提供:SAPジャパン

企業競争力を高める「ビジネスコスト改革」先進企業のトップが明かす、成功の秘訣とは?企業競争力を高める「ビジネスコスト改革」先進企業のトップが明かす、成功の秘訣とは?企業競争力を高める「ビジネスコスト改革」先進企業のトップが明かす、成功の秘訣とは?

先が読めない時代の中で、成長戦略を力強く歩む企業がある。製造業大手の荏原製作所と日東電工だ。構造改革によりビジネスコストを削減し、競争力強化を実現した。時に痛みを伴うチャレンジを、両社はどのように成功させたのか。荏原製作所の浅見 正男氏、日東電工の大脇 泰人氏と、経営コンサルタントの遠藤 功氏、SAPジャパンの牧野 仁氏が語り合った。

高止まりするビジネスコストが競争力強化の阻害要因に

牧野2000年ごろに間接材の購買改革が注目を集めて以来、「ビジネスコスト」の削減は日本企業にとって重要な経営課題の1つであり続けています。以前は「文具」などの消耗品を中心とした狭い改革でしたが、現在は「設備」「役務」なども広義の間接材として含めることで大きな効果を得られています(図)。ビジネスコスト改革が進まないと、企業にはどのような問題が起こるのでしょうか。

株式会社シナ・コーポレーション 代表取締役 遠藤 功氏
株式会社シナ・コーポレーション
代表取締役
遠藤 功

遠藤収益が圧迫され、新しいことにチャレンジできなくなるのが最大の問題と言えます。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みがよい例ですが、新しいことにチャレンジできないと組織の現場力は低下していきます。経営戦略が同質化しがちな現代において、現場力はきわめて重要な差別化要因です。そこを向上できなければ、競争力強化に向けた大きな足かせになるでしょう。


図 「ビジネスコスト」の例

図 「ビジネスコスト」の例

企業の支出の中で、直接材を除くすべての支出が「ビジネスコスト」に当たる。消耗品のほか事業設備、業務委託などの役務、旅費、通信・IT製品、広告なども含む


牧野荏原製作所様と日東電工様はビジネスコスト構造にメスを入れることで、企業変革を推進しています。その背景や狙いを教えてください。

株式会社荏原製作所 取締役 代表執行役社長 浅見 正男氏
株式会社荏原製作所
取締役 代表執行役社長
浅見 正男

浅見荏原製作所は風水力事業、バイオマス発電などの環境プラント事業、半導体製造装置などの精密・電子事業を通じ、豊かな社会・暮らしづくりに貢献しています。

以前は3年ごとに経営計画を策定していましたが、変化の激しい現代に対応するため、2020年に長期ビジョン「E-Vision2030」を策定しました。ここでは10年後のありたい姿と目標を掲げ、温室効果ガスの削減や世界中にきれいな水を届けるといった社会課題の解決を事業の柱に据えました。このビジョンの実現には製品・サービスの一層の強化が不可欠です。そのためには収益性を向上させることが必要でした。そこで、ビジョン策定と同じころから、グローバルのビジネスコスト改革を断行してきました。


日東電工株式会社 専務執行役員 CIO サステナビリティ本部長 大脇 泰人氏
日東電工株式会社
専務執行役員 CIO サステナビリティ本部長
大脇 泰人

大脇我々日東電工は包装材料、半導体関連材料、光学フィルムなどを開発・製造しています。経営理念に掲げているミッションは、お客様の価値創造に貢献すること。そのために「三新活動」と「グローバルニッチトップ™戦略」を推進しています。三新活動は「新用途」を開拓し「新製品」を開発することで「新需要」を創造し、成長を目指す活動。グローバルニッチトップ™戦略は固有の差別化技術を生かし、優位性を発揮できる分野でシェアナンバー1を狙う戦略です。

これらの活動を支える“筋肉質のビジネス基盤”をグローバルで確立するため、2016年に全社業務改革プロジェクトを立ち上げました。その一環として間接材購買改革、BPO(Business Process Outsourcing)改革、物流・倉庫改革によるビジネスコストの最適化に取り組んでいます。


強いリーダーシップと「現場力×DX」がカギ

SAPジャパン株式会社 インテリジェントスペンド事業本部 第一営業部 部長 牧野 仁氏
SAPジャパン株式会社
インテリジェントスペンド事業本部 第一営業部 部長
牧野 仁

