Culture

マドモアゼル・ユリアが出会う、日本伝統の技 vol.13

マドモアゼル・ユリアが出会う、日本伝統の技

2023.1.20

DJ、着物スタイリストとして活躍し、日本の伝統文化好きとしても知られるマドモアゼル・ユリアさんがさまざまな工房におじゃまし、匠(たくみ)の技に触れる本連載。第13回は橘流寄席文字・江戸文字の書家として活躍されている橘右之吉さんを訪問。

YULIA’S NOTE

みなさんも一度は目にしたことのある「江戸文字」。歌舞伎や相撲、寄席なんかでよく目にする文字たちは、それぞれの場所によってフォントが異なることをご存じでしたか?

それぞれの場所で使われる文字にはさまざまな願いや思いが込められていて、デフォルメされたその形はデザインとして面白く、文字の持つ力にあらためて驚きました。

今回は、そんな江戸文字を50年以上書き続けていらっしゃる橘流寄席文字・江戸文字書家の橘右之吉さんの工房におじゃまし、江戸文字についていろいろと教えてもらいました。右之吉さんは中村屋さんをはじめとする歌舞伎や寄席を筆頭に、神社や企業など、国内外のさまざまなところからお仕事を受けているそうです。私も、右之吉さんの文字を何度も拝見したことがあります。

そもそも「江戸文字」と現代では呼んでいますが、江戸の当時は個別の用途に合わせた名称がさまざまあり、使われる場所も違っていました。

現代においても芝居文字(勘亭流)と呼ばれる文字は、主に歌舞伎で用いられます。面白いのが、中村屋さんの「村」という字には点を打っていないこと。「これからもっとよくなるように!」という気持ちを込めて、あえて未完成の状態にしておくのだそうです。芝居文字はほかの文字と比較すると、とってもしなやかで、踊りを彷彿とさせる文字だと思いました。

相撲字(根岸流)は行司さんのみに書くことの許された文字だそうです。筆のかすれやささくれはあまり気にせず、独特の世界を男性的に力強く書き上げることで、力士が互いに力を出し合うさまを表す文字なのだとか。行司さんには文字も書けないとなれないんだ!ってことにも驚きました。

寄席文字は寄席ビラの文字「ビラ字」がその起源だそうで、右肩上がりで、太筆で隙間なく書かれ、そこにはたくさんお客さんが来るようにという願いや、芸がもっと磨かれていくようにという思いが込められています。

今回、私のマドモアゼル・ユリアという文字を寄席文字で右之吉さんに書いていただいたのですが、あっという間になんのちゅうちょもなく、筆が動いていく姿はとっても美しかったです。これまでたくさんの文字を手がけられてきた右之吉さんですが、初めて書く文字に出会ったときは、今でも日々おけいこをされるそうです。

江戸の町人文化のなかで花開いた江戸文字。最近では文字を書く機会がすっかり減ってしまいましたが、文字に願いや思いを込めたり、文字自体が雰囲気を語ってくれたり、文字のもつ力を再発見しました。

左から、橘右之吉さん、マドモアゼル・ユリアさん。

橘右之吉さん

1950年生まれ。16歳で橘流寄席文字の家元・橘右近師匠に入門し、19歳で「橘右之吉」という筆名を得て活動をスタート。以来、寄席、千社札、奉納額などの伝統的な仕事のほか、国立劇場や国立演芸場のポスター、企業名や施設、イベントのロゴ制作など、幅広く活躍。オリジナルのデザインを考案してくれる「ミニ千社札シール」は、芸能界や花柳界、角界などで人気だが、一般の人からの受注生産も受け付けている。


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マドモアゼル・ユリアさん

DJ、着物スタイリスト。10代からDJ兼シンガーとして活動を始め、現在は着物のスタイリング、モデル、コラム執筆、BSテレビ東京「ファッション通信」のアンバサダー、アワードの審査員など、幅広い分野で活躍中。2020年には京都芸術大学の和の伝統文化科を卒業し、同年、英国のヴィクトリア・アルバート博物館で行われた展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンビジュアルのスタイリングを担当。最近では東京エディション虎ノ門やkudan houseなどで着付け教室も開催。YouTube「ゆりあときもの」https://m.youtube.com/user/melleyulia


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Movie & Photo: Hiro Nagoya Model: Mademoiselle Yulia Editor: Kaori Shimura Director: Kaori Takagiwa