Sustainable

“世界で一番快適な靴”オールバーズが考える、母なる地球を美しく保つためにできること

SDGsの「今」

2021.10.8

エシカルやトレーサビリティの追求など、SDGsをめぐるファッション&ラグジュアリー界の最前線をご紹介する連載企画。第3回目は、サステナビリティを根幹に据える米国・サンフランシスコ発の次世代シューズブランド「オールバーズ(Allbirds)」の活動に注目しよう。クラウドファンディングを通じて資金を集め、2016年にブランドを創設すると、瞬く間にシリコンバレーのテック業界の人々の間でブレイク。やがて環境活動に熱心なレオナルド・ディカプリオも投資家に名を連ね、メリノウールを使用したアイコンスニーカー「ウールランナー」の履き心地のよさは、米TIME誌に「The World’s Most Comfortable Shoes」と称されるほどに。サステナブルなものづくりへの共感から成長してきたブランドの歩みと、未来へのミッションとは?

オールバーズ創業者のふたり、元プロサッカー選手のティム・ブラウン(左)と再生可能エネルギーの専門家ジョーイ・ズウィリンジャー(右)。「より良いものを、より良い方法で」という理念のもと、環境への配慮と快適性、高いデザイン性を両立する革新的シューズを生み出す。Google共同創業者ラリー・ペイジからオバマ元米大統領、エマ・ワトソン、ジェシカ・アルバなど、各界の著名人をとりこに。

「より良いものを、より良い方法で」という挑戦のはじまり

従来のスニーカーに多用されてきた石油由来の素材を極力排除し、天然由来で持続可能なシューズづくりを貫くオールバーズ。その誕生の原点は、共同創業者ティムのシューズに対する違和感にあった。元プロサッカー選手という職業柄、スポーツシューズに長年親しんできた彼は、大きなロゴや派手なカラー、化石燃料ベースの合成素材を採用したシューズに疑問を抱いていたのだ。より環境に配慮した素材で、快適かつミニマルなデザインのシューズを作りたい──そんな情熱から、既存のシューズビジネスモデルを覆す、徹底したサステナブルなものづくりの道を歩みはじめた。

アッパーには、再生可能な天然素材であるニュージーランド産メリノウールと、ユーカリの木の繊維を使用。靴ひもには再生ペットボトルを、ソールにはブラジル産サトウキビから独自開発した新素材を採用。靴箱にも再生ダンボール90%を使用している。長く愛用でき、あらゆるスタイルにフィットするシンプルで洗練されたデザイン、洗濯機で丸洗いできる手入れのしやすさも人気の秘密に。

軽く、ムレず、疲れないミニマリスト御用達スニーカー。ブランド創業時にデビューしたオーセンティックな定番「ウールランナー」。顧客のフィードバックからこれまで30回を超えるアップデートを重ね、“世界で一番快適な靴”と称される履き心地を実現。各¥12,500

小売店に卸さず、自社ECサイトを通じて顧客に直接販売するD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)企業として、ビジネスを拡大してきたオールバーズ。当初はECサイトのみの展開だったが、現在では世界で31店舗の直営店を運営する急成長を遂げている。日本では2020年1月に誕生した原宿の1号店に続き、2021年6月、丸の内に2号店をオープンさせたばかり。シューズだけでなく、アパレルもフルラインナップで展開中だ。日本上陸から1年半を経てさらなる躍進を続けるフットウェアブランドの個性と使命を、Allbirds Japanマーケティングディレクターの蓑輪光浩さんに聞いた。

待望の日本2号店が丸の内にオープン。フットウェアからアパレルまでのフルラインナップがそろう。

カーボンフットプリントを可視化し、意識改革を

──地球に優しいものづくりにこだわる、オールバーズのブランド哲学とは?

