータをクイックに活用するための道具です。計算式や単位を排除し、なるべくローデータのまま持つことにより、すぐにデータが活用できるようにすることが重要です。これらを徹底したことで、純粋で超高性能なデータ基盤に育てることができています。ここはデータ活用基盤を構築する上でとても重要な視点だと思っています」

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