曄道学生時代にリベラルアーツ・教養教育を受けても、社会人になると学び直す機会がない。職務上必要なスキルの習得一辺倒になってしまう。まさに、私自身が問題意識を持っている点です。一方で、同時に認識しておかなければならないのは、ビジネスパーソンの皆さんに、学生が受けているものと同じ題材や切り口で提供しても、満足してはもらえないだろうということ。様々な知識を吸収し、これから自分の方向性・専門性を探求していく立場の学生とは異なり、ビジネスパーソンの皆さんはすでにして、各分野におけるプロフェッショナルです。「知識を蓄え整理する作業」というよりは、得た知識を自身の仕事や価値観と響き合わせて「何を発揮できるかを考える作業」をしてもらわねばなりません。本プログラムは1講座全6回・年間30講座の教養講座、1講座全8回・年間6講座のスペシャリスト養成講座を中心に構成されますが、こうした「発揮」を意識したカリキュラムとなるよう、工夫しています。
赤坂どういう形で「発揮」されるのか。この点での成果というのは、短期的には「見える化」が難しい部分でもありますよね。ただ、ここではすぐに役立つ知識の積み上げというよりも、物事の「考え方」を学んでいるのだという認識が重要だと思うのです。学ぶ題材は、もしかすると何でも構わないのかもしれない。通常業務の中で日々使っている思考回路から頭を一旦離してみる。職場とは違う環境に身を置いて、学んで、全く別の世界や考え方に触れてみる。たいていそういうところから、新しいイノベーションは生まれてくるものだと思います。
曄道その通りですね。講座を受けて、会社に戻って、翌日すぐに何かが「発揮」されるということではないでしょう。「こんな考え方・視点があるのか」という発見や気付きを持ち帰ってもらいたい。
光吉本プログラムは「異業種・異職種の受講者同士の交流が生まれる」という点でもメリットが大きいと思います。講座で設定されたテーマに関して、広い視野で議論を交わすことができる。一つの組織の中で仕事をしているだけでは、なかなか気付けないことは多いですから。別の組織で働く者同士が意見を交わすことで、生まれてくるものがあるのではないでしょうか。
曄道大学で学ぶことの本質的な意味はそこにあると思います。多様な人々が集まる中で、議論をたたかわせるということです。コロナ禍の現在は難しい部分もありますが、今後そうした「場づくり」にはますます力を入れていきたいと考えています。
谷川その点に関していえば、本プログラムへの参加は、社内の多様性を再認識する機会にもなっています。当社では、受講対象を特定の職位や年齢層の社員に限定せず、完全にオープンにしています。入社してまもない新人から、様々な経験を積んできたシニアまで、幅広く参加しています。感想を聞くと、全く同じ講座を受けても、受け止め方が大きく異なっていることが多々あるのです。社内コミュニケーションを改善したり、促進したりするきっかけにもなるのではないかと感じます。
曄道職位も年代も様々な人たちが集まれば、社内でも面白い「反応」が生まれそうですね。
SOPHIA PROFESSIONAL STUDIES
※集計は2021年3月15日時点のもの
曄道今、社会的にも経済的にも大きなテーマとなっているのが「SDGs(持続可能な開発目標)」です。本プログラムも、「実践智」を生み出す場として、この課題に取り組んでいく上での糧となるような学びを提供していきたいと考えています。各社でSDGsに関して注力されていること、本プログラムに望むことがあれば聞かせてください。
谷川グローバルビジネスを展開する中で、SDGsへの取り組みに関しては欧州、米国が先行していると痛感しています。ぜひ、社員一人ひとりに視座を高めてもらいたい。当社は国内の地域金融機関とのネットワークを生かし、「ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)」を実践しています。困難な経営状況に置かれた地域の企業を、金融面で積極的に支えていく取り組みです。貴学と共同で「ファイナンシャル・ジェノントロジー(金融老年学、長寿がもたらす経済的な課題や高齢者の資産運用などを研究対象とする新しい学術領域)」の研究も始めました。ここから得られた知見も、様々な形で社会に還元していきたいと考えています。
光吉これまで従事してきた仕事が、本質的にはSDGsのいくつものゴールにつながっていたのだと強く実感しています。現在「ウッドショック」で国産材が注目されていますが、供給の拡大には林業従事者の高齢化や地方の過疎化などの構造的問題と切り離して考えることはできません。顕在化する様々なリスクと向き合うために、本プログラムでは今後も、そうした具体的な課題に対処していくためのヒントとなるような知見を得る機会を提供してもらえればうれしく思います。
赤坂当社としては、まず二酸化炭素(CO₂)排出をどれだけ削減できるかが最大のテーマです。2050年のゼロエミッションへ向けて、業界を挙げて取り組みます。加えて、とりわけ国内の航空運送事業を持続的に運営していくためには、地域活性化も非常に重要な課題です。このコロナ禍で業務が減った客室乗務員を地方拠点に配置転換し、観光振興などの業務に当たってもらう試みにも乗り出しました。働き方も大きく変化する中、社員にはこれまでの枠にとらわれない発想で活躍してほしい。本プログラムに関しては、各分野で注目を集める著名人を招いての講座にも期待します。きっと、社員のモチベーション向上につながることと思います。
曄道今はオンラインにたくさんの情報があふれ、知識を取り入れるだけでよいのなら、そのための気軽なツールもたくさんあります。しかし、学んだことを、より広い世界で通用する「実践智」へと昇華していくためには、異質な者同士が意見をぶつけ合う「知の鍛錬」が必要です。ぜひ本学で、業種や職種の垣根を超えて議論を交わしてほしいと思います。