Sustainable

ブシュロンがデジタル時代に挑む、ダイヤモンドのトレーサビリティ

SDGsの「今」

2022.3.11

Photo: ©Boucheron

SDGsをめぐるラグジュアリー界の最前線をご紹介する連載企画。第7回目は、メゾンを擁するケリング・グループ全体の戦略に準じ、妥協なきサステナブルなアプローチでジュエリー業界のトップを走るブシュロンに注目したい。2006年より「Responsible Jewelry Council(RJC:責任ある宝飾品業のための協議会)」のメンバーに名を連ね、2020年には100%責任あるゴールドの調達を達成。

さらにブシュロンは今年1月、サリネ・テクノロジー社との協同により、ダイヤモンドの先進的なトレーサビリティプログラムと、人工知能に基づくグレーディング(格付け)システムの採用を発表したばかり。ダイヤモンド流通過程に透明性をもたらし、かつてない高精度のダイヤモンド鑑定を反映した独自の「ブシュロン証明書」は、デジタルフォーマットのみで提供される。名門メゾンが最先端テクノロジーとともに歩むサステナビリティへの取り組みを、エレーヌ・プリ=デュケンCEOのコメントと併せてお届けしよう。

ブシュロン最高経営責任者 エレーヌ・プリ=デュケン(Hélène Poulit-Duquesne)
フランス生まれ。エセック・ビジネススクールを卒業後、LVMHグループでキャリアをスタート。1998年にカルティエ インターナショナルへ入社し、インターナショナル マーケティング ディレクターなどの要職を歴任。2015年9月ブシュロンへ入社し、メゾン初の女性CEOに就任。Photo: ©Boucheron

最先端アルゴリムと人工知能が切り拓く、ダイヤモンドの未来

1858年に創業し、ジュエリーの聖地パリ・ヴァンドーム広場に最初に店を構えた名門中の名門。160年以上の歴史を誇りながら、いつの時代も新たに挑戦し、成し遂げてきた「革新性」というヘリテージがブシュロンにはある。閉鎖的であったジュエリー業界においても、競合他社が力を合わせながら、サステナビリティとどう向き合うかが大きな経営課題となっている昨今。時流を先読みする力に長けたブシュロンは、先進のデジタル技術を活かしながら、ダイヤモンドのトレーサビリティ向上に対し、イノベーションの針を未来へと前進させた。

今年1月メゾンは、イスラエルを拠点とするダイヤモンド専門の世界的ハイテク機材企業、サリネ・テクノロジー社とのパートナーシップによる、独自のダイヤモンドレポートの提供をスタートした。最先端のアルゴリズムを駆使してセンターダイヤモンドを識別することで、切り出される前の原石の状態からカッティング計画、研磨プロセス、最終研磨されたダイヤモンドになるまでの全工程、いわゆる“ダイヤモンドジャーニー”を、3Dスキャンを通じて可視化されたデジタル画面を見ながら追跡できるというもの。さらに、ダイヤモンドの評価基準である4C(カラット、カラー、クラリティ、カット)の鑑定に人工知能(AI)を適用することで、人間の主観やヒューマンエラーを排除し、鑑定情報の正確さを最高レベルに高めたのだ。

QRコードからアクセスできる、独自のダイヤモンドレポートのスタート画面サンプル。詳細なダイヤモンドグレーディングに加え、産地やサイズ、研磨、セッティングに関する情報、メゾンのサステナビリティに対する公約までをデジタル表示で公開。業界随一の透明性と高精度を誇る「ブシュロン証明書」の誕生。Photo: ©Boucheron

ゴールド、ダイヤモンド、色石の責任ある調達を目指す

エレーヌ・プリ=デュケンCEOは言う。「私たちのビジョンは、より持続可能な世界を目指し、ジュエリー市場をリードしていくこと。それは、信頼性の高い、安全なデータと透明性を通じてのみ達成できるものでしょう。パートナーとのエコシステムによって、最高の品質とデザインだけでなく、私たちが信じる倫理性にかなった作品の提供が可能となりました。革新性、誠実さ、向上心という価値観を共有するサリネ・テクノロジー社が、メゾンのエコシステムに参加してくれることを嬉しく思います。ブシュロンの世界観のなかで、その歴史とダイヤモンドに関するすべての情報をデジタル表示で提供することは、フィジカルとデジタルが共存する現代において、必要不可欠で重要なステップといえるでしょう」。