牧野改革によって、これまでどのような成果が上がっているのでしょうか。

浅見従来、間接材の調達・購買は事業部に閉じた形で行っていましたが、現在はグローバルレベルで事業部・子会社との連携が密になり、情報の可視化が進みました。

大脇当社は間接材購買の集約化やムダの削減を進めた結果、間接材コストが改革当初、年間約1億円削減できました。また、間接業務の管理が強化できたことで、アウトソーシングサービスは0.1工数単位での管理が可能になりました。この成果も非常に大きいです。

牧野着実に効果を出しながら改革を進めていらっしゃいますね。しかし、そこまでの道のりは決して平坦ではなかったと思います。どんな課題を、どのように乗り越えたのですか。

大脇大事なのは小さな成果を積み重ねることだと思います。成功体験によって社員のモチベーションが保てますし、意識も前向きなものに変わっていくからです。

弊社では「支出の可視化」「サプライヤーの集約化」「調達業務のハイバリュー化」という3つの目標を掲げてビジネスコスト改革を進めました。具体的には、サステナブル調達プラットフォームを整備して業務を標準化し、マスタデータ管理も一元化しました。これにより、間接材購買の「見える化」のカギを握る調達部門通過率も45%まで向上。カタログ使用率も高め、グローバルにおける調達品の管理統制を強化できています。

また、調達部門主導で調達すべきものとそうでないものの仕分けが進んだ結果、メリハリのある調達・購買が可能になりました。経験豊富な自社のバイヤーは重要度の高い調達業務に注力し、そのほかは大きく自動化・アウトソーシング化しています。

浅見私は、ビジネスコスト改革には3つの「壁」があると思います。調達人材の壁、事業間・グループ会社間の壁、そして自社とサプライヤーとの間の壁です。

調達人材は「業務が回っているのだから、変える必要はない」と考えます。事業間・グループ会社間では「事業内できちんとやっているのに、なぜ追加の仕事をやらなければいけないのか」。そしてサプライヤーは「より安く調達したいから厳しい要求を突き付けてきているのだろう」と考えます。これらが改革の阻害要因になるのです。

しかし、ビジネスコスト改革はより大きな経営ビジョンの実現に欠かせない取り組みです。それを理解してもらうには、トップが自らか変わることが重要だと私は考えています。当社の調達部門とサプライヤーが参加する間接材調達カウンシルに私も参加し、1年間にわたって改革の必要性を説きました。その結果、ビジョンへの理解が進み、3つの壁が次第に薄れていきました。今では現場側から改革推進に向けた意見が出てくるようになりました。

遠藤ビジネスコスト改革では「現場」が主体的に動き、変えていくかがポイントとなります。それには経営トップが強いリーダーシップを発揮すること。そしてビジョンの実現を支える最適なパートナーと組み、デジタル技術を積極的に活用することが不可欠です。このようにして、現場力とDXの両輪で改革に挑む。これを実践していることが両社の成功要因だと思います。

牧野氏、浅見氏、大脇氏、遠藤氏

ビジョンを共有するパートナーとDXを推進

牧野ビジネスコスト改革の先にあるDX戦略については、どのような取り組みを進めていますか。

大脇当社は昨年「Rebornプロジェクト」と銘打ち、SAPジャパンのサポートのもと、国内基幹系システムを刷新しました。基幹系システム以外にも調達・購買システム「SAP Ariba」や経費精算システム「SAP Concur」などのSAPクラウドサービスを導入しました。これらを活用し、デジタルによる業務改革を加速していきます。

浅見地球環境を守りながら、持続可能な社会をつくる。この取り組みには当社だけでなく、パートナーやサプライヤーの協力が不可欠です。自らDXを推進するとともに、デジタルを軸に多くのパートナーやサプライヤーとのつながりを強化し、より良い社会の実現を共に目指していきたいと思います。

遠藤ビジネスコスト改革は単なるコスト削減ではなく、経営リソースの配分を見直すことです。今まで当たり前のように使ってきたお金、時間、エネルギーをスリム化するとともに、前向きで新しい価値を生み出す活動にシフトする。特に現在は、ビジネスで扱われる間接材の種類や数がどんどん増えている状況です。それらを確実に「見える化」し、最適なコストを見極める。これが、その先のDXを加速する上で不可欠です。

牧野我々SAPジャパンはシステム提供だけでなく、お客様のパートナーとして、経営ビジョンやDX戦略の実現をお手伝いします。荏原製作所様、日東電工様の取り組みでも、経営基盤の構築やそれをベースにした業務改革をご支援しました。今後も、両社のビジョンの実現を引き続きサポートするとともに、より多様な業種のお客様のビジネスに、デジタルの側面から貢献できればと思います。

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