人材投資 企業の視線熱く
新たな価値生む変数に

 新型コロナウイルス禍で働き方が変わりつつあるなか、企業による人への投資の重要性が増してきた。人材投資は生産性の向上につながり、経営改革の柱の一つにも位置づけられる。7月28日にウェブ配信したシンポジウム「Smart Work―X 人的価値と生産性向上への挑戦」では、人材の活力を引き出そうと投資を進める企業の幹部や学識者らの講演・パネル討論を通じて、スマートワーク経営がもたらす未知なる価値「X」を探った。(肩書はシンポジウム開催時)

※Smart Work経営とは
日経Smart Workプロジェクトでは、多様で柔軟な働き方を通じて人材や組織のパフォーマンスを高めるとともに、イノベーションを生み、新たな市場を開拓し続ける好循環を作り出すことで生産性を最大化する経営戦略をスマートワーク経営と定義している。日経Smart Workプロジェクトの詳細はこちらから。

冒頭メッセージ

人的資本経営、いざ本番

経済産業省 経済産業政策局 産業人材課長 島津 裕紀氏

経済産業省
経済産業政策局
産業人材課長

島津 裕紀

 「人的資本経営」は人材を資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげる経営だ。経済産業省は、こうした経営への転換を促すため、いわゆる「人材版伊藤レポート」を公表した。その後、2つの重要な変化があった。
 1つ目はデジタル化、脱炭素、コロナ禍への対応を通じて人的資本の重みが増してきたことだ。経営陣は具体的な行動を迫られるようになった。
 2つ目は国内外での情報開示機運の高まりだ。国内では昨年、コーポレートガバナンスコードが改訂され、人的資本への投資の開示が盛り込まれた。中長期的な投資・財務戦略において、人材投資を重視する投資家も増えている。

経済産業省 経済産業政策局 産業人材課長 島津 裕紀氏

経済産業省
経済産業政策局
産業人材課長

島津 裕紀

  人的資本経営では、経営戦略に連動した人材戦略の実践と人的資本の情報開示の両輪が必要だ。実践については、新たに公表した「人材版伊藤レポート2.0」に多数のアイデアが示されているので参考にしてほしい。情報開示については、6月に「人的資本可視化指針」の案が取りまとめられた。日本でも人的資本経営の実践と開示の時代が本格的に始まる。
 では、何から手を着ければよいか。「人材版伊藤レポート2.0」では、経営戦略と人材戦略を連動させる取り組みが第一歩だと指摘。その中でもCHRO(最高人事責任者)の設置と全社的な経営課題の抽出が重要なステップになるとしている。このプロセスを起点としていない場合、人事部による従来の働き方改革にとどまる例が多いようだ。人的資本経営は、経営改革そのものであるとの認識が欠かせない。
 人的資本経営という変革を通じて、働き手と組織の関係は、従来型の閉鎖的なものから組織の壁を越えるオープンな関係、選び、選ばれる関係になることが期待される。個人は画一的な雇用システムから解放され、その能力を十分に発揮できるようになり、キャリアの多様化が進んでいく。労働市場がグローバルに開かれる可能性もある。
 「人的資本経営コンソーシアム」の設立が予定されている。人的資本に関する効果的な情報開示の在り方を検討するとともに、優れた先進事例を共有。人的資本への投資について企業間協力を行う場としていきたい。

