DJ、着物スタイリストとして活躍し、日本の伝統文化好きとしても知られるマドモアゼル・ユリアさんがさまざまな工房を訪ね、匠(たくみ)の技に触れる本連載。第8回は茅葺(かやぶ)きの保存に取り組みながら、茅葺きのもつ新たな可能性を提案し続けるくさかんむり代表・茅葺き職人の相良育弥さんを訪問。
YULIA’S NOTE
「茅葺き屋根の歴史の始まりは、縄文時代ともいわれています。しかも世界中、草が生えている地域にはある技術です」
そうお話しくださったのは、くさかんむり代表で茅葺き職人の相良育弥さん。茅葺き屋根のお家といえば、日本昔話に出てくるような可愛らしいお家。私は茅葺きが身近にある地域では育たなかったけれど、相良さんの育った神戸には今も多くの茅葺き屋根の建物が残っています。欧州では今も茅葺きの新しい家や施設がつくられ続けているそうです。こんなに世界は広いのに、屋根に草を乗っけようって思った人が各地にいるなんて、不思議です。
茅葺きの現場は結構な力仕事ですが、相良さんの現場には職人を目指す若いお弟子さんがたくさんいらっしゃって、なかには女性のお弟子さんの姿も!
「彼らが仲間に入ってくれたおかげで、改革されたことがたくさんあります。自分たちが当然と思っていて気づかなかったことなど、何も知らずに入ってきた人だからこそ見えるものがあるんです。純度の高い人たちだけで集まってしまうと、完成度は高くなるけど、考えやアイデアは凝り固まってくる。クラシックなものに対してリスペクトはしっかりしながらも、やっぱりフレッシュじゃないとダサいよね、というのは、ヒップホップの大原則ですから」
一般的な職人さんのイメージからは想像もつかないお話が飛び出してきました。実は相良さん、この業界に入るずっと前はヒップホップのDJをされていた時期もあるそうで、違う世界での経験があるからこその視点やアイデアがあるということを、誰よりも知っているのです。
相良さんの茅葺きのアプローチは屋根だけではなく、お店の看板や壁、机や椅子といった、これまで見たことのないフレッシュなアイデアであふれていて、造形的にもカッコいい。しかもそれらは、茅葺きの難しい技術を駆使しないと、制作ができないものばかり。相良さんのお話は、DJをしながら着物に携わる仕事をしている私にとっては、とても共感するものばかりでした。
伝統ってすてきな言葉だけれど、どこか他人行儀に感じてしまう人もいるはず。でも、それがかつて生まれたときは、当時としては最先端の技術だったわけだし、まずはそれがカッコいいと思ってもらわないことには、何も始まらない。特に衣食住など生活に密着した伝統技術は、私と同じ“今”を生きる技術で、常にアップデートをして、進化し続けるものだと思うのです。それを体現されている相良さん、リスペクトです!
相良育弥さん
茅葺き職人。くさかんむり代表。1980年、神戸市生まれ。5年間の修業を経て、2008年、淡河かやぶき屋根保存会 くさかんむりを設立。19年、株式会社くさかんむりに改組。
民家や文化財の茅葺き屋根の葺き替えや補修のほか、現代の暮らしにフィットする茅葺きのアイデアを提案している。平成27年度神戸市文化奨励賞受賞。第10回地域再生大賞優秀賞、ジャパンアウトドアリーダーズアワード2020優秀賞受賞。インスタグラム https://www.instagram.com/ikuya_sagara/
マドモアゼル・ユリアさん
DJ、着物スタイリスト。10代からDJ兼シンガーとして活動を始め、現在は着物のスタイリング、モデル、コラム執筆、BSテレビ東京「ファッション通信」のアンバサダー、アワードの審査員など、幅広い分野で活躍中。2020年には京都芸術大学の和の伝統文化科を卒業し、同年、英国のヴィクトリア・アルバート博物館で行われた展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンビジュアルのスタイリングを担当。最近では東京エディション虎ノ門やkudan houseなどで着付け教室も開催。YouTube「ゆりあときもの」https://m.youtube.com/user/melleyulia
Movie & Photo: Hiro Nagoya Model: Mademoiselle Yulia Editor: Kaori Shimura Director: Kaori Takagiwa