N°5と調香師たちのストーリー

シャネル N°5、100年の伝説 Vol.4

2021.10.15

シャネル N°5、100年の伝説

N°5をめぐる連載の第4回目。今回は、エポックメイキングにして唯一無二のこの香りを生み出し、時代に即してその可能性を広げてきたシャネルの調香師たちに焦点をあて、N°5に向ける想いやそれぞれのクリエーションについて触れてみよう。

エルネストが暮らし、ガブリエルと出会った地、グラースの花畑の風景より。
エルネストが暮らし、ガブリエルと出会った地、グラースの花畑の風景より。

それはロシア生まれのひとりの調香師から始まった─エルネスト・ボー

20世紀を代表するクチュリエのひとりにして、ファッションの世界に数々の革命をもたらしたガブリエル・シャネル。そしてガブリエルとの邂逅(かいこう)を経て、N°5という稀有(けう)な香りを生み出した調香師エルネスト・ボー。奇跡的とも言えるふたりの出会いこそが、フレグランスの世界に変革と神話をもたらすN°5を誕生せしめた。

エルネスト・ボーはフランス人の両親の下、1881年のモスクワに生まれた。サンクトペテルブルグで若き日を過ごし、フランスの香水会社であるラレ社に入社。ロシア宮廷御用達のラレ社で能力を開花させたエルネストは、1917年のロシア革命の後にフランスへと渡り、グラース近郊に住まいを構える。香水作りのメッカでもある地で、彼は数々の香料に夢中になり、また新たな合成香料アルデヒドに魅了された。ガブリエル・シャネルとエルネスト・ボーの最初の出会いは彼の研究室であったそうだが、そこでガブリエルは自分が求める香水について語り、エルネストはアルデヒドについて熱く語り合った。そして希少にして大変高価な香料であったグラース産のジャスミンとローズ ドゥ メ、合成香料アルデヒドを用い、1921年にN°5を完成せしめたのである。

シャネル社の初代調香師となった彼はシャネル N°5 パルファムに続き、シャネル N°5 オードゥ トワレットも生み出し、ほかにも『N°22』、『ガーデニア』、『ボワ デ ジル』、『キュイール ドゥ ルシー』など、今日も愛される名香を創作。シャネルのフレグランスの礎を築き、1961年にその生涯を終えた。

3代目の専属調香師。シャネルの伝統を守りながら、数多くの香りを創造したジャック・ポルジュ。
3代目の専属調香師。シャネルの伝統を守りながら、数多くの香りを創造したジャック・ポルジュ。
希少な香料の継続のために活動するのもシャネルの調香師としての役割だ(写真はイメージ)。
希少な香料の継続のために活動するのもシャネルの調香師としての役割だ(写真はイメージ)。

メゾンの伝統と未来を紡ぐ香りの番人─ジャック・ポルジュ

エルネスト・ボーの後、2代目専属調香師に就いたアンリ・ロベール。シャネル社初のメンズフレグランスである『プール ムッシュウ』や、ガブリエル・シャネルの誕生日である8月19日に因んで命名された『シャネル N°19』などをクリエイトした。その跡を引き継いで3代目調香師の座に着いたのがジャック・ポルジュだ。1978年から2015年までの長きに渡って活躍した彼の名をご存知の人も多いだろう。フランス・ラーニェに生まれ育った彼は、家族旅行でカンヌやグラースを訪れ、12歳の頃から香りに興味を持ったという。大学卒業後はフランスのルール社に入社。調香師として働き始めた彼はその頭角を現し、シャネルに入社後は『ココ』、『エゴイスト』、『アリュール』、『チャンス』などなど枚挙にいとまがないほど多くの作品を送り出してきた。

調香師とは、フレグランスや化粧品のために調香する技術を持つものであり、パフューマー、フランス語では鼻(ネ)とも称される。が、単なる技術だけではなく天性の才能と弛まぬ修練、そして芸術家とも呼ぶべき才が求められる存在であることは間違いないだろう。加えてシャネルという特別なメゾンの専属調香師だ。伝統を擁護し、新たなスタイルを紡ぎ出す能力も求められる。そのジャック・ポルジュが現代という時代に合わせてシャネル N°5を再解釈し、香水の豪華さとトワレのカジュアル感を併せ持つ存在として世に送り出したのがN°5 オードゥ パルファムだ。さらに2008年には軽やかでみずみずしい印象のシャネル N°5 オー プルミエールを作り出し、N°5の可能性をさらに広めた。彼はこう語っている。「N°5は、時の経過とともにその魅力を増していきます。年月を経るほどに、より神秘的に、奥深くなっていくのです」。