企業メッセージ

「やってみなはれ」の覚悟

サントリーホールディングス 代表取締役社長 新浪 剛史氏

サントリーホールディングス
代表取締役社長

新浪 剛史

 サントリーの歴史は1899年、鳥井信治郎が鳥井商店を開業したことに始まる。信治郎は日本の洋酒市場を切り開き、日本初の本格国産ウイスキーづくりに挑んだ。その後も新たな需要や市場を創出する挑戦を続け、今や売上高は約3兆円、世界に4万人の仲間を擁する規模へと成長した。
 こうしたサントリーの挑戦の歴史を支えてきたのが「やってみなはれ」の精神と「利益三分主義」の考え方だ。困難に立ち向かう仲間がいれば「やってみなはれ」と背中を押し、事業で得た利益は取引先や社会にも還元して持続可能な在り方を追求してきた。
 1973年には社是「人間の生命の輝きをめざし 若者の勇気に満ちて 価値のフロンティアに挑戦しよう 日日あらたな心 グローバルな探索 積極果敢な行動」を制定した。その具現化には、すべての従業員に成長の機会を与えることが求められる。
 そこで人材育成プログラム「サントリー大学」で創業の精神を学ぶとともに、若いうちから責任ある仕事を任せるようにしている。人が最も成長するのは、修羅場を自らの決断で乗り越えたときだからだ。人材を資本と考えるなら、経営者には中長期的な視点で若手に権限を与えて「やってみなはれ」と背中を押す覚悟がなければならない。 
 一方、従業員にはキャリアオーナーシップを持つことが求められる。当社では従業員本人のキャリアビジョンを基に部門間を活発に異動させる取り組みを続けてきた。海外グループ会社に1年間派遣する制度もあり、今年は23人を送り出した。異文化の修羅場で自らを磨く経験が、未来のリーダー候補をさらに成長させると確信している。
 組織には多様性も不可欠だ。女性や障害のある人が活躍できる仕組みをつくることで組織に活力が生まれ、従業員のエンゲージメントも高まる。従業員の家族を巻き込んだイベントなども開催。結束が強まり、会社への信頼感が生まれ、従業員の奮闘につながっている。
 既存のゲームに勝つ以上に、新たなゲームを生み出す発想や挑戦が求められている。それを可能にするのは「人」以外ない。企業経営の最も重要な仕事の一つは、その活力を引き出すことにある。企業が切磋琢磨(せっさたくま)して人を育てれば、日本全体にダイナミズムをもたらせるはずだ。

企業メッセージ

新世代の価値観も配慮

ソフトバンク 専務執行役員 兼 CHRO 青野 史寛氏

ソフトバンク
専務執行役員 兼 CHRO

青野 史寛

 ソフトバンクは、働き方の試行錯誤を続けてきた。2009年には全社員にスマートフォン「iPhone」を配布し、モバイルワークを導入。12年には社内の「ペーパーゼロ宣言」を打ち出し、ペーパーレスに向けた動きを本格化した。柔軟な働き方という点では、コアタイムなしのスーパーフレックス制度を17年、在宅勤務・サテライトオフィスを18年に全社導入した。
 19年には全社プロジェクト「デジタルワーカー4000」を立ち上げた。全社横断で業務プロセスを見直し、テクノロジーを活用して4000人分の時間(年間約770万時間)を創出した。
 創出した時間をキャリア形成や新たな挑戦に生かす仕組みも整備している。新規事業提案制度では20案件が事業化され、事業家育成制度には累計700人以上が参加。ここで育った人材がグループ内で経営に携わる例も少なくない。興味あるポジションに応募し、合格すれば異動できる仕組みの利用者も約2000人に達している。
 コロナ対応では最初の緊急事態宣言時に業務上必要な場合を除いて出社禁止とし、約1万4000人の従業員が在宅勤務となった。在宅勤務でも8割以上は生産性が上がった、もしくは変わらないとしており、コロナ前から進めてきた業務改革、柔軟な働き方を可能にする取り組みが事業継続につながったといえる。
 ウィズコロナとなり、入館時の検温やワクチンの職域接種など、安心・安全な職場環境の実現に注力してきた。在宅勤務でもコミュニケーションを絶やさないようにツールを拡充。マネジメント研修や月次全社朝礼、グループ社員大会などもオンラインで開催している。従業員満足度調査では、コロナ禍でも総合満足度、働きがい、会社推奨度は上昇傾向にある。
 アフターコロナを見据えた取り組みでは、働き方をアップデートしながら出社と在宅のベストミックスを追求する。働く場所を選べるほか、竹芝本社ではオフィスの価値を最大化するため、偶発的なコミュニケーションを生む空間を設計。仮想空間メタバースの活用も検討している。
 今後、会社と個人の関係は、よりフラットなものになるだろう。選ばれる会社であり続けるには、人的資本投資や開示が重要だ。新たな世代の価値観にも注目しなければならない。人材価値の最大化こそが会社の未来を創る。

