カンヌ国際映画祭で「ウーマン・イン・モーション」アワードを受賞したヴィオラ・デイヴィスが伝えたいこと

2022.07.15

グローバル・ラグジュアリー・グループであるケリングは、2015年以降、カンヌ国際映画祭のオフィシャルパートナーとして「ウーマン・イン・モーション」プロジェクトを行っている。このプロジェクトは、映画やアート業界全般に貢献する女性に光を当てるもの。同映画祭期間中は「ウーマン・イン・モーション」アワードの授賞式も開催され、今年はアフリカ系アメリカ人俳優でプロデューサーでもあるヴィオラ・デイヴィスが受賞した。その模様を、映画ジャーナリストの立田敦子さんがリポート。

「ウーマン・イン・モーション」アワードのディナー会場。
Boby Getty Image
「ウーマン・イン・モーション」アワードのディナー会場。

今年で第75回を迎えたカンヌ国際映画祭。去年はフランスの気鋭ジュリア・デュクルノー監督の『TITANE チタン』が最高賞のパルムドール賞を受賞し、『ピアノレッスン』(1993年)のジェーン・カンピオン監督以来、28年ぶり2人目の女性のパルムドール受賞監督が登場したことで、映画界におけるジェンダー格差是正やインクルージョンの改革に向けて希望の光が見えてきた。だが、それは楽観視できるほどではなく、おそらく発展途上の段階なのだろう。
 カンヌ国際映画祭のオフィシャルパートナーであるケリングは、そうした映画界の状況を鑑みて、映画業界で働く女性たちに光を当てること、また問題をともに考えることを目的に「ウーマン・イン・モーション」プロジェクトを推し進めている。
 このプロジェクトが発足したのは、#MeTooムーブメントが起こった2017年より前の2015年である。以降ケリングは、映画祭期間中に公式プログラムとして「ウーマン・イン・モーション」トークを開催してきた。また映画祭の最初の日曜の夜には、映画祭プレジデントのピエール・レスキュール、映画祭総合ディレクターのティエリー・フレモー、ケリング会長兼CEOのフランソワ=アンリ・ピノーが共同主催するディナーも毎年行っている。こちらのディナーでは、映画界で貢献する女性をたたえる「ウーマン・イン・モーション」アワードが発表され、今年はヴィオラ・デイヴィスに授与された。デイヴィスは『フェンス』(2016年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞しているが、ほかにもテレビ界ではエミー賞、舞台の世界ではトニー賞も受賞しており、俳優として最も成功した黒人女性ともいえる。

左から、ティエリー・フレモー、ニンジャ・サイバーグ、ヴィオラ・デイヴィス、フランソワ=アンリ・ピノー。
Vittorio Zunino Celotto Getty Image
左から、ティエリー・フレモー、ニンジャ・サイバーグ、ヴィオラ・デイヴィス、フランソワ=アンリ・ピノー。

デイヴィスは受賞に先立って「ウーマン・イン・モーション」のトークイベントに登壇し、そのキャリアや人生について語った。印象的だったのは、白人の多い地域で育ったからこそ背負ったトラウマをバネにし、生き抜いてきた不屈の精神である。
 「生い立ちのおかげで私はファイターとなり、またサバイバーとなりました。白人の多いコミュニティーで育ったので、子どもの頃は可愛がられた経験はなく、自分を可愛いと感じることもありませんでした。でもそうした状況にも負けずに、私はずっと進み続けました。アン・ラモットの言葉をずっと心のなかで口ずさみ続けたのです。『勇気とは、祈りを捧げた恐怖である』と」
 「『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』に出演し、オスカーにノミネートされました。でも、それはそれでおしまいです。次は何がやってくるのだろう?と思っていましたが、結局、同じような役ばかりをオファーされました。つまり、モデル体型ではない黒人の女性のキャスティングはどのようにされるのか、ということです。
 私はどん底に落ちていきました。自分の価値を認めてもらうために――そして怒りを和らげる方法として――残っていたのは、自分で役を見つけてくることでした。それが私の対処法でした。その怒りには価値がありました。なぜなら、あのときの爆発は、変化の一瞬を表しているように感じたからです。純粋な怒りは、精神的に病んだ怒りではありません。健康的な怒りは、なんというか、ムーブメントのようなものを起こします。
 私は、主役を何度も断られてきました。私の見た目のせいです。本当に腹が立ったので、夫とジュヴィ・プロダクションを立ち上げました。自分たちのやりたいようにする。それが拒否された経験に対して、私がとった対処法です」

「ウーマン・イン・モーション」のトークイベントに登壇したヴィオラ・デイヴィス。
「ウーマン・イン・モーション」のトークイベントに登壇したヴィオラ・デイヴィス。

さらにデイヴィスは、女性や非白人などのマイノリティが声を上げるだけでは、映画界の状況は本質的には変えられない、と話す。つまり、黒人女性がオスカーを獲ったことで、「もう問題は解決した」と考えるのは安易だということだ。デイヴィスは、夫と設立した製作会社で黒人が主人公の法廷ドラマ『殺人を無罪にする方法』などを製作し、プロデューサーとしても高く評価されている。
 「私たちはステージに上がってマイクを持って、『もっと私たちにチャンスを与えるべきだ!』と叫ぶだけではダメなんです。周辺の人たちと一緒になって、私たちの望む世界をつくり出すために物語を語ることが必要。そのためには、どのような役割を担っているのか、それぞれが理解しなければなりません」
 またデイヴィスは、トークの終盤でソーシャル・メディアから来た、「世界中の少女たちにメッセージを送るとしたら?」という質問にこう答えている。
 「自分は価値ある存在だというメッセージを伝えたいですね。価値ある存在になるために何かをする必要はない、と。容姿や出身地など関係ありません。あなたは存在するだけで、ただ価値があるのです」

Text: Atsuko Tatsuta
Editor: Kaori Shimura

TOPヘ