提供:札幌市

大札新

札幌市企業誘致セミナー どうする札幌-大札新と半導体が札幌を動かす-

2023年12月13、14日の2日間にわたり、札幌市企業誘致セミナー「どうする札幌-大札新と半導体が札幌を動かす-」(主催:札幌市、日本経済新聞社イベント・企画ユニット)が開催された。北海道は次世代半導体の製造を目指す「ラピダス」の進出が決まるなど、本格的なデジタル時代における最先端半導体の製造拠点として注目を集めている。そのようななか、豊富な人材、便利な交通アクセスなどを有する札幌市では、都心部の再開発が加速し、ビジネス活動の拠点としての魅力が一段と増している。14日に行われた「次世代半導体は札幌を変えるか」では、次世代半導体が札幌にもたらす可能性、「ラピダス」が掲げる北海道バレー構想を支える札幌市の役割などについて、熱い議論が交わされた。

基調講演

半導体産業が興す
シン・産業革命

東芝 CPSxデザイン部エバンジェリスト 
大幸 秀成氏

次世代製品・サービスを
社会実装する場、目指せ

大幸秀成氏

東芝 CPSxデザイン部 エバンジェリスト

大幸 秀成

徳島生まれ。1982年愛媛大学電気工学科卒。同年東芝(旧東京芝浦電気)に入社。汎用半導体製品の世界普及に取り組み、国際標準化、同業他社とのアライアンス、用途開拓などを推進

世界の半導体デバイス市場は80兆円を突破し、それを支えるエレクトロニクス産業市場は600兆円に達している。半導体はあらゆるものがつながるIoTや人工知能(AI)を活用するデジタル時代に欠かせないデバイスとして存在感を増す一方、新型コロナウイルス禍で起こったサプライチェーンの混乱や国際紛争による安全保障リスクなどにより、戦略物資としても注目を浴びている。

日本の半導体産業が衰退した理由は、モノづかいの勝負に負けたからだ。どんなに高性能の半導体をつくったとしても、その使い方を考え、社会実装できなければ、ただのモノづくりで終わってしまう。例えば、スマートフォン。通信ネットワークの普及で世界中の人々に行きわたり、年間約13億台が出荷され、半導体需要拡大へとつながった。今、スマートウオッチやスマートグラスに注目が集まる。これらの機器は製造コストの3割以上を半導体が占める。モノづかいが勝負を分けるのだ。

札幌市は、先端半導体を活用した製品やサービスを社会実装する場を目指すべきだと思う。半導体産業では水平分業が進み、ソフトウエアの重要度が増している。社会課題の解決や安心安全、快適性を実現するには、その機能を可能にするソフトウエアが欠かせないからだ。札幌市にはハイテク人材を供給する教育機関が集積し、近隣自治体も含めてデータセンターが多く立地する。太陽光や風力など再エネ活用のポテンシャルも高い。利便性の高い交通アクセスも魅力だ。ソフトウエアの研究、開発、サービスを行うプレーヤーのエコシステム構築に最適な場所である。

大阪・関西万博で、関西空港と会場を空飛ぶ自動車で結ぶ計画が発表されているが、こうしたサービスの社会実装において北海道のポテンシャルは高い。価値観を変え、世の中を変え、地球環境に優しく、サステナブルな未来社会の実現に向けて、札幌市に対する期待はとても大きい。

パネルディスカッション

次世代半導体がもたらす
札幌の未来

松沢 貴仁氏

松沢 貴仁

東京エレクトロン
デジタルデザインセンター
先端技術開発一部 部長

1995年東京エレクトロン札幌にソフトウエア・エンジニアとして中途入社。2004年まで欧州に赴任。帰国後、AI・IoT技術の開発およびDX推進を担当

相良 美織氏

相良 美織

バオバブ
代表取締役社長

フェリス女学院大学文学部英語英米文学科卒。1992年住友商事に入社。外資系証券会社などを経て、資産運用会社創業に関わり、経営企画室長などを経験。2010年にバオバブを設立

大幸 秀成氏

大幸 秀成

東芝
CPSxデザイン部
エバンジェリスト

徳島生まれ。1982年愛媛大学電気工学科卒。同年東芝(旧東京芝浦電気)に入社。汎用半導体製品の世界普及に取り組み、国際標準化、同業他社とのアライアンス、用途開拓などを推進

秋元 克広氏

秋元 克広

札幌市長

北海道夕張市生まれ。北海道大学法学部卒。1979年札幌市役所に入庁。企画調整局情報化推進部長、市長政策室長、札幌市副市長などを経て、2015年に札幌市長に当選。現在に至る

大規模投資起爆剤に産業集積

次世代半導体の製造を目指すラピダスが千歳市に大規模投資を進めるなか、隣接する札幌市はこのチャンスをどのように生かそうと考えているか。

秋元札幌と千歳は直線距離で約50km、電車で約30分と近い。今回の大規模投資を起爆剤に、北海道と、隣接する地域が一体となって、このエリアでさらなる投資拡大・誘致促進を図り、産業集積を推し進めている。

