エルメスのビューティ・ラインから、ネイルカラーが誕生した。リップスティック、チークカラーに続く、第3章とも言える「レ・マン・エルメス」。その魅力を、エルメスのビューティの全貌とともにお伝えしよう。
第3章の始まり
そのオレンジ色のボックスを開けるとき、誰しもときめきと喜びを覚えるはずだ。エルメス──1837年の創業以来、200年近くもの歴史を誇る老舗にしてかけがえのないメゾンだ。馬具づくりからスタートし、傑出したクラフトマンシップ(職人の技巧)と高品質なものづくりの理念を掲げ、生活に根ざした美を形にするアルチザン(職人的芸術家)でもある。そのエルメスの16番目のメチエ(製品カテゴリー)として、2020年にデビューしたのが「ルージュ・エルメス」だ。エルメスがいよいよビューティのジャンルに、と大きな話題を呼んだこのリップスティックこそが、ビューティにおける第1章だった。テーマは、その人の本質そのものを引き立てること。第2章としてチークカラーの「ローズ・エルメス」。そして第3章として登場したのが「レ・マン・エルメス」。コレクションの主役であるネイルカラーは全24色。エルメスの製品に欠かせないエナメルの色とニュアンスを源とする色展開で、ちなみに24色というのは、1880年からアトリエと店舗を構えるフォーブルサントノレ24番地にちなむ数字。また33番はオレンジのボックスの色、85番は黒や茶色以外で初めてレザーにつけた色というエピソードも楽しい。顔と同様に、気持ちを表すパーツである手。そんな手元に美をもたらすコレクションだ。
美のオブジェ
パッケージ・デザインも、エルメスのビューティ・ラインの大きな魅力だ。「ルージュ・エルメス」、「ローズ・エルメス」、そして「レ・マン・エルメス」の容器にも、エルメスらしい意匠とこだわりが貫かれている。器としての機能性をパーフェクトに満たした上で、うっとり見とれてしまうようなたたずまいの美しさ。リップスティックは白、黒、ゴールド色のメタルを組み合わせたデザイン。口紅の先端も、サテン仕上げタイプは唇全体を塗るのに適した丸みを帯びた形状、マットタイプは正確なラインを描いたり、輪郭を際立たせられるよう先の尖ったスティック状に。またチークカラーは、リップスティック容器の円柱のオブジェをパレットへと変容させ、ゴールドのアクセントを。そしてネイルは、ガラスのボトルから透ける色と質感を伝えるながら、遊びのあるプロポーションに。パッケージを閉める際の音さえ計算され尽くし、実用性とファンタジーを融合させたそれらのデザインこそ、用の美と呼ぶべきだろう。クラフトマンシップとしてのエルメスの矜持(きょうじ)はここにも生かされている。
美しさ、それは仕草
「レ・マン・エルメス」にはネイルカラーのほか、ベースコート、トップコート、ハンドクリーム、ネイルファイル、ネイルケアオイルもそろっている。植物成分配合で溶け込むようになじみ、ベタつきも残らないハンドクリーム、100%天然由来成分のケアオイルが潤いを与えて爪を保護するネイルオイルなど、これもまた名品ぞろいだ。また、「ルージュ・エルメス」と「ローズ・エルメス」には、同社のさまざまなフレグランスを手がける香水クリエーション・ディレクター、クリスティーヌ・ナジェルによるアロマティック効果のある香りも施されている。それはまさしくメイクする喜びとともに自分を磨き上げ、五感とともに使い手である私たちを満足させるコレクションだということ。その人本来の美しさを引き出し、見て、触れて、肌にのせてと、五感で私たちを満たして、メイクする仕草さえ美しく仕立て上げる。エルメスのビューティは、そんな美学を秘めたコレクションなのだ。
Photos: Toshimasa Ohara(aosora) Editor: Midori Kurihara