NIKKEIワーケーションプロジェクト
NIKKEIワーケーション会議
in 韓国・釜山

海外とのつながり
成長と価値生む

 仕事と休暇を組み合わせた働き方「ワーケーション」の舞台が海外に広がりつつある。中でも日本からほど近い韓国・釜山は海外のビジネスパーソンを受け入れる環境整備が進み、海外ワーケーションの適地として注目を集めている。11月22日に開催した「NIKKEIワーケーション会議 in 韓国・釜山」(主催=日本経済新聞社、釜山広域市、韓国観光公社、釜山創造経済革新センター)には、日韓のワーケーション実践者が登壇。釜山の魅力と海外ワーケーションの可能性について考えた。

※Smart Work経営とは
日経Smart Workプロジェクトでは、多様で柔軟な働き方を通じて人材や組織のパフォーマンスを高めるとともに、イノベーションを生み、新たな市場を開拓し続ける好循環を作り出すことで生産性を最大化する経営戦略をスマートワーク経営と定義している。日経SmartWorkプロジェクトの詳細はこちらから。

主催者挨拶

便利な観光都市

パク・ヒョンジュン氏

釜山広域市長

パク・ヒョンジュン

 首都圏への人口集中や少子高齢化に伴う地方の危機など、日本と韓国には共通の課題がある。そうした問題を解決する一つの方法として、日本でワーケーションが注目を集めていることは、韓国にとって示唆的だ。国境を越えるワーケーションを通じて両国が交流を深める意義は大きい。
 釜山は韓国有数の観光都市であり、グローバルにおいても観光先として存在感を増している。それと同時にビジネス都市としての機能もあり、大都市ならではの利便性を享受できる。まさにワーケーション適地と言えるだろう。

主催者挨拶

至近な海外拠点

キム・ジャンシル氏

韓国観光公社 社長

キム・ジャンシル

  2023年10月、韓国観光公社と日本ワーケーション協会は、交流拡大のための連携協定を結んだ。
 釜山はワーケーションに適した地域だ。韓国第2の都市としてインフラやデジタル環境が整備され、夜景も美しい。変化に富む自然景観や数多くの観光資源も魅力だ。
 日本の主要都市からは飛行機で1~2時間半。国内旅行と同じような感覚で訪れることができる一方で、海外ならではの非日常的な体験もできる。日本からごく近い非日常の海外ワーケーション拠点として、釜山の魅力に触れてほしい。

ご挨拶

取り組みさらに推進

下 宏氏

和歌山県副知事

下 宏

 和歌山県は日本におけるワーケーション発祥の地であり、2017年から全国の自治体に先駆けて取り組みを推進してきた。本県でのワーケーションは、いつもと違う場所に滞在しつつ、いつも通りの仕事をして、いつもと違う特別な体験ができる。そのために様々な価値を提供できる受け入れ体制を整えている。
 本県は駐大阪大韓民国総領事館の提案により、地理的に近く政策的な類似性も多い釜山広域市と、ワーケーションを普及推進するための覚書を締結した。今後も様々な取り組みを進めていきたい。

キーノート・スピーチ

関係性を広げ持続的発展へ

箕浦 龍一氏

一般社団法人
官民共創未来コンソーシアム
理事

箕浦 龍一

 先が読みづらく、これまでのやり方が通用しにくいVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代といわれる。変化に抵抗する閉鎖的な組織や地域は取り残されてしまうだろう。日本と韓国は女性の活躍割合が低く、社会・組織の多様性にも課題がある。人、企業、地域が混じり合うワーケーションは、そうした課題を乗り越え、VUCAの時代に新たな価値を創造するための鍵といえる。
 既存の序列や関係性から離れた環境で行うワーケーションは、フラットな人間関係を築きやすい。普段は付き合いのない異業種の人たちと交流する中で、新しい情報や気付きを得られることもある。イノベーションにつながる関係性を広げることが、ワーケーションの実践で目指すべき価値だ。
 地域にとっても「観光以上、移住未満」という関係人口を増やすことにつながるワーケーションの意義は大きい。人口減少時代に縮小するパイである定住人口をほかの地域と奪い合うより、繰り返し定期的に訪れてくれるコアなファンを獲得する方が、地域の持続的な発展にとって重要と言える。
 再びその地を訪れたいと思わせるには、訪問客と地域住民の交流をデザインし、「また会いたい」「また話したい」「また遊びたい」という人間関係をつくることが有効だ。訪問客と地域住民の交流件数や訪問客のリピート率が指標となる。
 日本と韓国の価値ある交流が発展していくことにも期待したい。