学識者メッセージ

生産性や利益率に影響

学習院大学 経済学部 教授 滝澤 美帆氏

学習院大学 経済学部
教授

滝澤 美帆

 よく「人材投資」という言葉を聞くが、経済学では「人的資本」と表現する。企業が生産するために必要となる人的要素のことだ。ここでは、企業の教育訓練などを通じて蓄積される人的資本に焦点を当てたい。
 人的資本を計測する方法の一つが費用ベースアプローチだ。人的資本の蓄積に要した費用、例えば研修費を投資として考える。この投資が積み上がることで形成される人的資本のストックを物的資本の計測で用いる恒久棚卸法(PI法)で計測する。
 注意が必要なのは、人的資本も物的資本のように減耗することだ。減耗率は年25~40%だとされる。技術の進歩などにより必要とされる知識も変わるため、人への投資を続けなければ、あっという間に陳腐化してしまう。
 この方法で経済全体の人的資本投資額を計測すると、1990年代後半から減少し、近年は横ばいで推移している。2018年で約6700億円だ。人的資本ストック額も11年以降、横ばいで増えていない。従業員1人当たりの教育訓練費は、おおむね年間1万~5万円だとみられる。
 これに対し、海外の大手企業では日本企業の3~4倍の金額を教育訓練に投入している例もある。国内総生産(GDP)に占める無形資産投資額の国際比較を見ると、ソフトウエアや研究開発(R&D)投資などにおいて、日本は他の先進諸国と比べて遜色ない水準にある。しかし、人的資本投資額は圧倒的に低く、主要国の中では最低レベルだ。
 人的資本投資額と労働生産性や総資産利益率(ROA)には、正の相関がある。ICT(情報通信技術)投資、R&D投資、資本装備率など、そのほかの無形資産を加えた重回帰分析でも、人的資本投資額は労働生産性やROAにプラスで関係している。
 日本では、R&D投資やICT投資が行われてきたにもかかわらず労働生産性は高まっていない。その背景には、投資を有効活用できる人材の不足、訓練の不足があるのかもしれない。人への投資は効果が表れるまでに時間がかかる。継続的な投資が重要だ。
 労働市場の流動化により、企業が教育訓練を手控える可能性も指摘されている。しかし、人への投資に積極的であることを開示していけば優秀な人材の獲得にもつながるだろう。日本企業全体で人的資本投資を増やし、労働生産性を高めてほしい。

