時代を反映した注目の映画5選。カンヌ国際映画祭2022を振り返る

2022.07.01

©Paramount Pictures Corporation - Jim Carrey, The Truman Show by Peter Weir / Graphic Design ©Hartland Villa
©Paramount Pictures Corporation - Jim Carrey, The Truman Show by Peter Weir / Graphic Design ©Hartland Villa

新型コロナウイルス禍により2020年は中止、21年は7月に延期開催されたカンヌ国際映画祭。第75回という節目の年となった今年は、3年ぶりに従来どおり、5月開催が実現した。そのキャリアを称えられ、名誉パルムドールを受賞したトム・クルーズ主演による『トップ・ガン マーベリック』やバズ・ラーマン監督による伝説のシンガー、エルヴィス・プレスリーの伝記映画『エルヴィス』といったハリウッド大作が華を添える一方、ロシアのウクライナ侵攻の影響も少なくはなかった。
 開催前から、ロシア政府を支持する映画製作者、およびロシア政府から援助を受けている作品の受け入れを拒否するという声明を出すなど、ウクライナ支持を表明していた映画祭だが、4月にウクライナでドキュメンタリーを制作中にロシア軍に殺害されたリトアニア出身のマンタス・クベダラビチュス監督の遺作『マリウポリス2』が特別上映され、またレッドカーペットではたびたび、抗議デモも行われた。これも、“時代を映す鏡”でもある映画の祭典らしい光景といえるだろう。

©Christophe Bouillon / FDC
©Christophe Bouillon / FDC

メインとなるコンペティション部門では21本の作品が上映された。デヴィッド・クローネンバーグ、ダルデンヌ兄弟、是枝裕和といったカンヌの常連監督が名を連ねるなか、最高賞であるパルムドールを受賞したのはスウェーデンのリューベン・オストルンド監督の社会風刺コメディ『トライアングル・オブ・サッドネス』である。2017年の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』に続き、2作連続で2度目の受賞。ちなみに、これまで2度パルムドールを受賞したのは今村昌平、ケン・ローチ、ダルデンヌ兄弟、ミヒャエル・ハネケなど8人(組)、オストルンドは9人目となる。
 2018年にパルムドールを受賞した是枝裕和監督は、今年は韓国で制作した『ベイビー・ブローカー』でコンペ部門に選出された。ソン・ガンホやカン・ドンウォンら映画祭などを通じて知り合った俳優と作品をつくるという動機と、『そして父になる』のリサーチ段階で知った“赤ちゃんポスト”という題材が結びついて実現した興味深いプロジェクトである。主演のソン・ガンホが見事男優賞を受賞したが、これは韓国人俳優として初めての快挙。パルムドール受賞作『パラサイト 半地下の家族』にも主演、去年は審査員も務めているソン・ガンホは、カンヌではおなじみなだけに、韓国を代表する名優の受賞には大きな拍手が送られた。
 また、日本関連では「ある視点」部門に選出された『PLAN 75』の早川千絵監督が、カメラドール(新人監督賞)スペシャルメンションを受賞といううれしいニュースもある。昨年は『TITANE チタン』のジュリア・デュクルノーが女性監督として28年ぶりに史上2人目のパルムドール受賞者となるなど時代の追い風もあり、女性監督の活躍が目覚ましいが、日本の新しい才能の誕生にも大いに注目したい。

<パルムドール(最高賞)>
『トライアングル・オブ・サッドネス(原題) / Triangle of Sadness』

映画『トライアングル・オブ・サッドネス(原題) / Triangle of Sadness』 ©Fredrik-Wenzel ©Plattform
映画『トライアングル・オブ・サッドネス(原題) / Triangle of Sadness』 ©Fredrik-Wenzel ©Plattform

キャリアに陰りが見え始めた男性モデル(ハリス・ディキンソン)とSNSのインフルエンサーの恋人(チャールビ・ディーン・クリーク)は、高級客船のクルーズに招待されるが、海賊に襲われて船は大破、生存者たちは無人島に漂着する。途方に暮れる富豪たちを尻目に、火を起こしたり魚を捕ったりなど生活力のある中年の掃除婦アビゲイル(ドリー・デ・リオン)は、次第に権力を握っていく。
 環境が一転したことによるヒエラルキーの逆転をテーマにした作品はこれまでにもあったが、オストルンドは、オーソドックスな階級闘争のプロットを過激にアップデートしている。ファッション界や富裕層を揶揄するだけでなく、ルッキズム、ジェンダーロール、人種問題といったあらゆる角度から突っ込みを入れる。現代美術界や知識階級層を標的にしたダークコメディである前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2018年)が肌に合わなかった人にはおすすめできないが、今年、スクリーニング会場が最も湧いた刺激的な作品であることは間違いない。

映画『トライアングル・オブ・サッドネス(原題) / Triangle of Sadness』

監督:リューベン・オストルンド
出演:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ウディ・ハレルソン
©Fredrik-Wenzel ©Plattform

