『ピーターラビットのふるさとをまもりたい ビアトリクス・ポターものがたり』

心で読む大人のためのこどもの本 vol.11

2022.04.22

「目標を見失いがち」「ヤル気が起きない」そんなふうに思ったら、大人向けの本をしばし脇において、絵本を開きます。読めない文字はないし、意味を調べないとわからない言葉も出てきません。すいすい読めます。けれど、心が閉じていたり、こわばっていると、大事なメッセージをキャッチすることはできません。目や頭で読むというより、“心で読む”という意識でページをめくると、絵本はベターアンサーの宝庫、思考スイッチの泉です。今回は“心を元気づける”作用たっぷりの1冊をご紹介します。

Vol.11『ピーターラビットのふるさとをまもりたい ビアトリクス・ポターものがたり』

『ピーターラビットのふるさとをまもりたい ビアトリクス・ポターものがたり』

怠け癖が出てきて仕事がはかどらないとき、私を助けてくれるのは、偉人たちの人生を綴った可愛らしい伝記絵本です。ゆったりとお茶でもしながら、何かを成し遂げた人の物語を読むのは至福の時間。こんな昔に、こんなことをしていたなんて!と思うと、自然と鼓舞され、お茶を飲み終わる頃にはモチベーションが微(かす)かにアップしている自分に気づきます。そんなモチベアップの1冊。それが、今回ご紹介する『ピーターラビットのふるさとをまもりたい ビアトリクス・ポターものがたり』です。

世界中でもっとも愛されているうさぎ、といえば、文句なしに「ピーターラビット」です。1902年に初めて絵本に登場し、今年はなんと出版120周年。「ピーターラビット展」も東京・世田谷美術館で開催中(〜2022年6月19日)です。ピーターラビットの可愛さもさることながら、この物語の生みの親、ビアトリクス・ポター(1866-1943)にも注目せずにはいられません。レニー・ゼルヴィガーが主演の映画『ミス・ポター』でその経歴を知ってはいましたが、改めてこの絵本を読んで、彼女の意志の強さと優しさに心打たれました。

『ピーターラビットのふるさとをまもりたい ビアトリクス・ポターものがたり』
ビアトリクスは、飼っていたうさぎ、その名もベンジャミン・バウンサーのじっと見つめる正面の顔や、躍動的に駆ける姿など、あらゆる表情や動作を活写。その素描力の高さは、彼女の観察眼の鋭さ、細やかさを表しています。そしてついに、紙の上のベンジャミンを立ち上がらせ、あのブルーのジャケットを着せます。ピーターラビットの誕生です!

女性が仕事をするのがまだまだ難しい封建的な時代に、自費で本を出版したところ評判になり、出版社から声がかかり満を持して刊行した「ピーターラビットのおはなし」がベストセラーに。本のみならず、ゲームやティーカップなどにピーターラビットの絵をあしらい販売したところ大ヒット。今で言うキャラクタービジネスの先駆けでもありました。それで得たお金で、物語の舞台としてもおなじみのイギリス・湖水地方に大きな農場を手に入れ、最終的にはおよそ1,600万平方メートルという広大な土地と15の農場、そこに暮らす動物たちがきちんと管理され保護されるよう、ナショナル・トラストに寄贈します。すべては豊かな自然と愛すべき動物たち、そして、のどかな田園風景を守り抜くため。小さな絵本から、とっても大きな事を成し遂げました。

ビアトリクスが最初に物語を書いたのは、自分の家庭教師を務めていた女性の息子さんであるノエルが病気になり、彼を元気づけるためでした。子どもの小さな手で読むから、あのハンディサイズなんだ、と知り胸が熱くなりました。病気がちだった幼稚園生の頃、ベッドサイドにずらりと並べていたのは、石井桃子さん訳の「ピーターラビットのおはなし」シリーズでした。体が弱っていると力が出ないため、大きなサイズの絵本はことさら重く感じられましたが、手のひらサイズの「ピーターラビット」の本は子どもの手に無理なくおさまり、優しい色使いの繊細なタッチの絵、じんわりと元気になる話の顛末に励まされていた日々をふと思い出しました。あれから50年弱。すっかり元気な大人になりましたが、ビアトリクス・ポターの芯が通った生き方に未だ力づけられています。

『ピーターラビットのふるさとをまもりたい ビアトリクス・ポターものがたり』
『ピーターラビットのふるさとをまもりたい ビアトリクス・ポターものがたり』
文/リンダ・エロビッツ・マーシャル 絵/イラリア・アービナティ 訳/おびかゆうこ 刊/あかつき教育図書

アメリカ、ボストン育ちのリンダ・エロビッツ・マーシャルは子どもの本を手がける作家で、本書のあとがきではビアトリクス・ポターゆかりの地を訪れた際の回想も記しています。また、イタリア、トリノ在住のイラストレーター、イラリア・アービナティの伸びやかな水彩画も自然あふれる物語にぴったり。ポターが着ている可愛い衣装の数々も必見です。

Photos: ASA SATO
Text: maikohamano_editforbookbar

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