蜷川実花さんインタビュー「コロナ禍で気付いたのは、永遠ではないとわかっているからこそ光り輝く美しさが眩しく見えてくるということ」

2021.09.10

《earthly flowers, heavenly colors》(2017)
《earthly flowers, heavenly colors》(2017) © mika ninagawa,Courtesy of Tomio Koyama Gallery

映画監督としても知られる写真家の蜷川実花さんの大規模な展覧会「蜷川実花展 -虚構と現実の間に-」が9月16日から東京・上野の森美術館で開催される。今回の展覧会は、2018年からスタートした全国10会場での巡回展の集大成。色鮮やかな花々を捉えた《永遠の花》《桜》、時代を象徴する人物を撮影した《Portraits of the Time》などの代表作のほか、新たな写真、映像、インスタレーションが加わるという。
 展覧会に込められた、作家自身の思いとは? 開催を控えて多忙な日々を送る彼女にインタビューを敢行した。

《earthly flowers, heavenly colors》(2017)
《earthly flowers, heavenly colors》(2017) © mika ninagawa,Courtesy of Tomio Koyama Gallery

――「虚構と現実の間に」と題された展覧会のタイトルがとても印象的です。今回、「虚構と現実」というテーマを選ばれた理由を教えてください。

蜷川:もともと自分の生活と作品づくりが地続きで、境界線があまりないんです。それは、写真は世界を切り取る作業だということもあるんですが、演出家の父(故・蜷川幸雄さん)に連れられて幼少期に劇場で遊んでいたことの影響も大きいと思っています。幼い頃から虚構の世界がすぐ隣にあって、現実との境目が曖昧でしたし、都会も好きで、ビル群にいると森の中にいるような気持ちになったり。
 それからもう一つ、昔から金魚やソメイヨシノ、造花など、人の手が入っているものに強く惹かれるんです。例えば金魚は、「より美しいもの、誰も見たことがないものが見たい」という人々の欲望のために、繰り返し品種改良されて生まれたもの。生命としてはとても弱くて、自然界では生きられないと言われています。造花は「枯れない花がほしい」という願いでしょうし、ソメイヨシノはクローンですよね。

《Untitled》
《Untitled》© mika ninagawa,Courtesy of Tomio Koyama Gallery

蜷川:人間の欲望や思いが入っているからこそ美しい。私は昔から、そんなふうに思うところがあります。野山にひっそり咲いている植物よりも、花壇やフラワーパークのように人の手が入っているもののほうがグッときます。
 誰かに見られるためのもの、人々の思いを背負っているものの覚悟と美しさ。必ずしもリアリティーがあることや現実が素晴らしいわけでもないし、虚構的なものが劣るとも思っていないんですよね。

――「虚構と現実の間に」という言葉は、今、この時代に、リアルとオンラインの間を行き来し、混沌とした状況のなかにいる私たち自身のありようを示しているようにも感じられます。蜷川さんにとって、「虚構と現実の間に」あるものとは何でしょうか。

蜷川:虚構と現実のちょうど間のところがすごく居心地がよく、リアリティーがある。明確な境目がなく、ゆるやかにつながっている場所です。そして、この場所からその虚構の先にある未来の景色を見たいなと思っているところです。

《Untitled》
《Untitled》© mika ninagawa,Courtesy of Tomio Koyama Gallery

――なるほど。蜷川さんの「虚構と現実の間」の捉え方、そして作品は、不寛容な社会のなかで視点を変えるヒントになるかもしれません。東京・上野の森美術館で開かれる今回の展覧会は、これまでに開催してきた全国10会場での巡回展の集大成であり、新たな写真、映像、インスタレーションが加わるそうですが、どのようなものになりそうですか。

