Culture

マドモアゼル・ユリアが出会う、日本伝統の技 vol.15

マドモアゼル・ユリアが出会う、日本伝統の技

2023.3.17

DJ、着物スタイリストとして活躍し、日本の伝統文化好きとしても知られるマドモアゼル・ユリアさんがさまざまな工房におじゃまし、匠(たくみ)の技に触れる本連載。第15回は石川県金沢市で活動を続ける加賀友禅の大家、二代 由水十久(ゆうすいとく)さんの工房へ。

YULIA’S NOTE

「子どもの頃は友禅流しをよく見たけど、とってもきれいだったよ」と石川県出身の母は川の近くを通るとよく話すので、その景色にはひそかに憧れを抱いていました。

泉鏡花の作品が好きなので、今回金沢を訪れたときも、浅野川のほとりを今は見られない「友禅流し」を空想しながらうろうろしていました。

「友禅流し」とは着物の染色の工程において布についた余分な染料や糊(のり)を洗い落とす作業なのですが、そもそも着物にはたくさんの染色方法があります。なかでも「手描き友禅」は布にキャンバスのように絵を描く手法で、日本ならではの手法だと思います。

「手描き友禅」は地域によってさまざまな趣向があり、金沢の加賀友禅といえば、加賀五彩という色彩や、外ぼかしの彩色方法、虫食いされた葉をあえて描くことなどが有名で、植物を中心とした写実的な文様が多いと言われています。

私は、京友禅はみやびで豪華、東京友禅は渋くて粋、加賀友禅は華麗さのなかに武家らしくわびた落ち着きを感じる、という印象を抱いていましたが、当然ながらどの地域の友禅作家さんの作品も、作家性や文学性、絵画性などオリジナリティーが重視されます。

今回おじゃまさせていただいた二代 由水十久先生の工房では、加賀友禅を制作するうえで必要な工程のほぼすべてを行っています。

作品は初代から受け継いだ童子のモチーフを中心に、伝統芸能や日本の古典文学、現代のスポーツや、オーケストラの演奏の様子など、古今東西のさまざまな文化を題材としていて、どれも生き生きとした童子たちが伸びやかに描かれていました。いろいろな工程のなかでも構想にいちばん時間がかかると先生はおっしゃっていました。

友禅染めの絵画的表現に欠かせない技法として「糸目糊(いとめのり)」の工程があるのですが、この糸目糊を巧みに扱えないと人物表現は特に難しく、加賀友禅が大事にしている写実的表現手法が、先生の作品にも反映されているのではないでしょうか。

印象的だったのが、先生は「着物は着たときにいちばん美しくなくてはならない」とお考えで、お弟子さんに着物を着せてさまざまな角度やポーズで模様の見え方やディテールを調整されていました。

私も実際に羽織らせていただいたのですが、平面ではなく立体として、着たときに最も美しく見えるように細部まで考えられた構図や配色はとても美しかったです。また、先生の作品の多くは「八掛(はっかけ)」という裾の裏のほとんど見えない部分にまで美しい手描き友禅が施されていて、羽織らせていただく際にひそかに感激していました。

伝統を昇華しながら継承されている、すてきな工房でした。

左から、マドモアゼル・ユリアさん、二代 由水十久さん。ユリアさん着用トップス¥64,900、スカート¥60,500/ともにコート(イザ フリーダイヤル0120-135-015)

二代 由水十久さん

多摩美術大学卒業後、1989年、二代 由水十久を襲名。2001年、「石川県指定無形文化財 加賀友禅技術保存会会員」の認定を受ける。21年、同会の会長に就任。伝統芸能から、古事記や万葉集といった日本の古典文学、春夏秋冬の行事や昔ながらの遊び、日本はもちろん世界の神話まで、古今東西の物語や風俗、風景を童子の姿になぞらえて、あるいは自然界のモチーフを通して表現している。由水十久先生自ら案内してくれる工房&ギャラリーの見学は1カ月に1組限定、お抹茶、お菓子つきでひとり5,000円。


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マドモアゼル・ユリアさん

DJ、着物スタイリスト。10代からDJ兼シンガーとして活動を始め、現在は着物のスタイリング、モデル、コラム執筆、BSテレビ東京「ファッション通信」のアンバサダー、アワードの審査員など、幅広い分野で活躍中。2020年には京都芸術大学の和の伝統文化科を卒業し、同年、英国のヴィクトリア・アルバート博物館で行われた展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンビジュアルのスタイリングを担当。最近では東京エディション虎ノ門やkudan houseなどで着付け教室も開催。YouTube「ゆりあときもの」https://m.youtube.com/user/melleyulia


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Movie & Photo: Hiro Nagoya Model: Mademoiselle Yulia Editor: Kaori Shimura Director: Kaori Takagiwa Coordination: Hiroko Koizumi