父、ジャックの跡を継いで4代目の調香師に就任したオリヴィエ・ポルジュ。
父、ジャックの跡を継いで4代目の調香師に就任したオリヴィエ・ポルジュ。
シャネル社がグラースの花栽培農家ミュル家と手を携えて守るジャスミンの花畑で。
シャネル社がグラースの花栽培農家ミュル家と手を携えて守るジャスミンの花畑で。
数々の香料が並ぶラボの風景より。
数々の香料が並ぶラボの風景より。

N°5の中には、シャネルのすべてがある─オリヴィエ・ポルジュ

「20歳になった頃、調香の勉強を始めました。その時に気づいたのは音楽とフレグランスは同じ言語であること。音符と和音を組み合わせるかのように、私は香りの旋律を書き下ろしました」と言うのは、オリヴィエ・ポルジュ。姓からわかる通り、オリヴィエはジャックの子息。当初は美術史の研究の道に進んだが、後に調香師としてのキャリアを選択。2015年、引退した父の後、シャネルの4代目調香師に就任した。既に15点を超えるシャネルの香りを創作しているが、そのオリヴィエが時代の本質を捉え、新たにクリエイトしたのがシャネル N°5 ロー オードゥ トワレットだ。「シャネルN°5は、極めてコンテンポラリーな一面を持ち合わせています。今、N°5の香りをもう一度つくり出すということは、オリジナルの香りとの関係性を、そして現代に生み出す意味を紐解き、明らかにするということです」とオリヴィエ。ブランドの魂であり、絶対的な存在であるN°5。そのスタイルや価値を未来へとつなぐには類稀な才能が必要だろう。原料に対する敬意と永続のための努力も必須だ。父、ジャック・ポルジュが長年にわたって努めてきたように。

「N°5は自らの個性を示す最高の証です。そしてN°5の中には、シャネルのすべてがあるのです」。

『ホリデー コレクション 2021 N°5』
『ホリデー コレクション 2021 N°5』
環境に優しい紙パルプ製パッケージに包まれたN°5の特別限定ボトル。ボトルもリサイクルガラスを初めて使用。シャネル N°5 ロー オードゥ トワレット 100ml ¥19,580、シャネル N°5 オードゥ パルファム 100ml ¥21,340(ともに10月29日から限定発売)
左から、レ キャトル オンブル N°5 ¥7,920、ルージュ アリュール 全5色 各¥5,280、フリュイド アンルミネール オー イヴォワール ¥6,600、ボーム エサンシエル オー ¥6,050、ヴェルニ ロング トゥニュ 913 ¥3,520(すべて10月29日から限定発売)/すべてシャネル
左から、レ キャトル オンブル N°5 ¥7,920、ルージュ アリュール 全5色 各¥5,280、フリュイド アンルミネール オー イヴォワール ¥6,600、ボーム エサンシエル オー ¥6,050、ヴェルニ ロング トゥニュ 913 ¥3,520(すべて10月29日から限定発売)/すべてシャネル(シャネル カスタマーケア0120-525-519)

誕生100年を祝う特別なコレクション

100周年を迎えたN°5。その華々しい祝祭ムードを表して発表されるのが、『ホリデー コレクション 2021 N°5』だ。ガブリエル・シャネルのラッキナンバーである『5』をあしらったホリデー特別限定ボトルのシャネル N°5 オードゥ パルファム、シャネル N°5 ロー オードゥ トワレット。27個の箱にシャネルを象徴するアイテムを内蔵したアート作品のようなシャネル N°5のアイコニック ボトル型カレンダーは、まさしくコレクターズ・アイテムとなりそうだ。メークアップでは、N°5のジュースの色であるゴールドやアンバーをメークアップ アイテムに仕立てたこのコレクションを展開。核となるのはレ キャトル オンブル。まばゆい煌(きら)めきのアンバーやパール感が美しいアイヴォリーなど、祝祭に相応しい4つのカラーの上にはN°5のモチーフが象られている。そのほか、リクィッド アイシャドウのオンブル プルミエール ラック、特別パッケージのルージュ アリュールなどもラインアップする特別限定品のコレクション。なにかと憂いの多い1年だったからこそ、N°5にあやかって、2021年を美しく華々しく締めくくりたいものだ。

写真 ©CHANEL
Editor: Midori Kurihara

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