札幌五輪から50年が経過し、札幌中心地区では今再開発が進んでいる。2020年からの10年間で東京ドーム6個分相当の約30万㎡のオフィス床面積が供給される見込みだ。そこで札幌が大きく新しく変わるという意味を込めた「大札新」というキャッチフレーズを掲げ、道外から再開発オフィスへ企業誘致を図っている。北海道は太陽光や風力など再エネのポテンシャルが高く、札幌市は再開発と脱炭素を両立しているのが特徴だ。技術系・工業系の大学が多く、デジタル人材の育成が盛んで、地元での就職希望者も多い。これらの強みを生かし、データ関連産業の集積を目指している。

大幸半導体製造そのものの自動化は進んでいるが、関連ツールなどのソフトウエア開発、製造装置のメンテナンスなど、関連業務は多岐にわたり、必要とされる人材は多い。加えて人事、総務、企画など、管理系の業務もある。つまり半導体製造には、専門家はもちろん、多種多様な人材を周辺エリアから集められるかどうかがポイントになる。

職住近接など快適な職場環境

東京エレクトロンが札幌に拠点を開設した理由は。

松沢当社は半導体製造装置のメーカーで、世界的に事業を展開し、22年度の売上高は約2兆円。売り上げの8割以上が海外向けで、海外にも開発拠点がある。そのようななか、30年以上前から札幌に開発拠点を設け、ソフトウエアを中心とした半導体製造のデジタル化を支援する開発を行っている。20年にはAI・データサイエンスの拠点「TELデジタルデザインスクエア」を開設した。

札幌に開発拠点を置いているのは、人材の確保が比較的容易であることと、職住近接など生活環境が豊かであることが理由だ。現在オフィスは札幌駅と大通駅を結ぶ地下歩行空間に直結したビル内にある。オフィスのある札幌中心地区から車で20分も走れば、大自然に満ちあふれ、アクティビティーは豊富だ。新鮮でおいしい食材も多い。オンオフのバランスを取る上で札幌市は最高の場所だと思う。

相良さんは2年前に東京から札幌へ拠点を移した。

相良私が代表を務めるバオバブは、AIの機械学習に必要な学習データを作成(アノテーション)して、提供する会社だ。アノテーション作業は世界各国に在住する多国籍のパートナー(Baopart)が対応。彼らはみなリモートで働いている。今パソコンと通信環境が整っていれば、どこでも仕事はできる。

元々曽祖父と曽祖母が札幌で書店を営んでおり、母親の移住もあって、私も2年前に引っ越してきた。札幌市は住環境が充実しており、とても住みやすい街だ。雪は多いが、地下鉄や地下空間が発達していて移動に問題はなく、室内も断熱構造で暖かい。スタートアップ支援に力を入れており、女性起業家を増やしたいとの声も聞かれる。

パネルディスカッション

スタートアップ支援に連携強化

札幌市のスタートアップ支援の取り組み状況について聞きたい。

秋元札幌市と北海道は20年、内閣府による「世界に伍(ご)するスタートアップ・エコシステム形成」のための国内8拠点都市の一つに選定された。現在スタートアップ数も資金調達額も増加傾向にあるが、より加速させていく必要がある。以前は国、道、市がそれぞれ支援策を進めるなど縦割りだったが、23年7月に共同で「STARTUP HOKKAIDO」を立ち上げるなど、エコシステム形成に向けて3者が連携して動き出している。

大幸企業の育成には資金供給と同時に、出口戦略の多様化やオープンイノベーションの推進、人材・ネットワークの構築が重要だ。そういった意味で、札幌市の取り組みは大いに評価できる。

採用活動など人事戦略で重視しているポイントはあるか。

松沢当社では人材のダイバーシティー(多様性)を大切にしている。イノベーションは多様性から生まれる。だから半導体経験を重視せずに、専門領域で強みを持つ人を中心に採用している。

相良バオバブは「誰もがその人らしくいることが受け入れられ、人生の選択肢が開かれている社会」を目指している。仕事を通じた自己実現が大切だと考えているからだ。そういった意味で、札幌は魅力にあふれた街だ。

半導体を生かす“未来都市”へ

最後に半導体振興と再開発により変革期を迎えている札幌市へ期待するものは。

松沢本格的なDX(デジタルトランスフォーメーション)時代を迎え、半導体の重要度はますます高まっていく。しかし、半導体だけでは何も生まない。そこにソフトウエアやAIなどがかけ合わされて初めてシナジー(相乗効果)が生まれ、新たな価値創出へとつながる。札幌市にはラピダスを中核に多様な企業が集まってくるような環境整備をお願いしたい。

相良日々アノテーションに関する問い合わせが舞い込んでいる。計算資源の整備など、安価に思う存分研究できる環境を整備すればAI関連研究機関や企業が集まってくると思われる。札幌のポテンシャルに期待する。

大幸AIの活用には計算機パワーが不可欠であり、AIを活用する人が加速度的に増えているから、アノテーションの需要がひっ迫している。先端半導体も全く同じ。その機能を活用する製品やサービスをつくることで需要が拡大し、経済発展につながっていく。ぜひそうした循環を実現するエコシステムを、札幌市を中核に、北海道で築いていってほしい。

秋元今日はたくさんのヒントをいただいた。札幌には素晴らしい生活環境がある。都市のリニューアルが進み、DX時代を支える半導体産業からの新しい風も吹いてきている。ぜひこのチャンスを生かし、持続可能な「未来都市さっぽろ」に向けて、積極果敢にチャレンジしていく。期待してください。