動く自然の美、パピヨンに宿る生命の喜び
自然界の美からさまざまなインスピレーションを得てきたヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーたち。メゾンが最も愛するモチーフのひとつであるパピヨンと、春の物語をひもといていく。
うららかな春の訪れを、華麗な舞いで告げてくれるパピヨン。そよ風と戯れながら優美に羽ばたくその姿は、軽やかで、気品にあふれ、そしてポジティブなメッセージを宿す。そんなヴァン クリーフ&アーペルのスピリットとも重なるパピヨンはメゾンの特別な存在として、ときに抽象的に、ときに具象的に描かれてきた。
1906年、ヴァン クリーフ&アーペルの創業とともに、パピヨンを象ったジュエリーは誕生した。当時のパピヨンのクリップが鮮やかな宝石で表現されていたことは、1920年代に制作された作品カードからも想像することができる。またメゾンのアーカイブス作品の中には、1940年代に人気を博したシガレットケースに彫刻された蝶や、1970年代の自由な風潮を反映するかのようなカラフルな色石で描かれたネックレクスのデッサンも残されている。いつの時代にも、生き生きとした蝶の魅力を再現することに取り組んできた職人たちの、パピヨンへの愛情と敬意が伝わる作品だ。
これから、メゾンらしい詩的な解釈を、様々な技法で表現したバリエーション豊かなパピヨンをのぞいていこう。
まず、“抽象的なシルエット”で描かれたパピヨン。マザーオブパールとゴールドが描く流麗なラインが緻密なバランスを描き、モダンかつ知的な品格をのぞかせている。
“色石の模様”を生かしたパピヨンも印象的だ。太陽の光を浴びて万華鏡のように煌くパピヨンは、まるで春のエネルギーが放たれるているかのようにまばゆい。
羽をそっと折りたたんだパピヨンのクリップには“石の配置”による、豊かな表現が見て取れる。例えば、繊細なグラデーションを描く石の配置や、宝石の高低差は輝きの立体感を、そしてオープンワークによる光の反射は躍動感を表現している。マダガスカル産の4.43ctものピンクサファイアにとまるパピヨンは、まるで夢の世界へと誘うようにポエティックな作品だ。
このパピヨンのリングは、ある“石の細工”により、バフトップカットのエメラルドの色彩が際立っているのが特徴だ。それは、メゾンが特許権を取得している“ミステリーセット”と呼ばれる技法によるものだ。0.2mmの細いワイヤーを枠組みにし、そこに二つの溝を彫った宝石を一粒ずつセットしていく。一粒をセットするのに90分もの時間を要するこの技術は、金属部分が見えないことで最大限の石の輝きと視覚的統一感を生みだし、メゾンにしか出せない宝石の色が実現できるのだ。
さらには、“擬人化された”パピヨンも、非常にメゾンらしい作品だ。森の妖精であるフェアリーが、蝶の羽を持ち、バレリーナのように陽気に舞い踊る姿は、愛らしく誰をも微笑みに誘う。メゾンの得意とするアシンメトリーなデザインや、一寸の狂いもない石のカッティングが、流れるようにエレガントな動きを作り上げている。
そして、可憐な蝶が舞い踊る“ドゥ パピヨン”コレクションからは、ターコイズで表現した待望の新作が登場した。太陽を思わせるかのようなゴールドの縁取りと、その中に収められた空色のターコイズ。選び抜かれたムラのない最高品質のターコイズは、さらにカッティングやポリッシュなど、高い知識と経験を求められるいくつもの工程を経て、唯一無二の印象的な石へと昇華されている。
このように、驚くほど多様な蝶へのアプローチは、メゾンに引き継がれる卓越した職人技なくしてはなし得ない。「目に見える部分をより美しく輝かせるためには、見えない部分が非常に大切になる。そこに力を注ぐことが、偉大なるハイジュエラーの証」。このメゾンの哲学が、様々な技法で石の美を高め、色彩と輝きの新しい調和を生み出してきた。職人たちの情熱により生まれたパピヨンは、抽象的デザインであれ、具象的デザインであれ、共通するのはいつも喜びが満ちあふれていることだろう。どんな場所であろうと、メゾンの蝶が舞い降りる場所には色とりどりの色彩が咲き誇る。そんな多幸感を与えてくれる「見るものの感情を呼び覚ますジュエリー」こそが、メゾンが創造し続けるパピヨンの魅力なのだ。
Editor: Asako Kanno