東京・北青山に2022年9月1日に新旗艦店「シハラ トウキョウ(Shihara Tokyo)」をオープンさせた、ファインジュエリーブランド「シハラ(SHIHARA)」。2010年にデザイナーの石原勇太さんによって設立されたシハラの、国内4店舗目となる直営店だ。シハラのミニマルで豊かなエスプリが、ここにある。
ガラスをふんだんに用いたL字型のストア。グリーンのあふれる中庭とまるで一体化するかのような設計がなんとも心地よい。店内は光に満ちあふれ、都会のど真ん中であることを忘れてしまうほどの開放感だ。旗艦店では、シハラのフルラインアップがそろうほか、オルタナティヴスペースでは、SHIHARAのフィルターを通し今後様々な展示やイベントを行う場として現在はプロダクトデザイナーとの共作コレクションも展開されている。
この、シハラの新たな創造の基地となるストアは、ジュエリーと空間、人との新たな関係を提案する場でもあり、既成概念の枠を超えたシハラらしいエスプリが、ふんだんにつまっていることがよくわかる。
「店舗とオフィス、バックヤードといった、通常の境界線を無くしたかった」。そう話す石原さんの言う通り、店舗の裏はオフィスへと続いており、多目的に使えるキッチンスペースや大きなダイニングテーブルを置いた、広々とした空間が広がっている。一般的には、華やかなショップの影で、人々が働くバックヤードや倉庫は狭く雑多であることがとても多い。しかし、そのような商業的な既成概念を取り払い、心地よさや美学を追求した店づくりに驚かされる。さらに、設置された数枚の可動式の壁は、用途によって何パターンにも形を変えてゆく。実際、オープニングパーティーでは、ダイニングテーブル周辺はアペリティフやフィンガーフードが置かれた立食エリアへと様変わり。まさに、これから新しいことが起こることを予感させてくれる新しいカタチのストアなのだ。
「既成概念を取り払う」。その哲学は、シハラのジュエリーそのものだ。“ジュエリーの身に着け方をデザイン”するシハラのジュエリーは、装飾的要素をそぎ落としたミニマルなデザインと機能性が特徴だ。
そのシハラ独自のデザインは、常に「既成概念への自問自答」から生まれていると、石原さんは言う。今まで、あるべきとされてきたアイテムのディテール、または「元来こういったものだから」といった社会の枠組み。そういった既成概念への問題定義が、シハラのイノベーションを生み出す原動力となっているのだ。
シハラにおいて、「既成概念を取り払う」ものは、ジュエリーデザインだけにとどまらない。シハラには、ブランドをイメージするミューズも一切いなければ、ジュエリーブランドの定番とも言える「ブライダル リング」という呼び名の指輪のコレクションもない。「性別も、年齢も関係なく、SHIHARAを着けたいと思ってくれた方に身に着けてほしい」と。
また、オルタナティヴスペースでは現在、キプロス島生まれ、ロンドンで活動するプロダクトデザイナー、マイケル・アナスタシアデスとの共作である、ライトやジュエリーが展示・販売されている。互いの共通のビジョンや美学を投影したコレクションが魅力的だ。
ジュエリーコレクションは、18K イエローゴールドのゴールドパイプが繊細なフォルムを描くネックレスや、ピアス、ブレスレットが展開されている。もともと、石原さんとマイケル・アナスタシアデスとの交友関係から始まったというプロジェクト。今後も、商業的な枠組みにとらわれず、自由な発想で次なるプロジェクトを企画していくと言うというから楽しみだ。
シハラの今後の展望を尋ねると、ずっと決まっていることがひとつだけあるという。それは、「ブランドを続けていくということ」。ジュエリーは永続的なアイテムであり、また贈り物として購入されるケースも多い。壊れたら修理を行い、後世へつなげていく。「そんなジュエラーとしての責任を果たしていくのが自分の中での絶対的な約束なのです」と語る石原さん。「自分が立ち上げたブラントであっても、世の中に出た時点でブランドは自分だけのものではなくなっている。だからこれからも、個人的な理由でブランドをやめるのは違うと思うのです」。そう前を見据え、この先も使い続けてもらえるジュエリー製作と、カスタマーサポートができる会社の環境を整えることに力を注いでいくという。
まとう人にゆだねられ、その人の色に染まるシハラのジュエリーは、しなやかながら凛とした哲学を楚に、新たなジュエリーの未来と、そこに関わる人々のカタチを描きだしていってくれるに違いない。
シハラ トウキョウ
住所:東京都港区北青山3-12-13 北青山3丁目ビル1F
営業時間:12:00〜19:00(土曜のみ12:00〜20:00)
☎03-6427-5503
Text: Asako Kanno Editor: Kaori Takagiwa