SDGsをめぐるラグジュアリー界の最前線をご紹介する連載企画。第11回目は、“BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD”という企業使命を掲げ、サステナビリティーアクションを加速させている資生堂に注目しよう。今年で創業150周年を迎えたグローバルビューティカンパニー、資生堂。1872年の創業時から地球環境と社会を敬いながら、いのちと美しさを見つめてきた。ビューティビジネスを通じて持続可能なよりよい世界の実現を目指す取り組みは、環境負荷軽減からジェンダー・人権の尊重といった社会課題の解決、文化領域まで多岐に及ぶ。美によってサステナブルな価値創造の使命を担う、資生堂の歩みに迫る。
持続可能なパッケージングの未来を切り開く
世界にとどろく「資生堂」の社名。その名は、古代中国の書物『易経』に記された一節、「至哉坤元 万物資生」(いたれるかなこんげん ばんぶつとりとてしょうず)に由来することをご存じだろうか。その意味するところは、「大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか。すべてのものはここから生まれる」。サステナビリティーはもはや社会貢献にとどまらず、人々が商品やサービスを選ぶ際に重視する価値観となった現代。サステナビリティー経営がこれまで以上に注目される中、資生堂という社名そのものが“大地のあらゆるものを融合し、新たな価値を創造する”というミッションを提起している。自然環境と社会、人へのリスペクトが、150年に及ぶ事業活動を支えてきた。
かなり早い時期から、環境対応パッケージの開発に注力してきた資生堂。2018年から日本企業として初めて、グローバルな大手化粧品会社が協働する団体「SPICE(Sustainable Packaging Initiative for CosmEtics:化粧品のための持続可能なパッケージングへの取り組み)」へ参加。サステナビリティー関連の専門知識を有するクアンティス社の指導のもと、30以上の参加企業とともにエコロジカルなパッケージングの技術革新を推進中だ。資生堂は2025年までに、すべての商品の容器・包装を100%持続可能なパッケージングへと転換する目標を掲げている。その取り組みの一例に、グローバルブランド「SHISEIDO」におけるサステナブルな活動や製品開発を行うプロジェクト「Sustainable Beauty Actions」(以下SBAS)がある。
海の未来のために。生分解性容器をコスメに世界初採用
「SBAS」プロジェクトの第一弾商品として、化学メーカーのカネカが開発した100%植物由来の新素材「カネカ生分解性ポリマーGreen Planet™」を化粧品容器に世界で初めて採用したリップパレットを発表。2020年11月から、ブランド旗艦店の東京・銀座「SHISEIDO グローバル フラッグシップストア」にて数量限定で発売開始した。また同旗艦店限定で、「SHISEIDO」を象徴する美容液「SHISEIDO アルティミューン™ パワライジング コンセントレート Ⅲ」レフィル(詰め替え)サービスを2020年11月からスタートさせ、大きな話題を集めた。
2019年4月にカネカとの共同開発着手を発表、同社の素材開発技術と資生堂の化粧品容器開発のノウハウを融合させることで「アクアジェル リップパレット」が誕生した。Green Planet™は、世界に先駆けてカネカが独自開発した100%植物由来の生分解性ポリマー。幅広い環境下で優れた生分解性(物質が微生物などの生物の作用により分解する性質)を有している。海水中で生分解する認証「OK Biodegradable MARINE」を取得した、海洋汚染低減に貢献するイノベーティブな素材だ。
「MOTTAINAI精神」から生まれた詰め替えサービス
アルティミューン美容液のレフィルサービスについて、詳しく説明しよう。長く大切に使い続けることを美徳とする、日本独特の「MOTTAINAI(もったいない)精神」に着想を得た詰め替えサービス「アルティミューン ファウンテン」。銀座にあるブランド初の旗艦店「SHISEIDO グローバル フラッグシップストア」内の専用ラボ限定で展開されている。HPから事前予約のうえ来店すると、ボトルの洗浄を経て美容液の充填を行ってもらえる。所要時間は1時間程度。充填終了後には、アルティミューンのボトルに好みの文字やイラストを刻印できるパーソナライズサービスにも対応。容器の再利用によって環境負荷を減らすだけでなく、ブランドへの愛着やサステナビリティーへの意識を高めるポジティブなきっかけとなるだろう。
樹木の恵みを次世代へつなぐ新ブランド「BAUM」
“樹木との共生”をコンセプトに、2020年6月にデビューを飾った新スキンケアブランド「BAUM(バウム)」が、大ブレイク中だ。中心商品の化粧水は7,150円(税込)。資生堂の高価格帯製品が名を連ねる、プレステージ領域に位置づけられているにもかかわらず、ジェンダーを問わず20代を中心とする若い世代の間で反響が大きい。全製品にパラベン、シリコーン、合成着色料を一切使用せず、90%以上を自然由来の素材から製造されている。木製家具メーカー、カリモク家具とのコラボレーションにより、商品パッケージにアップサイクル木材を使用している点も特徴的だ。家具の製造工程で発生したオーク(ナラ)の木片を再生利用しており、ひとつひとつ木目や色味の異なる味わい深さがある。ぬくもりに満ちたミニマルラグジュアリーなマテリアル使いが、サステナブル時代にぴたりと寄り添う。
環境保全をめぐる「BAUM」の取り組みは、成分・パッケージの設計に終わらない。資源を守るだけでなく、自然に還し循環させていくことも「BAUM」の存在意義。パッケージに採用しているオークを中心とした植樹活動を、住友林業と協業しながら岩手県盛岡市の森で推進している。製品を使うことで、「BAUMの森」を育んでいくことにも貢献できる。日本から世界に羽ばたく新生ブランドの挑戦は、始まったばかりだ。
長期化する新型コロナウイルス感染症の影響や気候変動、海洋汚染など、私たちを取り巻く社会や環境に先行きが見えぬ昨今。資生堂が願うのは、「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」だ。美しさを心から享受することのできる、豊かな地球環境へ向かって、100年先を見据えた資生堂の力強いアクションは続く。
※掲載商品は、すべて税込価格です。
Text: Etsuko Aiko Editor: Kaori Takagiwa