学識者メッセージ

「アバター共生社会」へ

ロボット学者/大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授 石黒 浩氏

ロボット学者/大阪大学大学院
基礎工学研究科 教授

石黒 浩

 1997年、京都大学で人と関わるロボットの研究を始めた。人間らしさを追求した自律対話ロボット「エリカ」は世界的に注目を集めた。
 遠隔操作で仕事や用事をこなすアバター(分身)ロボットの開発にも取り組んできた。アバターの操作者はモニターを見ながら話すだけでよい。ロボット側のシステムが声を解析して適切な身ぶり手ぶりを再現する。
 これまでの研究で大切な成果は「テレノイド」という遠隔操作ロボットだ。性別や年齢が分からないニュートラルな外観のアバターで、人と関わることが苦手な人でも話しやすいことが分かった。
 こうした技術で実現したいのが「アバター共生社会」だ。内閣府が進めるムーンショット型研究開発制度においても2050年までに達成すべき目標の一つとなっている。
 自分の代理となるアバターを使うことで、高齢者や障害者を含む誰もが様々な活動に自在に参加できるようになる。いつでも、どこでも仕事や学習ができるので、通勤通学は最小限になり、自由な時間を十分に持てる。そうした社会を実現したい。
 アバターの活用シーンは無数にある。この1年間で多くの実証実験を実施した。 例えば保育園にアバターを設置。高齢者などがアバターに乗り移り、様々なアクティビティーを通じて保育をサポートした。
 スーパーマーケットに設置したアバターは、レシピチラシの配布や特定商品の推薦業務を担った。アミューズメントパークでも館内案内や展示説明などを行った。在宅勤務でも多岐にわたる接客業務に従事可能だ。
 アバターが入店の呼び込みをしたパン屋は売り上げが伸びた。声もかわいく変えられるので、私でもパンを売ることができた。これはアバターならではの利点だ。今までなれなかった自分になり、まったく違う体験、生き方ができる。
 こうしたアバターによってもたらされる新たな社会を「仮想化実社会」と呼んでいる。実世界でありながら、アバターを使うことで仮想世界のように様々な自分になって活動できる。この新たな世界は日本の技術なしに実現することはできない。
 25年の大阪・関西万博では、アバター技術を広く世界にアピールする。人間とアバター、ロボットが共生する社会を実現していきたい。

パネルディスカッション

人への投資が新たな価値を
生み出す仕組みとは

パネリスト

サントリーホールディングス ピープル&カルチャー本部
労務政策担当部長 兼 DEI室長

森原 征司

ソフトバンク コーポレート統括 人事本部 本部長

源田 泰之

日本マクドナルド 人事本部 執行役員 チーフ・ピープル・オフィサー

斎藤 由希子

学習院大学 経済学部 教授

滝澤 美帆

ロボット学者/大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授

石黒 浩

コーディネーター

日本経済新聞社 編集委員

石塚 由紀夫

自律的な挑戦促す

石塚:なぜ今、人材投資の在り方が問われているのか。各企業の考えや求める人材像の変化などを聞きたい。

森原:従業員には、当社の重要な価値観である「やってみなはれ」と「利益三分主義」を体現してほしい。この価値観をグローバルに浸透させるためにアンバサダープログラムを展開し、リーダー要件に盛り込むなどしている。約4万人の従業員がつくる「やってみなはれ集団」でありたい。会社には、いきいきと働けて、成長できる場を提供することが求められる。

源田:自律性や当事者意識を持つことが重要だ。これまでのやり方を学びつつ、自分はどう働きたいのか、何を達成したいのかを明確にし、自分で考えて行動する。副業や新規事業の立ち上げなど、会社としてそうしたチャレンジを支援する仕組みを整えている。会社をうまく利用して成長してほしい。

源田 泰之氏

源田 泰之

斎藤 由希子氏

斎藤 由希子

斎藤:すべての従業員について変わらない人材要件は、マクドナルドのパーパス(存在意義)、ミッション、バリューへの共感だ。その上で学び続けるための好奇心や瞬時に的確な判断ができる力、困難に立ち向かう力、信頼を勝ち取る力が重要だ。変化が激しい時代には、真の課題を見極めて解決していく革新性が一層必要になる。

石塚:人材投資の内容について、サントリーとソフトバンクは企業メッセージで説明があった。ここではマクドナルドの取り組みを聞きたい。

斎藤:マクドナルドの創業者レイ・クロックは「我々はフードビジネスではなくピープルビジネスだ」という言葉を残している。従業員を育てる教育投資こそ企業の成長の源泉だという考え方は、現在でも受け継がれている。
 マクドナルドは「世界中どの街でも、ベストな雇用主となる」というピープルビジョンを掲げている。その実現のために、従業員に成長の機会を提供して能力を高め、リーダーを育成し、功績に報いることを約束している。