蜷川:巡回展ということで今までの流れはくみつつも、見せ方を徹底的に変えて再構築していますので、かなりアップデートした内容になると思います。写真は「撮る」ことがもちろん重要なんですが、撮ったあとのまとめ方や発表の仕方が、撮ることと同じくらい重要。隣にどんな写真があるかで意味が変わってくるし、見え方も変わってくるので。
 具体的には、初めての試みとして、撮ったときの感情別に花の写真を展示してみようと思っています。そして、クリエーティブディレクターとして制作に関わり、パラアスリートを撮影させていただいているフリーペーパー「GO Journal」で撮影した写真もまとめて展示する予定です。「GO Journal」は、「この本が、パラスポーツ、パラアスリート、障がい者を取り巻く環境や意識が変わるきっかけになれたら本当にうれしい」という思いのもと、2017年から続けてきた、とても大切なものですし、選手の皆さんが本当に強く美しくかっこいいので、ぜひ見ていただきたいです。
 写真や映像の展示以外に、私の頭の中が覗けるようなインスタレーションの部屋もつくりますので、楽しみにしていてください。

《Light of》(2015)
《Light of》(2015)© mika ninagawa,Courtesy of Tomio Koyama Gallery

――かなり見ごたえがありそうですね、楽しみです。巡回展がスタートしたのは2018年、コロナ禍の前でした。その頃と比べると世の中はずいぶん変わってしまった感がありますが、東京の展覧会で新たにラインアップされる作品には、蜷川さんがコロナ禍を通して考えたこと、感じたこと、今だからこその思いなどが反映されてもいるのでしょうか。

蜷川:2018年にスタートしてからの3年間は、世界が音を立てて変わったときでしたよね。楽しさを追い求め、自分の欲望に忠実であることを美徳とする世界は一度ストップしたと思うんです。そして「やっぱり私は写真家がベースなんだ」ということを再認識しました。世界の捉え方が変わりましたし、内包されているものが見えてきたというか。
 気付いたのは、私の写真は「もののあわれ」がテーマだったんだなということ。はかなくて、瞬間でなくなってしまう感情を共有したい、残したいと願うからシャッターを押す。続かない、永遠ではないとわかっているからこそ、光り輝く美しさがあるし、まぶしく見えてくる。その瞬間をいかに封じ込められか。自分にとって何が大事なのか、世界にあふれている尊さや輝きに気付かされました。

《うつくしい日々》(2017)
《うつくしい日々》(2017)© mika ninagawa,Courtesy of Tomio Koyama Gallery

――日経電子版「SPIRE」のユーザーは知的好奇心が高く、アートに対する興味もお持ちです。毎日をはつらつと過ごす一方で、社会に立ちはだかるさまざまな「壁」にも悩んでいます。今、同じ時代を生きる女性として、SPIREユーザーの女性たちの背中を押してあげられるようなメッセージを、蜷川さんからいただけるととてもうれしいです。

蜷川:もし自分が周りの人と違ったり、少数派だったりしたとしても、そこに負の感情を持つ必要はないと思っています。そして、無意識のうちに刷り込まれている「こうあるべきだ」という言葉に縛られないでほしいなと。人と違うことを恐れず、ときには自分のことを思いきり甘やかして、自分を愛してあげることも大切だと思っていて。人と人は違うからこそ美しい――それが真実であると思っています。そして、私の作品を見てくれた方々が、少しでも上向きな気持ちになって、女性であることを楽しいと肯定できるような作品をつくり続けられたらと思っています。

蜷川実花氏

蜷川実花

写真家、映画監督。木村伊兵衛写真賞ほか数々受賞。映画『さくらん』(2007年)、『ヘルタースケルター』(2012年)、『Diner ダイナー』(2019年)、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019年)監督。2020年2月からNetflixオリジナルドラマ『FOLLOWERS』が世界190カ国で配信中。映像作品も多く手がける。2008年、「蜷川実花展」が全国の美術館を巡回。2010年、Rizzoli N.Y.から写真集を出版、世界各国で話題に。2016年、台北現代美術館(MOCA Taipei)にて大規模な個展を開催し、同館の動員記録を大きく更新。2017年、上海で個展「蜷川実花展」を開催し、好評を博した。2018年から全国の美術館を巡回中してきた大規模個展「蜷川実花展—虚構と現実の間に—」が2021年9月16日から11月14日まで上野の森美術館で開催。2020年、最新写真集『東京 TOKYO』発表。

Editor: Kaori Shimura

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