誰もがその名を知る世界最高級のグラス。古今東西の王侯貴族やセレブリティが愛し、名高い芸術家たちがリスペクトを捧げてきたバカラのアイコンこそ、「アルクール」。フランスの歴史とともに生まれ輝き、偉大な歴史が注がれてきたグラスが、1841年の誕生から180周年を迎えた。手にすればまるで魔法のように歓びを授ける「アルクール」のヒストリーと、アニバーサリーを祝う記念コレクションを紹介しよう。
栄光の歴史が注がれたヘリテージ
1764年、フランス・ロレーヌ地方のバカラ村に創業したバカラ。その誇り高きクリスタル工房で最も古くから制作される「アルクール」の起源は、コレクション誕生よりもはるか昔にさかのぼる。はじまりは、かつてバカラ村を訪ねたナポレオン1世を虜(とりこ)にしたグラス。遠征にも持ち歩くことのできる、その堅固かつエレガントなデザインをベースとして、1825年にはアルクール侯爵家婚礼の祝宴を飾るグラスを生み出す。
時は流れて1841年。バカラは、フランス国王ルイ・フィリップから、王のモノグラムを彫り込んだ正餐用グラス制作の命を受けることに。1825年のグラスを原型としつつフォルムを磨き、現在と同じ形状の6面のフラットカットグラスを国王のために完成。デザインの前身となった侯爵家の名を冠し、世紀を超える「アルクール」伝説が正式に幕を開けた。
時を超え、一流であり続ける理由
六角形の台座と側面に施された深いフラットカット、ステムの洗練された装飾。その力強く、ずっしりとした重厚感ある佇まいと、クリスタルのなめらかな質感の芸術的マリアージュ。「アルクール」の独特の造形美は、180年の歳月を経ても何ひとつ変わらない。
ルイ・フィリップ王のもとで生まれた後も、ナポレオン3世からオスマン帝国のスルタンまで、その唯一無二の美しさに魅了された国王たちは数知れず。1917年には、ローマ教皇ベネディクトゥス15世に選ばれたことも。バチカンからヴェルサイユ宮殿のレセプションまで、世界中の王侯貴族、歴代大統領、教皇、セレブリティたちの宴に華を添えてきたのは、他ならぬ「アルクール」だ。数々の紋章が、オーラに満ちたグラスに刻み込まれてきた。
最高峰のグラスとして愛され続ける理由は、抜群の知名度やステイタスシンボルばかりではない。手にすればこのうえない煌きに魅了され、口にすれば甘美な味に酔いしれる。端正に作り込まれた意匠は、グラスひとつの完成までに数十人もの職人の手が関わっているという。その研ぎ澄まされたラインや流れるような質感は、まさにクラフツマンシップの象徴。色あせない価値は、バカラの歴史そのものだ。
180周年記念ピースとフェスティブな季節を
バカラの職人技の結晶というべき伝説のグラスが今年、180周年を記念してコンテンポラリーに再解釈された。さまざまな気鋭アーティストとのコラボレーションによって展開される記念作品のうち、主軸となるラインナップに光を当てよう。
まずは、オランダ出身の世界的デザイナー、マルセル・ワンダース率いるマルセル・ワンダース スタジオによる、5つの新作コレクションに注目を。王道ワイングラスは、凍って霜が降りたような繊細なパターンをまとって詩的にアップデート。レースや咲き誇る花々、バカラのシャンデリアにも用いられる八角形モチーフなど、有機的な模様と幾何学柄が重なり合うさまはアートの域。ワインやカクテルを注げば、いっそうクリスタルの美しさが際立つ。
また、ビールを味わうための「アルクール」も登場。さらに、グラスのアイコニックな彫刻的フォルムを大理石のオブジェに昇華させたり、シャンパンフルートを華麗なフラワーベースへ変貌させたりと、独創が瞬く。デザインを通してウィットや夢をもたらす、マルセル・ワンダースならではのマジカルな世界観が作品に投影されている。
スペイン出身の現代アーティスト兼デザイナー、ハイメ・アジョンが手がける作品も見逃せない。動物をモチーフとしたハイメによる既存のコレクション「ファウナクリストポリス」が「アルクール」と出会い、ティーポットは空想上のユーモラスな生き物に変身。象徴的なフラットカットを鳥の羽に見立て、くちばしや瞳をもつクリスタルのアニマルの頭を蓋に。タンブラーのフット部分には、四つ葉をかたどった。伝統とファンタジーを巧みに融合させ、その名のごとく“動物たちのクリスタルの都市国家”へ誘う。
真のラグジュアリーを知る人々を魅了し、スポットライトの的であり続ける稀有な存在。“王者たちのグラス”は、そのレジェンドを刻み続ける。ホリデーシーズン到来の今、人生に歓びの魔法をかける「アルクール」と、フェスティブなテーブルをともに過ごしてみてはいかがだろう。
問い合わせ先/バカラショップ 丸の内 ☎03-5223-8868
Text: Etsuko Aiko Editor: Kaori Shimura