ブシュロンが掲げるサステナブルな取り組み。それは3つの柱によって構築されると、プリ=デュケンCEOは指摘する。「ジュエリー産業による環境負荷の約80%が原材料に起因すると考えられるなかで、鍵となる3つのマテリアルが存在します。第一にゴールド。2020年の段階で、100%持続可能なゴールドの使用に転換しました。この目標はすでに達成し、それを継続しています。第二の素材、ダイヤモンドに関してはトレーサビリティが課題に。そしてこのたび、鉱山からブティックに至るまでの全工程を追跡できる仕組みを、デジタルソリューションを採用することで実現させたというわけです」。

第三のマテリアルは、カラージェムストーンだ。「トレーサビリティ実現にあたり、色石はダイヤモンドよりはるかに難しいのが実情。小規模な採掘事業者が多く、かつ世界各地に散らばっているためです。そこで2015年、ハイジュエリーメゾンを含む複数のジュエラーと宝石採掘事業者が団結し、『Coloured Gemstones Working Group(CGWG)』を発足しました。CGWGはカラーストーンの責任ある供給、より透明性の高い業界の実現に向けて日々取り組んでいます」。

2020年の100%エシカルゴールドの調達達成に続き、2022年1月には最先端アルゴリズム技術と人工知能を駆使して、ダイヤモンドのトレーサビリティを最高レベルにまで向上。(左)メゾンの革新性を物語るシグネチャーであり金細工技巧が光る「クエスチョンマーク ネックレス」。(右)ブシュロンの審美性と倫理性にかなう、真にトレーサブルなダイヤモンドの数々。Photos: ©Boucheron

トレーサブルなダイヤモンドが煌めく、新時代のソリテール

ダイヤモンドのトレーサビリティへの真摯な取り組みは、新作リングコレクション「エトワール ドゥ パリ」のローンチを機に強化されたという点にも着目しよう。パリのエトワール広場と凱旋門から放射状に伸びる、12の通りにインスピレーションを得たコレクション。ダイヤモンドのファセットを想起させる、グラフィカルなデザインが特徴的だ。0.3カラット以上の眩いセンターストーンを取り囲むようにパヴェダイヤモンドを施し、アームに至るまで精緻なダイヤモンドをセット。そのプレシャスな輝きが無限に続くような、オーラに満ちた存在感を発揮している。

トレーサブルなダイヤモンドを使用した「エトワール ドゥ パリ」ソリテールリング。プラチナの研ぎ澄まされたラインが、幾何学的パターンを描いて。リング(Pt×センターダイヤモンド0.3ct〜)¥715,000〜 Photo: ©Boucheron

世界が注目するトレーサブルなダイヤモンドと、RJC(責任ある宝飾品業のための評議会)が定める流通基準を満たすプラチナを採用した「エトワール ドゥ パリ」。次世代のソリテールリングは、持続可能な開発に対するブシュロンのコミットメントの結晶である。

ダイヤモンドの産出地はどこか、どこで計画・準備され、カット・研磨され、グレーディング・保証がなされたのか。最終的にどこでジュエリーとしてセットされたのか。愛の証や自分へのご褒美として手にしたダイヤモンドが、いったいどこからやってきたのか。ダイヤモンドにはそのクオリティ以外に、真正なダイヤモンドと紛争との関わりを持つダイヤモンドが存在する以上、私たちには知る権利がある。SNSを中心とした情報と価値観の拡散によって、あらゆる情報に容易にアクセスできるデジタルネイティブ世代の台頭と、それに伴いエシカル消費・サステナブル消費が増加する現代においてはなおさらのこと。トレーサビリティの確保は、ブランドの命運をかけた一大プロジェクトといえよう。

グランメゾンハイジュエラーとしては真っ先にパリ・ヴァンドーム広場に進出し、この地にパリ屈指のトップジュエラーが集結する礎を築いたブシュロン。メゾン最上階にある光あふれるアトリエで、今日も職人たちは時を超えるラグジュアリーを創造し続けている。Photos: ©Boucheron

先見性と大胆さはメゾンのコードであり、イノベーションこそがメゾンの創造性の原動力。ブシュロンはビジネスが環境へもたらす影響に責任を持ち、原材料からブティックに至るまであらゆるレベルにおいて、環境保全に貢献する革新性を重視している。目下の目標は、2025年までにすべての主要原材料のトレーサビリティを100%にすること。未来を見据えハイテクノロジーをも活用しながら、しなやかに進化していくブシュロン。その姿は、急速に変わりゆく時代の先駆者そのものだ。

問い合わせ先/ブシュロン クライアント サービス フリーダイヤル0120-230-441

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※この特集中、以下の表記は略号になります。Pt(プラチナ)

※掲載商品の価格は、すべて税込価格です。

Text: Etsuko Aiko Editor: Kaori Takagiwa