提供:SCSK

有識者が語る 再エネ電力活用の最前線 脱炭素経営の実現に向けて注目される
属性トラッキングシステム「I-REC」とは?

地球温暖化対策の一つとしてカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが世界中で進められ、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を使用しない電力(非化石電源)を利用する動きが加速している。それとともに、非化石電源の利用を促進する各種制度や仕組みが登場している。そうした中でグローバル企業を中心に、再生可能エネルギー(以下、再エネ)によって発電された電力であることを証書化することができる「I-REC」の導入機運が高まっている。なぜいま、I-RECが注目されているのか。再エネ電力を取引するうえで重要な役割を果たす属性トラッキングシステムとは何か。事情に詳しい有識者に話を聞いた。

事業で再生可能エネルギーを
利用する際の課題

 2020年に気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」の運用が始まり、同年10月に日本政府が「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表するなど、温暖化ガスの排出量“実質ゼロ”を目指した取り組みが全世界で加速している。こうした動きを受け、多くの日本企業が脱炭素への取り組みを表明。いまや企業の事業競争力を高めるために取り組むべき重要な経営課題として認識されるようになった。

 そうした中で特にニーズが高まっているのが、温暖化ガス(GHG)を排出しない再エネにより発電された電力だ。すでに製造業を中心とするグローバル企業の間では、再エネ電力を調達してGHG排出量実質ゼロを目指す取り組みが進んでおり、再エネ電力の利用を求める取引先や投資家も増えている。

高瀬 香絵氏

一般社団法人CDP Worldwide-Japan
アソシエイトディレクター
高瀬 香絵

 ところが、日本国内における再エネ電力の利用には課題がある。そう話すのは、環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営する一般社団法人CDP Worldwide-Japanの高瀬香絵氏だ。

 「日本でも、事業で使用する電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ『RE100』(Renewable Electricity 100%)に加盟するリーダー企業が増えるなど、再エネ電力の利用は確かに進んでいます。しかし、日本では特に、事業で使用する再エネ電力がどのようにつくられたものなのか、RE100の基準に適合しているのかは分からない状態です。非化石価値取引市場ではほぼ全量のトラッキングが実施されているものの、どの非化石電源が割り当てられるのかくじ引きで決められるため、企業は『こんな再エネが欲しい』という買い方ができないという状況が続いています。製造業のなかには、日本国内で信頼性の高い属性情報をもつ再エネ電力が入手できないのであれば、生産拠点を海外へ移転せざるを得ないと考える企業も出始めています」(高瀬氏)

図:企業の脱炭素化を促進する国際イニシアチブ

図:企業の脱炭素化を促進する国際イニシアチブ(作成:SCSK 2022年11月現在)

唯一性・追跡性のある「再エネ属性証明」で
重複利用を防ぐ

高瀬 香絵氏

一般社団法人 日本トラッキング協会 代表理事
京都大学大学院経済学研究科 特任教授
内藤 克彦

 高瀬氏が指摘したように、日本では再エネの割り当てに大きな課題がある。その課題は、再エネ電力の由来となる電源種や発電所所在地といった属性情報を追跡できないところに原因がある。そこで解決策として重要な役割を果たすことになるのが、属性トラッキングの仕組みである。電力市場制度や再エネ価値取引を研究する京都大学大学院経済学研究科特任教授の内藤克彦氏は、属性トラッキングの重要性を次のように説く。

 「海外では再エネの属性トラッキングが発達しており、例えば北米では、現物の電力取引とは別に再エネ電力の価値を分離した『REC(Renewable Energy Certificate)』の取引システムが古くから整備されています。ただし、そのままでは二重使用といった不正が行われる恐れもあるため、改ざんできないように発電電力ごとの属性情報を唯一の発電記録として取引するように進化していきました。欧州(EU)でも北米のRECシステムを参考に『GO(Guarantee of Origin=発電源証明)』が確立されました。このように欧米を中心に、あらゆる属性情報が網羅された属性トラッキングに基づく取引が当たり前になっています。特に欧州では、再エネの属性トラッキングはバイオガスの取引にも使われ、今後、グリ-ン水素にも利用しようとしています」(内藤氏)

 日本では不正使用の防止という観点よりも、どんな出自の再エネ電力なのかを区分するために属性トラッキングの仕組みが求められている。内藤氏は属性トラッキング技術による属性証明(原産地証明)の啓発を目的に、2021年12月に一般社団法人 日本トラッキング協会を立ち上げ代表理事に就任。普及・啓発活動に取り組んでいる。

