エシカル、ダイバーシティ、トレーサビリティの追求など、SDGsをめぐるラグジュアリー界の最前線をご紹介する連載企画。第1回目は、この分野のパイオニア的存在、ステラ マッカートニーのサステナブルな活動にフィーチャー。自身のブランド設立時からレザーやファーを一切使用せず、20年以上もの歳月をかけてステラが真摯に取り組み続けてきた、地球に優しいファッションのあり方とは?
洋服を通じて、地球に優しいソリューションを見出すことが使命
今年で20周年を迎える“ベジタリアン”ラグジュアリーブランド、ステラ マッカートニー。2001年のブランド設立時より現在に至るまで、レザーや毛皮、フェザーといった動物由来の素材を一度も使用することはなかった。熱心な動物愛護・環境活動家としても知られるポップス界の重鎮、ポール・マッカートニーを父に持ち、両親ともに厳格な菜食主義者の家庭で育ったデザイナーのステラにとって、「エシカルであること」はごく自然で本質的な価値観だったのだ。
SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が生まれていなかった約20年前から、持続可能性とファッション性の両立をブランドの原点に掲げ、サステナブルラグジュアリー界のトップを走り続けてきたステラ・マッカートニー。その徹底した活動ぶりは、昨今蔓延するグリーンウォッシングとはまるで無縁だ。筋金入りのエコロジストの眼差しは素材調達のみならず、環境保全の啓蒙プロジェクトからテクノロジーの探求、ファッション業界全体の変革への取り組みにまで及ぶ。
アマゾンの森林破壊を止めよう。地球環境を守るためのコミットメント
今年4月には、アマゾンの森林破壊ゼロを目指す国際環境NGO団体、グリーンピースの活動をサポートするカプセルコレクション「ステラ×グリーンピース」を発売開始。オーガニックコットン製のTシャツ2種とスウェットシャツをラインナップし、森林保護に対する意識向上に尽力した。地球環境について考える日、4月22日のアースデイには、世界各国の錚々たるインフルエンサーやアクティビストがこのコレクションの限定アイテムを着用し、ソーシャルキャンペーンを実施したばかり。
ファッションのために動物が犠牲になるべきではない──ステラ本人の言葉を借りると、“動物にとって残酷で、地球に有害である習慣を終わらせるため”、2001年のブランド設立時に「レザーフリー、ファーフリー」を力強く宣言。以来、バッグ&シューズには彼女が「ベジタリアンレザー」と呼ぶ、ポリエステルやポリウレタンを用いた独自の合成皮革を採用。その滑らかな風合いはリアルレザー顔負けで、高いデザイン性とハイクオリティ、エコフレンドリーであることの共存を、ステラはごく早い時期から実現してきた。
再生カシミアやバイオマテリアルが導く、未来派ラグジュアリー
徹底的にリサーチを行い、レザーやファーばかりでなく、動物や地球環境にストレスを与える素材とは距離を置く主義。2016年以降はヴァージンカシミアの使用を中止し、「再生カシミア」を代替素材に。ラグジュアリー素材の代表格カシミアだが、その生産チェーンが環境に与える影響は甚大で、ウールの100倍もの環境負荷を及ぼすという。カシミアは1頭のヤギから取れる原毛が少なく、1枚のセーターに約4頭分の山羊毛が必要となる希少マテリアル。その過剰生産によるモンゴルの草原の砂漠化を防ぐため、ステラ マッカートニーでは再生カシミアへシフトしたのだ。
現在ステラ マッカートニーが採用する再生カシミアは、イタリアのニット工場での生産過程で生じたカシミア廃棄物を再構築して生まれる。再生カシミア製のニットウェアは、従来の最高級カシミアに劣らずとろけるようにやわらかな着心地。その保温効果も遜色ない。ほかにもオーガニックコットンやシルク、再生ナイロン、メタルに至るまで、あらゆる素材において環境負荷削減を実践している。
サステナブルな素材調達への飽くなき情熱は、再生素材からバイオマテリアルの導入へ。今年3月には、ボルトスレッド社が開発に成功した、“キノコの菌製”人工レザー「マイロ™」素材を用いた世界初の衣服を発表した。現時点では非売品だが、今後も「マイロ™」素材の商品開発に注力していくというので、期待は高まるばかり。
テーラリングに代表されるメンズウェアの要素とフェミニニティを融合させたシグネチャースタイルはそのままに、2021年サマーコレクションでは全アイテムの65%をサステナブルな素材で構成。真摯にエシカルマインドを貫くステラ マッカートニーだが、彼女が生み出すエフォートレスな世界観はとびきりコンテンポラリーで、ただ純粋に「今」を映し出す洗練に満ちている。真の豊かさとは何か。ステラのクリエイションは、サステナブルな価値観を宿すラグジュアリーこそが、未来を照らすスタンダードであることに気づかせてくれるだろう。
問い合わせ先/ステラ マッカートニー カスタマーサービス Tel. 03-4579-6139
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Text: Etsuko Aiko Editor: Kaori Takagiwa