<グランプリ>『クローズ(原題) / Close』

映画『クローズ(原題) / Close』 ©Kris Dewitte_Menuet
映画『クローズ(原題) / Close』 ©Kris Dewitte_Menuet

思春期の入り口にさしかかった少年の友情を描いた繊細な青春映画。13歳のレオは、ちょっとした出来事がきっかけで親友のレミとの関係がギクシャクしたものになり、やがて混乱へと陥る。花卉(かき)栽培を営む家に生まれ育ったレオが駆け巡る花畑のシーンなど、圧倒的に美しい牧歌的な風景とは裏腹に、花は摘み取られ、包装されて出荷されるという大人への階段の隠喩としても読み取れる。
 2人の新進俳優たちの初々しさに加えて、後半のドラマのキーパーソンとなるレミの母親役を演じるエミリー・デュケンヌの存在感が際立つ。1999年のカンヌでパルムドールと女優賞を受賞したダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』でセンセーショナルにデビューしたデュケンヌが、再びカンヌで花開いた。

映画『クローズ(原題) / Close』

監督:ルーカス・ドン
出演:エミリー・ドゥケンヌ、レア・ドリュッケール
©Kris Dewitte_Menuet

<男優賞>ソン・ガンホ『ベイビー・ブローカー』

映画『ベイビー・ブローカー』 ©2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
映画『ベイビー・ブローカー』 ©2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

“赤ちゃんポスト”に預けられた乳児を闇で売買しているサンヒョク(ソン・ガンホ)とドンス(カン・ドンウォン)、赤ちゃんの若い母親ソヨン(イ・ジウン)、彼らを追う刑事たち(ペ・ドゥナ、イ・ジュヨン)。コメディタッチのロードムービーというスタイルを取りながらも、それぞれの人々の人生を垣間見せることにより、命の価値といった本質的なテーマに深く切り込むヒューマン・ドラマ。『そして父になる』『万引き家族』とともに、現代の家族、あるいは疑似家族についての3部作ともいえる作品。制作はアカデミー賞を受賞したポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(2019年)の製作会社であるため、映画の国籍は韓国映画となる。

映画『ベイビー・ブローカー』

監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ぺ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨン
TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開
配給:ギャガ
©2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

<女優賞>ザール・アミール・エブラヒミ『ホーリー・スパイダー(原題) / Holy Spider』

映画『ホーリー・スパイダー(原題) / Holy Spider』 ©2022 ©Profile Pictures / One Two Films / Nadim Carlsen
映画『ホーリー・スパイダー(原題) / Holy Spider』 ©2022 ©Profile Pictures / One Two Films / Nadim Carlsen

よき家庭人である一方、「聖なる使命を持って街を浄化する」という主張の元、娼婦を次々と殺害する男と彼を追い詰める女性ジャーナリストの攻防を描くクライム・スリラー。監督のアリ・アッバシは、イラン系デンマーク人。2018年の「ある視点」部門グランプリを受賞した前作『ボーダー 二つの世界』では、北欧の伝承をベースに人間という存在の“境界線”をホラーテイストで描いたが、本作ではイランの都市マシャドで実際に起こった殺人事件にインスパイアされた物語である。逮捕劇に終わらず、逮捕後の男の刑務所内での言動、裁判、さらにメディアとの関わり方など、多角的なアプローチで主題に迫る。架空の女性ジャーナリストを演じた、ザール・アミール・エブラヒミが女優賞を受賞。

映画『ホーリー・スパイダー(原題) / Holy Spider』

監督:アリ・アッバシ
出演:ザーラ・アミル・エブラヒミ、ミーディ・バァジャスタニ、エラシュ・エシュアニ、フォラジャン・シドジャナッド、シナ・ポーヴァナ、ニマー・アクーボォパー
©2022 ©Profile Pictures / One Two Films / Nadim Carlsen

<カメラドール(新人監督賞)スペシャル・メンション>早川千絵監督『PLAN 75』

映画『PLAN 75』 ©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee
映画『PLAN 75』 ©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

高齢化社会への対応策として75歳以上になると自ら死を選択できるという制度〈PLAN75〉が施行された架空の日本が舞台。78歳で仕事と住む場所を失ったミチ(倍賞千恵子)、プランを扱う役所の担当者(磯村勇斗)、加入者のケアを担当するコールセンターの女性(河合優美)など制度に関わる人々を通して、命のあり方を問う社会派ドラマ。是枝裕和監督が製作総指揮を務めた、10年後の日本をテーマにしたオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一遍を、キャストを一新し、脚本を再構築した長編。早川千絵監督は2014年に学生映画部門「シネフォンダシオン」で短編『ナイアガラ』が入選。本作でカメラドール(新人監督賞)のスペシャル・メンション(次点)に輝いた。

映画『PLAN 75』

監督・脚本:早川千絵
出演:倍賞千恵子、磯村勇斗、河合優美
新宿ピカデリーほか全国公開中
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

Text: Atsuko Tatsuta
Editor: Kaori Shimura

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