 従業員や求職者のニーズと会社が提供できる価値の重なりが大きくなるほど採用につながりやすい。エンゲージメントが向上し、定着率も高まる。そこで、企業がクルー(アルバイト従業員)に提供できる価値を指す「EVP(従業員価値提案)」を高める取り組みに注力。応募から退職するまでのEVPを「クルージャーニー」として定義している。
 従業員の教育、継続的な動機付けにも力を入れている。「ハンバーガー大学」ではハンバーガーの作り方だけでなく、マネジメントやリーダーシップ研修なども行う。
 EVPによるエンゲージメント向上と継続的な教育投資による育成を行うことで、従業員がブランドを体現し、お客様により良いサービスを提供できるようになる。そして「おいしさと笑顔を地域の皆さまに」というパーパスを達成できれば、継続的にビジネスは成長していく。
 こうした取り組みを背景に、社内のクルー総合満足度調査では「満足」「とても満足」の合計が85%を超えた。市場調査では、勤務先の選択肢として存在感を増しつつある。一人ひとりが輝く、活気ある職場を実現することでホスピタリティーを高め、ピープルとデジタルの融合でより良い顧客体験を生みだす挑戦を続けていく。

クルージャーニーとして定義している
クルージャーニーとして定義している

成果出るまで継続を

森原 征司氏

森原 征司

石塚:3社の取り組みをどう見るか。

滝澤:中長期的な視野で人的資本投資を実行していることに感銘を受けた。投資の内容も工夫されている。投資継続の鍵は、自社の理念やビジョンを全社に浸透させることだ。政府の支援などもうまく利用したい。

石黒:自律性のある人材や自己実現に向かって挑戦できる人材を社内だけで育てられるだろうか。企業の枠を超えた人の育て方もあるはずだ。

石塚:挑戦心が育てば他社に移ることも考えられる。

森原:難しい課題だ。当社はバリューチェーンの中で様々な成長の機会を提供できる。同じ会社で働き続けることが幸せなのか、自分で選択できることが大切だ。

森原 征司氏

森原 征司

源田:当社には「人材を囲い込む」という考えはない。企業と人の関係は、選び、選ばれる対等なものだ。一度辞めても、戻ってきて活躍してくれる人もいる。ここで働いてみたい、働き続けたいと思われる会社でありたい。

斎藤:マクドナルドには「UP TO YOU あなた次第で、どこまでも成長できる」という言葉がある。フランチャイズオーナーとして独立したり、サプライヤーに出向・転籍したりすることも可能だ。キャリアブックを作成するなどして選択肢を可視化している。

石塚:人的資本投資によって企業価値や生産性を高める上での課題は。

森原:会社と従業員の信頼関係をいかに強化するかが課題だ。会社側は人材こそ最も重要な資本であることを従業員に伝える。一方、従業員にはキャリアオーナーシップが求められる。会社は「やってみなはれ」と背中を押すが、その挑戦には従業員本人の責任感が伴わなくてはならない。会社が求めるものをイメージしながら自身のキャリアをデザインしてほしい。

源田:異なる多様な価値観が存在する中で、個人の成長をいかにサポートするかが課題だ。解決の鍵はコミュニティーだと考えている。様々な場面で社内外の多様な人材と対話できる環境を用意している。色々な価値観を学び、内省と対話を繰り返すことが、一人ひとりに合った成長につながる。

斎藤:人材の多様化が進む中で、会社としての求心力をいかに維持するかが課題だ。当社のパーパスやバリューをグローバルで浸透させなければならない。優れた実践事例の共有や、経営トップがメッセージを発信し続けることがポイントになる。

石塚:学識者から見た課題やその解決策は。

滝澤:人的資本投資は①どんな課題やチャレンジがあるのか明確にすること②それらに対してどのような人的投資を行うのが適切か見極めること③投資の効果を検証して改善につなげること――が重要だ。特に適切な手法での効果検証が取り組み推進の鍵になる。