元プロサッカー選手と再生可能エネルギー専門家、異なるバックグラウンドをもつふたりが創業したブランドですが、志はただひとつ“孫の世代にこの地球をどうやって美しく保てるか”という命題。その根本には、地球温暖化を食い止めるためのサステナビリティの実現があります。人間活動に伴い、大気に二酸化炭素が排出されるのは周知のこと。それが温室効果ガスとなり地球温暖化を招き、生態系破壊が進みます。

膨大な量の二酸化炭素をファッション産業が排出しているなかで、シューズ産業の規模は大きく、年間で約200億足ものシューズが生産され捨てられ、その大半は環境に影響を及ぼす素材が使用されているのが実情。地球温暖化と戦うためには、素材・製法・配送・使用・廃棄において環境負荷の軽減に取り組むしかありません。ファッションの業界から、気候変動をビジネスの力で逆転させたい。それがオールバーズのミッションステートメントです。

──シューズ/ファッションブランドとして世界で初めて、全製品にカーボンフットプリント(CO2e・温室効果ガス排出量)を表示した理由とは?

オールバーズは、2019年にカーボンニュートラル(事業活動による温室効果ガスの排出量と吸収量が、プラスマイナスゼロの状態になること)を達成しました。現在目標として掲げるのは、2025年までに製品ごとのカーボンフットプリントを半減させ、2030年までに95%削減させること。

カーボンフットプリントの数値を下げるには、ダイエットと同じようにまずは計測して認識することが必須。そこで、素材調達から製造、輸送、洗濯、廃棄にいたるまで、各段階における全製品のカーボンフットプリントを測り、食品のカロリー表示のごとく開示することに。情報が可視化されると、目にする人のサステナビリティへの関心が高まると同時に、我々つくり手にとっても、プロダクトをアップデートする際に数値を軽減しなければ意味がない、という意識向上につながります。

「マテリアルイノベーションカンパニー」として

──サステナブルな素材選び、素材開発はどのように進められるのでしょうか?

共同創業者のジョーイは、再生可能な資源に対する研究開発を長年専門としてきた人物。彼は自社を「マテリアルイノベーションカンパニー」と形容し、素材をどのように快適にし、地球に還すのかということに重きを置いています。

ウールをはじめオールバーズが採用する天然素材の生産は、カーボン吸収源となれるポテンシャルをもつ

シューズを構成する革新的素材は3つ。まず、創業当時からのシグネチャーであるニュージーランド産のメリノウール。その特徴は、暖かくてやわらかな肌触りと、極細で通気性に優れていて匂いが軽減される点。総人口よりも羊の数が多いニュージーランド。そんな自国のウール産業を奮起させたいという共同創業者ティムの願いもあり、これまで靴づくりに見落とされていたメリノウールに光を当てました。

二つ目はユーカリ。ウールの開発で成功を収めた後は、より軽く通気性のある素材として、ユーカリ由来の天然繊維テンセル™リヨセルに着目。ユーカリの木は効率よくカーボンを吸収すること、コットンなどとは比べ物にならないほど少量の殺菌剤で生育し、使用される水のリサイクル率が99%であることも重視しました。

ユーカリの木の繊維を用いた、さらりと爽やかで通気性抜群のバレエシューズ「ツリーブリーザー」。ムレにくく消臭作用もあり、靴下いらず。¥12,500

三つ目は、ミッドソールに使用されるサトウキビ由来の自社開発素材SweetFoam®。排出されるCO2よりも吸収するCO2量の方が勝る、カーボンネガティブな樹脂素材として認められました。オールバーズは新規開発素材を自分たちだけの占有技術にすることはなく、オープンソース化が基本。イノベーションを他社と共有することで、自分たちにも社会にとっても、サステナブルなビジネスの流れを作れるメリットがあると信じます。

素材調達における新しい話題としては、新素材開発企業NFWと共同で、新たに100%植物由来レザーの開発に成功したこと。キノコ、サボテン、パイナップルなど植物ベースのレザー開発がさまざまな企業間で進む昨今ですが、中には生産工程で石油由来の素材を部分使用するケースが見られることも。オールバーズが開発しているのは、正真正銘の100%プラントレザー。商品化すればヴィーガンの顧客向けにアプローチできるはず。

ファッションのサプライチェーンはサステナビリティに対する変化を起こしやすい。発言力やインパクト、表現力もあると思います。我々の業界が声を上げて若いジェネレーションにも影響を及ぼし、この地球をきれいなかたちで未来に残すことが使命です。

問い合わせ先/オールバーズ ☎ 0800-080-4054

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※掲載した商品の価格は、すべて税込みです。

Text: Etsuko Aiko Editor: Kaori Takagiwa