愛らしい動物たちに吹き込む、生命の輝き
ヴァン クリーフ&アーペルらしい遊び心とポジティブなムードが宿る「アニマル」モチーフのジュエリー。その豊かな歴史と、今に引き継がれるメゾンのスピリットを辿っていく。
1906年の創業以来、尽きることのないインスピレーションの源として、愛に満ちた「自然」をテーマに数々の名作を生み出してきたヴァン クリーフ&アーペル。特に、愛らしい仕草と表情を宿したアニマル モチーフのジュエリーは、目にするだけで微笑みを誘う、まさに“幸せを呼ぶ”ジュエリーだ。メゾンとアニマル モチーフの歴史は古く、1910年代には、リス、ウサギ、ゾウなどの動物たちが、メゾンのクリップやタイピン、チャームに登場。1923年に顧客のために製作された、ハミングバードクリップのリテールカードも、そのひとつだ。流行に敏感な上流階級の貴婦人たちのラペルや帽子を、ヴァン クリーフ&アーペルの羽根や鳥の宝石が飾っていた記録だ。
そして1954年、パリのヴァンドーム広場22番地にメゾンがオープンした「ラ ブティック」が、さらにメゾンとアニマル コレクションの結びつきを強くする。より多くの女性たちへ手が届きやすく、毎日気軽に身にまとうことのできるラインを提案したこのブティックでは、愛嬌たっぷりのアニマル クリップがバリエーション豊かに登場。すると、瞬く間にグレース・ケリーや、ジャクリーン・ケネディ・オナシスなどの伝説のファッションアイコンたちに愛されるジュエリーとなり、ラッキーチャームとして、また最高の贈り物として世の中の女性たちを虜にしていったのだ。
2017年、時を経て、この「ラ ブティック」コレクションの伝統を受け継ぐ「ラッキー アニマルズ」コレクションが登場した。このコレクションは、「ラ ブティック」のアーカイブに残る動物たちの微笑ましいユーモアはそのままに、それぞれの個性を生かした鮮やかな宝石の色彩の妙、そして精緻な職人の技をさらに進化。全9種のコレクションには、ハリネズミ、ハト、リス、犬、猫、ライオン、ふくろう、ハチドリ、ウサギといった動物たちが勢揃いし、個性豊かな表情で私たちを魅了するとともに、ハイジュエラーならではの優美な品格を漂わせている。
また、2019年には動物たちの仲間に、馬、カモ、亀、パンダ、豚といった5種の新メンバーも加わり、コレクターには嬉しいバリエーションとなっている。
2016年に発表された「ラルシュ ド ノエ」は、メゾンのアニマル コレクションの集大成ともいえる見事なハイジュエリー コレクションだ。何世紀にも渡り、芸術家たちが描いてきた「ノアの方舟」の物語にオマージュを捧げたこのコレクションは、約60組もの動物のつがいのクリップが登場。躍動感あふれる動物たちの動きにあわせ、入念に選別された宝石が、遠くなるような工程を経て、職人たちにより生命を吹き込んだ作品だ。
メゾンの動物への深い愛情は、ハイジュエリー コレクションに度々登場することでもよくわかる。2017年「ル スクレ」コレクションで発表されたオウムのクリップは、開閉する翼を広げると、母親に寄り添うひな鳥の姿が現れる。ジェエリーの複雑な構造もさることながら、ひと枝のピンクコーラルを彫り出して作られたオウムの頭や、宝石で描き出される緻密な造形は芸術作品をみるかのようだ。
また、小さな生き物たちにもメゾンの目線は常に向けられている。なかでも、幸運のシンボルであるてんとう虫は、メゾンに欠かせない大切なモチーフとして多く登場する。てんとう虫のその愛らしい姿を目にすれば、まとう者の永遠のお守りとなるだろうことは想像にたやすい。
人々の笑顔を運ぶメゾンの動物たちのジュエリーは、“マンドール(黄金の手)”と呼ばれる卓越した職人たちの存在なくしては語れない。そして、伝統的な技と、革新的な技を併せ持つ職人のカテゴリーには、デザイナーという職業も含まれるのがメゾンらしい仕組みだ。ヴァン クリーフ&アーペルの宝石を“光り輝く詩”と捉えるデザイナーたちは、メゾンの最高級の宝石を熟知した上で、メゾンのスピリットをデザインへと変えていく。その後、各分野の宝石職人たちとのポジティブな対話があらゆる可能性を実現に変え、平面のデザイン画から、立体の宝石へと息吹を吹き込んでゆくのだ。
ヴァン クリーフ&アーペルの、前向きで陽気な動物のジュエリーには、選ばれし宝石の持つパワーとともに、まとう人の幸せを強く願う、メゾンの大きな愛が込められているのだ。
Editor: Asako Kanno