石黒:企業の枠を超えて、社会全体で人を育てる仕組みが求められる。複数の能力を伸ばせる環境も必要だ。そこでは大学が果たすべき役割も大きい。企業は大学にもっと要望を突き付けてほしい。社会全体で意識を変える必要がある。

石塚:人的資本投資はすぐに結果が出るわけではない。しかし、今まで通りのやり方でうまくいく時代でもない。先進的な3社でも様々な課題と格闘している。諦めずに挑戦を続けることが大切だ。

最先端ソリューション講演

デジタルで「働く」を支援

LegalForce 執行役員 営業本部長 浦山 博史氏

LegalForce 執行役員
営業・マーケティング本部長

浦山 博史

契約前後のリスク低減

 契約とは、権利義務関係を形成するものだ。契約を結ぶことで、権利を行使することができるようになる半面、当事者は義務を負うことになる。契約にはリスクがある。締結前には「不利な条項」「法令違反」「実際の取引内容と乖離(かいり)」といったものが、締結後には「予期せず契約に違反している可能性」「せっかくの権利を行使していない」「予期せぬ契約更新や契約終了」などが考えられる。
 それぞれのリスクには予防策がある。締結前のリスクには契約書のレビューを行い、不利な条項などがあれば相手と交渉して修正する。締結後のリスクには契約書の管理台帳を作成・保管し、締結日や開始日、終了日、更新拒絶期限日などをデータベース化しておくことが備えとなる。
 しかし、こうした契約書の審査や管理を人の目と手だけで徹底するのは限界がある。見落としや入力ミスのリスクは避けられない。そこで、デジタル技術を活用。
 当社が提供する「LegalForce」は締結前のリスクに、「LegalForceキャビネ」は締結後のリスク制御を支援する。「LegalForce」は「契約審査を流れるように、スピーディーに。」をコンセプトに、契約書に潜むリスクの洗い出しからリサーチ、修正、案件管理までワンストップでサポートするAI(人工知能)契約審査プラットフォームだ。
 リリースから約3年間で2000社ほどに導入いただいた。契約書をLegalForceにアップロードして「レビュー実施」ボタンを押すだけで、一般的に注意すべきポイントをハイライトで表示。必要に応じて修正することができる。これまで人手と時間をかけていた契約書のレビューを効率化し、見落としも減らせる。弁護士が監修しており、法改正にも対応。PDFや英文の契約書もチェックでき、対応する契約書の類型は50に上る。「LegalForceキャビネ」は「契約書管理は、放り込むだけ。」をコンセプトに、契約書管理をスマート化するAI契約管理システムだ。締結済み契約書のPDFをシステムにアップロードすると、光学式文字読み取り装置(OCR)で全文テキストをデータ化。AIが管理台帳を自動生成する。契約書データを全文検索できるほか、原契約と一緒に覚書を管理し、更新期限が近い契約についてリマインドメールを自動送信することも可能だ。