図:属性証明(電力に関する発電所・発電種別・発電期間・発電量などの情報を証明)

図:属性証明(電力に関する発電所・発電種別・発電期間・発電量などの情報を証明)

国際的に認められる
属性トラッキングの仕組み「I-REC」

稲垣 憲治氏

一般社団法人 ローカルグッド創成支援機構
事務局長
稲垣 憲治

 このように再エネ電力の取引において海外から遅れをとっている日本だが、属性トラッキングについて何もしてこなかったわけではない。非化石電源の環境価値を取り出して証書化した「非化石証書」があるが、このうち固定価格買い取り制度(FIT)適用の再エネを対象とした属性トラッキングは、国の実証を経て事業化の方向性が示されている。また、GHG排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証した「Jクレジット」、再エネ電力の環境価値を証書化した「グリーン電力証書」なども存在している。

 属性トラッキングの手段としては、「I-REC(International Renewable Energy Certificate)」が国際的には認知されている。もともとI-RECは、RECを運用する北米、GOを運用する欧州を除く地域に適用するために開発された。そして、日本におけるI-RECの証明書発行主体として指定されたのが、一般社団法人ローカルグッド創成支援機構だ。同機構の事務局長を務める稲垣憲治氏は、I-RECの役割を次のように説明する。

 「日本では、企業の事業拠点がある地域でつくられた再エネ電力を使用する地産地消のニーズがありますが、本当に地産地消の電源なのかどうか属性をトラッキングして第三者が認証する仕組みが十分でありませんでした。そこで注目したのが、I-RECです。国際的に認められたI-RECのトラッキングシステムを導入すれば、二重使用を排除した第三者による電源証明が可能となり、地域に貢献する再エネを購入する際などの取引の信頼性が向上します」(稲垣氏)

企業がI-RECを利用しやすくするための
プラットフォーム「EneTrack」

高野 元宏氏

SCSK株式会社
EneTrack 事業開発プログラムリーダー
高野 元宏

 ローカルグッド創成支援機構は、I-RECの国際的な属性トラッキングシステムを管理するレジストリオペレーターと連携し、再エネ発電者や需要家企業にI-RECの再エネ証書を発行する第三者認証機関(イシュア)としての役割を担っている。その際、再エネ証書を取引したり、再エネ証書の発行、移転、償却といった手続きをワンストップで行うには、発電者や企業が利用するプラットフォームが必要になる。それを運用管理するプラットフォームオペレーターの役割を果たすのが、SCSKだ*1。SCSKの高野元宏氏によると、同社はI-RECプラットフォームに「EneTrack」*2と名付けてシステム開発を進めているという。

 「I-RECでは、属性証明のデータベースはレジストリオペレーターが管理し、発電設備や発電量などの属性情報はイシュアであるローカルグッドが承認する仕組みになっていますが、再エネ証書の取引を個別に行った後、所有者を移転したり償却したりするには英語のWebページにアクセスして操作しなければいけません。企業にとってこの部分のハードルが高いこともあり、I-RECは2022年にプラットフォームオペレーターという立ち位置を整備し、世界各地で複数のプラットフォームオペレーターが活動を開始しました。そうしたプラットフォームオペレーターとして、日本で名乗りを上げたのがSCSKです」(高野氏)

図:プラットフォームオペレーターの役割

図:プラットフォームオペレーターの役割

 SCSKが開発中のEneTrackは、I-RECの属性トラッキングシステムによる正確性、イシュアと連動した安全性が特徴となっている。EneTrackではI-RECの属性認証サービス、販売・購入と名義変更サービス、償却による発電と消費電力の属性関連付けサービスの提供を2022年度内に開始する予定だという。なお将来的には、個人による住宅用太陽光発電への対応やプラットフォームの海外展開も視野に入れている。

 「現在、日本国内にはJクレジット、非化石証書、グリーン電力証書というローカル証書が存在し、個別に国際イニシアチブの認定を受けています。しかし将来の基準改定により、こうした証書は認定を失効するリスクがないとは限りません。その点、国際標準のI-RECであれば、そうした心配もなく安心して取引が行えます」(高野氏)

 日本でも今後は、再エネ電力の利用と再エネ価値取引がさらに拡大することが見込まれる。カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを本格化させたい企業は、I-RECの活用を検討してみてはいかがだろうか。

※1 プラットフォームオペレーター認定手続き中です。

※2 EneTrackは、再エネ電力の属性証明に必要なトラッキング技術を提供するものです。温対法に基づく報告など日本の制度において I-REC によるオフセットはできません。環 境価値の訴求には別途、非化石証書を取得する必要があります。

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