1906年の創業以来、ヴァン クリーフ&アーペルにとって、「自然」は尽きることのないインスピレーション源だ。なかでも「花」は、メゾンの作品の象徴として、あふれる生命力と詩情を表現し続けてきたモチーフ。そんな「花」とメゾンの歴史を紐解いていく。
植物の持つ生命力やはかない美しさに魅せられてきたヴァン クリーフ&アーペル。長きメゾンの歴史の中で、命を吹き込まれてきた多彩な「花」のジュエリーを、3つのカテゴリーに分けてみていこう。
一つ目は、具象的なアプローチで表現された「自然主義的な美」にあてはまるジュエリーたちだ。まるで植物標本を作成するコレクターのように、メゾンの卓越したサヴォアフェール(伝承の技)は花のシルエットや動きを、希少な宝石を用いて再現してきた。
アール・デコ文化が花開いた1925年。メゾンが発表した、赤と白のローズのブレスレットは、パリで開催された現代産業装飾芸術国際博覧会においてグランプリを受賞する。アール・デコの特徴とする左右対称というコードを反映しつつも、生き生きとした花の動きを表現したそのデザインと技術は、当時、他にはないスタイルだった。
1964年に発表された、デイジー クリップは、さらに花の生命力を感じさせる作品だ。センターで輝くラウンドカットのダイヤモンドを、精巧かつアシンメトリーにセットされた鮮やかなルビーの花びらが囲む情熱的な花。そのあたかも風にそよぐかのような花びらの動きに、命ある自然に対するメゾンの深い愛情と敬意を感じずにはいられない。
近年のハイジュエリー コレクションでは、まるで宝石の庭園にいるかのように、花々を緻密に表現した作品が発表されている。その複雑な自然の造形物を、鮮やかな宝石で表現する職人たちの卓越した技術は、まさに芸術作品といえる。
二つ目に、1910年代よりメゾンの作品に多く登場する「ブーケ」の存在があげられる。
例えば、1940年に発表されたネックレスは、取り外し可能なクリップを5個あしらっており、メゾンを象徴する“形を変えるジュエリー”の原点を彷彿(ほうふつ)とさせるデザインだ。様式化された花びらは、少しずつ形の異なるブルーサファイアで表現され、女性たちの首元や襟元に優美な花を咲かせるのだ。
そして近年では、メゾンを代表するハイジュエリーとして「フォリ デ プレ」と呼ばれる作品がある。まるで摘みたての野の花を束ねたかのような作品は、ラウンドカットやペアシェイプの選び抜かれたダイヤモンドや貴石が使用され、多様性に満ちた自然界を豊かに描きだしている。
また、メゾンの1920年代後半の作品に着想を得て、21世紀初頭に再解釈して誕生したのが、「ロータス コレクション」だ。新作では、複数のサイズの花を組み合わせたデザインが加わり、雪に覆われたかのような自然の景色を彷彿(ほうふつ)とさせる。微妙に花びらの高さを変えて配置されたリングは、ほのかに揺れているような動きをたたえ、3つの花をグラフィカルにあしらったイヤリングは、オープンワークの技法によりダイヤモンドの煌めきを一層高めている。
三つ目に「様式化された美」で表現された花々をみていこう。抽象的な美学に基づき解釈された花は、金細工とまばゆい宝石で彩られ、メゾンの豊かな創造性を映し出すかのようだ。
1930年代は、特にオープンワークのシルエットが生む美しさが、メゾンのインスピレーションとなった時代だ。1937年に発表された「シルエット フラワー クリップ」は、イエローゴールドの細くしなやかなリボンが、花の輪郭を優美に描き出しているのが見て取れる。
1951年に制作された「パスティーユ ブーケ クリップ」は、様式化された花のブーケが、動きを感じさせる2枚の葉によって縁取られている。1933年にメゾンが特許を取得した技法“ミステリーセット”が、まるでベルベットのような神秘的な光沢を生んでいる。
人気のフリヴォル コレクションは、自然界の生命力と躍動感へのオマージュともいえる作品だ。3枚のハート型の花びらは、手作業でゴールドを一枚ずつ研磨していく“ミラーポリッシュ”と呼ばれる技術で、鏡のような輝きを放つまで磨かれていく。職人の技による、太陽の光を浴びたかのような黄金の煌めきは、まとうものの心に希望の光を灯してくれるのだ。
© Studio Haddou / Dufourcq
マツのリースに包まれたロータス アントレ レ ドア リング。魔法のような冬の世界へと誘いをかける。
パリを拠点に活動するインテリア アーキテクト兼デザイナー。
© Céline Thibault and Géraud Pellottiero
鮮やかなカーネリアンのローズ ド ノエルが、雪に覆われた松林で輝きを放つ。赤と白の幻想的な映像が印象的。
テキスタイルデザイナーのセリーヌと、インテリアデザイナーのジェローによるデュオ。
宝石で描かれる生命の輝きは、これからも「ヴァン クリーフ&アーペル」という唯一無二の庭園で華やかな花を咲かせながら、見るものの心に幸せの種を植えつけていく。
ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク
0120-10-1906
Editor: Asako Kanno