セールスフォース・ジャパン Slack 事業統括 マーケティング本部 日本韓国リージョン統括 本部長 齋藤 梨沙氏

セールスフォース・ジャパン Slack 事業統括 マーケティング本部
日本韓国リージョン統括 本部長

齋藤 梨沙

柔軟な職場に一体感も

 職場環境は時代とともに変わってきた。1960年代は、毎日会社に出社して自分の専用デスクで働くスタイル。90年代には固定席をなくすフリーアドレス型のオフィスが広がり、2000年代にはキャンパス型のオフィスが登場した。グローバルIT(情報技術)企業を中心に、広大な敷地にオフィスやレストラン、テニスコートまで備える例が見られるようになった。
 こうした変遷はあるものの、それらはいずれも「どこで働くか」が問題の中心だったといえる。しかし、コロナ禍で状況は一変。多くの企業が短期間のうちにリモートワークを組み合わせた新しい働き方へのシフトに迫られた。物理的なオフィスの役割は、デジタルで進む仕事を補完することに変わりつつある。
 いま求められるのは、従業員の様々なニーズを満たす職場環境をデジタル上に構築することだ。同じ目標に向かってチームとの一体感を得ながら、組織が連携し、いかに生産性を高めて仕事を進められるかが鍵となる。
 デジタルツール「Slack」は「Digital HQ(会社を動かすデジタル中枢)」というコンセプトで、場所や時間を問わず、組織の壁を越えてつながることができるオープンで柔軟な職場環境を実現する。
 Digital HQではSlackチャンネルを活用し、あらゆるトピック、プロジェクト、施策についてオープンなコミュニケーションを推進。Slackコネクトで社外のパートナーやベンダーなどとつながることもでき、会社同士のコラボレーションも可能にする。
 会議設定が必要ないSlackハドルミーティングを使えば、同僚の机に立ち寄って雑談するかのように、ちょっとしたコミュニケーションも可能。Slackクリップは短い音声や動画を投稿できるので、テキストだけでは難しいニュアンスなども的確に伝えられる。
 様々なデジタルツールをSlack上に統合すれば、業務に関するあらゆる情報が集まり、スピーディーに次のアクションにつなげられる。
 Slackを導入した企業では、スピーディーな情報共有や柔軟なコミュニケーションが可能になり、意志決定のスピードも向上。全国の拠点にいる従業員が同じフロアで仕事をしているかのような一体感のある職場環境を実現している。

アドビ マーケティング本部 エバンジェリスト ビジネスマーケティングスペシャリスト 島田 昌隆氏

アドビ マーケティング本部
エバンジェリスト
ビジネスマーケティングスペシャリスト

島田 昌隆

文書プロセスを効率化

 コロナ禍に伴うテレワークの広がりなどにより、仕事とプライベートの境界線はあいまいになった。常に仕事で時間に追われると感じている従業員は多く、生産性の低さが離職に直結しかねない状況が生まれている。アドビの調査では、雑務だと感じるタスク、生産性を高めたいタスクについて、多くの従業員が紙文書にまつわる業務を挙げた。紙文書の作成・確認などを効率化するデジタルツールの導入が有効だと考えられる。
 そこで活用したいのがPDFだ。PDFは単なる紙文書のデジタル化ツールではなく、電子署名が可能になるなど従業員の生産性を高めるツールとして進化している。
 アドビは言語やデバイスを問わず、様々な環境でPDFを正しく開けるように「アクロバットリーダー」を提供している。国際規格ISO32001に準拠したPDFを作成・活用できるツールだからこそ、ビジネスシーンでも安心して利用できる。
 スマートな働き方を実現するには、ツールを使いこなすと同時に、システムの連携が鍵になる。アドビはマイクロソフトと戦略的なパートナー関係にある。アドビの「Document Cloud」「Creative Cloud」「Experience Cloud」、マイクロソフトの「Microsoft 365」「Microsoft Teams」「Microsoft Dynamics 365」――これらのツールがシームレスに連携し、ユーザーの働き方を変えることを可能にしている。
 例えば提案書や契約書、作業中の書類まで文書プロセスを完全にデジタル化。契約をまとめることに集中できる環境をつくれる。具体的にはファイル形式の異なる書類を1つのPDFにまとめることで読みやすい営業資料を作成。顧客が資料をダウンロードしたか把握できるようにすることで、効果的なフォローにつなげる。顧客は様々なデバイスで見積書のPDFを表示でき、直接コメントの追加やフィードバックも可能。最終契約書のPDFに電子署名し、契約締結まで完了できる。
 契約書の閲覧、署名、返信日時などは顧客情報管理(CRM)画面でリアルタイムに確認可能。一元管理された顧客情報から契約につながりそうな案件を見極めれば、効率的な営業につなげられる。
 アドビは「解決力から創造力へ、心、おどる、デジタル」というビジョンのもと、デジタルトランスフォーメーション(DX)を支援していく。

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