“詩的な天文学”を描くタイムピースとジュエリーたち
宇宙と星空の奇跡。この神秘の世界は、常にヴァン クリーフ&アーペルを魅了し続けてきた、かけがえのないテーマだ。メゾンが詩的に描き続けるその数々の名作と、新しく誕生したコレクションの軌跡をたどっていく。
創業時より、ヴァン クリーフ&アーペルが大切にしてきた「幸運」のシンボルへの思い。それは、メゾンの創造性の原点であり、そこから数々のアイコニックなコレクションは誕生した。なかでも、いにしえより人々が見つめ、祈りを捧げてきた遥か彼方の“天体”と“天空”は、メゾンが愛する壮大なテーマのひとつだ。
例えば、時計の中に小宇宙を創り上げたウォッチ「ミッドナイト プラネタリウム」がある。“詩的な天文学”というヴィジョンで表現したこの時計は、太陽の周りを回るさまざまな惑星の軌道を文字盤の上で表現したもの。時刻を告げるのは、幸運のモチーフである流れ星で、24時間で一周する構造だ。セットされた太陽系の6つの惑星(水星、金星、地球、火星、木星、土星)の動きは実際の軌道の周期に忠実で、文字盤を一周するのに土星は29年以上、木星は約12年、火星は687日、地球は365日、金星は224日、水星は88日かかるという。レディスウォッチ「レディ アーペル プラネタリウム」は、女性の手首にふさわしいサイズで再設計されたもの。メンズ同様に水星、金星、地球は実際の軌道の周期通りに動くことに加え、新たにセットされた女性らしさのシンボルである月は、地球の周りを29.5日かけて1周する。このメンズとレディース、ふたつのプラネタリウムウォッチはメゾンらしい天体の詩情と時間の計測を融合させた、他に類を見ないタイムピースといえる。
メゾンの長い歴史の中で、夜空と星もまた、煌めく宝石で繰り返し表現されてきたモチーフだ。パリの夜空をアベンチュリンの文字盤で表現したウォッチも、そのひとつ。文字盤は1年をかけて1回転するという機構をもち、まるで手首に夜空を抱いているかのようにポエティックだ。裏蓋が開閉する「ハンターケース」によって、精緻で美しいムーブメントの小宇宙も愛(め)でることができるなど、メゾンらしいロマンティシズムにあふれている。
天空と星空という、未知なる世界へ敬意を払い続けるヴァン クリーフ&アーペルにとって、占星術も大切なテーマだ。12星座をモチーフにしたウォッチ「レディ アーペル ゾディアック リュミヌー」は、手作業の彫刻とジェムセッティングで繊細に描かれた芸術品といえるが、それだけでなく、ライトアップ オンデマンドを搭載したモデルなのも特筆すべき点だ。8時位置のボタンを押し込むと、エナメルビーズの星たちが数秒間光り、また消えていくという魔法のような超絶技巧が隠されていることに驚かされる。
この12星座をモチーフにしたコレクションの始まりは、1950年代に遡る。メゾンが創業以来生み出してきた“ラッキーチャーム”の流れをくみ、星座のモチーフをゴールドメダルにあしらったそのコレクションは、瞬く間に人々を魅了した。様々なサイズに加え、ペンダントやキーリング、ブレスレット、カフスなど多様なアイテムでも表現されてきたのだ。
そんなヴァン クリーフ&アーペルの豊かな伝統を紐解き、12星座のモチーフを再解釈した2つの新作が誕生した。ひとつは、「ゾディアック ロングネックレス」。各星座をテーマにした12本のネックレスは、両面に彫金がほどこされ立体絵画のような魅力をたたえている。表面には、各星座にまつわる図案やエレメントが、また裏面には星座のシンボルと名前、該当する星座の日付がゴールドで描き出される。また、オーナメンタルストーンは12星座を火、風、水、地の4つのエレメントで表現し、各エレメントに調和した希少な12の鉱物が唯一無二のアンサンブルでセットされている。アールデコ・スタイルのようなグラフィカルなデザインと、ひとりひとりの物語を刻みこむような、パーソナルジュエリーとしての魅力が宿るジュエリーだ。
もうひとつは、50年代に誕生した「ゾディアック メダル」を新たなサイズで蘇らせたコレクション「ゾディアック メダル ネックレス」だ。片面に星座を象徴する図象、もう片面にはその星座に該当する期間が精緻な浮き彫りで描かれている。
このふたつのタイプのジュエリーは、メゾンのアトリエで培われてきた職人たちの類稀な専門技術へのオマージュでもある。ゴールドのモチーフの立体的なボリュームやテクスチャーは、まずはグリーンワックスで入念に吟味されたのち、最終的にローズゴールドを用い再現されてゆく。光を強く反射する巧みなハンマリング仕上げや、緻密なポリッシュなど、“マンドール(黄金の手)”と呼ばれる職人たちの徹底したこだわりがジュエリーの細部に宿っているのだ。
“詩的な天文学”と呼ばれるにふさわしいこれらの作品は、メゾンが持ち続ける自然への敬意と、そこから生まれる豊かなイマジネーション、そしてあくなき追求を続ける職人たちの情熱なくしては生まれえない。揺らぐことのないメゾンの哲学は、天空のスペクタルとともに奇跡を呼び、「幸福」への架け橋となってゆくのだ。
Editor: Asako Kanno