キーノート・スピーチ

リモート勤務海外都市でも

チュ・ジョンファン氏

LINEグローバル/韓国HR 総括

チュ・ジョンファン

 LINEのグローバル・韓国法人では、コロナ禍を契機にオフィスでもリモートでも働ける「ハイブリッドワーク」を制度化した。業務や組織の特性に応じて働く場所を選べる。
 リモートワークは自宅のほか、釜山など韓国国内の都市や、時差4時間以内の海外の都市でも可能だ。90%以上の従業員が週に1回以上、リモートで働いており、15%以上の従業員が自宅以外の韓国国内や海外でのリモートワークを経験している。
 働き方の変化はオフィスの在り方も変えた。単に業務をする場所ではなく、仲間と交流する、コミュニケーションする場所という性格が強くなった。そこで座席を自由にし、ミーティングスペースなど交流のための空間を増やした。
 リモートワークにはコラボレーションのための基本的なルールを設けている。まず休暇ではないことを明確化。仕事に集中でき、セキュリティーに配慮された業務環境がある場所で勤務するようにし、頻繁にフィードバックさせることでコミュニケーションを取るように促している。長時間勤務にならないように、仕事と生活のメリハリをつけることも求める。
 リモートワークでは、従業員の帰属意識の低下や孤立化を防ぐことも必要だ。社内行事をハイブリッド化してリモートでも参加できるようにしたり、仲間と目標を共有して取り組むプログラムを提供したりすることで、孤立感を減らし、連帯感を育んでいる。



パネルディスカッション

パネリスト

韓国3M カスタマーサービスマネージャー

イ・ナムヨン

メルカリ リコマース 事業部

天野 宏

MKPlanning 代表/社団法人ぷさんさらん 代表理事

昆 雅之

財団法人釜山創造経済革新センター 企画調整チーム長

ジョン・ヘヨン

コーディネーター

観光産業ニュース会社「トラベルボイス」代表取締役社長

鶴本 浩司

鶴本:釜山のワーケーション環境はどうか。

ジョン:韓国においてワーケーションは、人口減少地域の経済を支える効果的な手段だと考えられている。釜山においても①消費活動を行う生活人口の増加②域外企業の移転誘致③観光産業の振興──を目標にワーケーションの受け入れを推進している。
 インフラ施設として「拠点センター」「サテライトセンター」「パートナーセンター」を整備した。拠点センターには、独立した業務空間である「没入タイプ」、ネットワーキングなどを行う「関係タイプ」、会議室などの「協力タイプ」という各スペースがあり、目的に応じて使い分けられる。宿泊費用の支援なども拡充している(下の囲み記事参照)

ジョン・ヘヨン氏

ジョン・ヘヨン

昆 雅之氏

昆 雅之

:私は2014年に釜山で起業した。物流業を中心に日韓を結んでいる。ボランティア活動や日韓交流イベントなどを行う団体「ぷさんさらん」も立ち上げた。動画配信サイトで釜山の魅力を発信している。
 釜山には海水浴場が6カ所あり、いずれも都心部から30分程度で行ける。複合商業施設センタムシティ方面には近代的で外国らしい異空間が広がり、南浦洞(ナムポドン)エリアには古き良き釜山らしさが残る。Wi-Fi環境が充実しており、キャッシュレスで決済できる環境が整っているのも便利。何より日本からアクセスしやすいのは大きな利点だ。

