「視界が狭まっているな」「ユーモア不足」そんなふうに思ったら、大人向けの本をしばし脇において、絵本を開きます。読めない文字はないし、意味を調べないとわからない言葉も出てきません。すいすい読めます。けれど、心が閉じていたり、こわばっていると、大事なメッセージをキャッチすることはできません。目や頭で読むというより、“心で読む”という意識でページをめくると、絵本はベターアンサーの宝庫、思考スイッチの泉です。今回は、“心震わせる”作用たっぷりの一冊をご紹介します。

Vol.12『ナイチンゲールのうた』

「当たり前」「常識」「お約束」に縛られず、何にもとらわれない、まっさらな目線や考え方が羨ましいな、と思うことがしばしばあります。“なんで?”“どうして?”を連発していた子どもの頃を懐かしく思い、時々絵本の力を借りて、もはや憧れとなりつつあるピュアな感性を注入する昨今です。枯渇気味だったイマジネーションがぐいぐいと刺激され、最後にちょっぴりホロリとさせる一冊。それが、今回ご紹介する『ナイチンゲールのうた』です。

舞台は、みずみずしい色にあふれた地球。金色のおひさま、銀色の川、むらさきの山あい……という冒頭の言葉を読んで、はっ!とします。おひさまはオレンジ、川は水色、山は緑、と当たり前のように決めつけていた固定観念が、のっけから打ち砕かれ、鮮やかで深みのある色彩の躍動感に目が奪われます。が一転、「ところが、どうぶつたちときたら! みんなぼんやり くすんでいる。」と、黒と白の濃淡のみで描かれた、どこか表情乏しき動物たちが登場します。そこで、「えかきさん」が立ち上がります、みんなにも色をつけよう!と。

「えかきさん」の号令のもと、水・陸・空・地中から続々と集まる動物たち。テントウムシには点々を、シマウマにはしましまを、キリンには五角形や六角形模様を、と次から次へ、それぞれに合う色と模様を施していきます。ダイナミックな構図と、にじみやぼかしの効いたニュアンス漂う色彩が、動物たちを生き生きとした姿へと生まれ変わらせます。

動物たちが、なぜその色や模様をまとっているのか? それぞれのキャラクターにちなんだユーモラスな行動を交えた理由が描かれていて、クスッとさせます。ようやくすべてを塗り終えた頃、日は沈み夜になっていました。そこに、一羽の小鳥が首をかしげて待っている姿を「えかきさん」は発見します。仕舞ったばかりの絵の具箱を開けますが、なんと、色という色すべてを使い切ってしまっていたのです。残るは、ほんのひとしずくの金の絵の具のみ。

この最後の最後に現れたのが、ナイチンゲール。日本では、サヨナキドリとかヨナキウグイス(夜鳴鶯)と呼ばれている、澄んだ美しい鳴き声の持ち主です。「えかきさん」の粋なはからいが、闇夜に響く美声を叶えているかと思うと実にロマンティック。カラフルな創世神話絵巻のような世界から、最後は、窓辺でナイチンゲールのうたに耳を澄ます女性の姿で物語は締めくくられています。日本には生息していないようで、思わずYouTubeで検索をして、夜明けが近いことを告げるといわれるその鳴き声に聴き入ってしまいました。生命の不思議や尊さ、地球の住人同士であることに心が震えると同時に、なぜか、クリミア戦争に従軍したフローレンス・ナイチンゲールを想ったのは、大人の深読みがすぎるでしょうか。

『ナイチンゲールのうた』 作/ターニャ・ランドマン 絵/ローラ・カーリン 訳/広松由希子 刊/BL出版

絵本やヤングアダルト向けの歴史小説などを手がける英国の作家ターニャ・ランドマンの物語に、同じく英国出身のイラストレーター、ローラ・カーリンの叙情的なタッチの絵が美しく融合。モノクロームのページと、跳ね散るようなカラーのページ、細やかな点描と大胆な一筆描きのコントラストが、物語の静と動、昼と夜の転換をリズミカルに展開させます。

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Photos: ASA SATO Text: maikohamano_editforbookbar