鶴本:ワーケーション実践者の意見も聞きたい。

:釜山の優れている点を5つ挙げたい。第1にアクセスの良さ。様々な観光名所に公共交通機関で行ける。第2に公的な支援。拠点センターは非日常の空間で仕事をし、生産性を高めながら創造的なアイデアを生み出せる。
 第3にネットワーキング行事。試飲会など食事を兼ねたイベントや、何かを手作りする体験会などが毎週計画されている。私も時間を割いて参加するようにしている。異業種の人々と交流することで視野を広げることができた。
 第4に多様な観光資源があること。無料で体験できる観光プログラムもある。最後に都市としての多様性だ。便利なインフラが整っていると同時に豊かな自然がある。季節ごとの祭りやイベントも楽しい。

天野:3つの観点から釜山の特徴を考えてみた。1つ目はハード面だ。空港から市内中心部まで迷わずたどり着けた。また、鉄道で接続されているので移動時間が正確に読めるのも良い。滞在中もほぼクレジットカードだけで済んだ。日本の携帯電話も特別な設定が不要で、そのまま韓国で使えた。拠点センターの使い勝手も良い。日本語を話せる人も多い。
 2つ目はソフト面だ。釜山は観光都市でもあり、歴史を感じながら新しい文化を楽しめる。海岸線は美しく、街歩きも楽しい。色々な人と知り合うことで、もっと面白くなるだろう。
 3つ目は日本人にとってどうかという点。コロナ後の久しぶりの海外渡航先として、親しみやすくハードとソフトが充実した釜山は、初めての海外ワーケーションにも適した場所だと思う。

イ・ナムヨン氏

イ・ナムヨン

天野 宏氏

天野 宏

鶴本:ワーケーションにおいて「ネットワーキング」は重要なキーワードだ。

ジョン: ワーキングスペースを運営する上でも大切にしている。拠点センターでは毎週水曜日の午後6~8時にネットワーキングの時間を設けている。業種を超えた交流からエネルギーを得られると思う。

天野:毎週でなくとも毎月この日はオープン会合などとしておくと、事前に訪問日程を組みやすい。受け入れ側も個別に訪問されると疲れてしまうので、日本でも参考にできると思う。

:これまで7回ほどネットワーキングイベントに参加した。毎回とても有意義だった。多国籍なネットワーキングの場は得るものが多い。英語が流ちょうでなくても様々な気付きがあると思う。

鶴本:釜山の人々の人柄も素晴らしい。

:日本人が思う以上に距離的にも文化的にも近く、親しみを持って接してもらえる。日本人観光客が道を聞くと、道順を教えるだけでなく付き添ってくれることもある。親族が日本で暮らしている人も多く、ほかの外国より日本との関わりが深いと感じるだろう。

鶴本:最後に総括を。

ジョン:釜山から最も近い日本とワーケーション交流ができてうれしい。今後、関連産業のエコシステム(生態系)が形成され、釜山はグローバルワーケーションの聖地になると期待している。日本からも多くの人に訪れてほしい。

:釜山には、日本人が親しみやすいコミュニティーを形成できる土壌がある。「ぷさんさらん」でも現地の最新情報を発信し、人と人をつなぐ活動を続けていきたい。

:旅行は慣れた場所を離れて新たな体験をする道といえる。ときめきのある釜山でワーケーションしてみてほしい。

天野:釜山ワーケーションを言い表すなら、ノスタルジー、異文化、人情だろう。釜山を一望できる「168階段」はおすすめだ。日韓ワーケーションが一層発展することを願う。

鶴本 浩司氏

鶴本 浩司

釜山でワーケーション 幅広い支援内容

 釜山でワーケーションを実施する際は、釜山創造経済革新センターによるサポートをうまく活用したい。
 例えばミーティングスペースを兼ねた業務スペースが利用可能なほか、Wi-Fiや資料の出力サービスといった便利なビジネス環境が整っている。1人当たり25万ウォン(5泊)~50万ウォン(10泊)の宿泊費の支援などもある。
 シティーツアーバスの無料乗車券など、多様な観光商品の割引を提供する観光プログラムも充実している。ネットワーキング交流会や「ワンデークラス(1日体験)」、支社設立・移転などに関連した情報提供も受けられる。 詳細はこちら

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