秋の風が吹いてくると、赤ワインが恋しくなる。選ぶなら、背筋がすっと伸びるような品格のあるものがいい。秋の装いは夏に比べて、ちょっとレディ。そんな気分にフィットするからだ。それも、芸術の秋にちなんで、アーティスティックなラベルのものなら、ワインとともに過ごす時間がより楽しく、味わい深いものになるはず。
そんなとっておきの時間にふさわしいのが、イタリア・トスカーナの「オルネッライア 2019」だ。「5大シャトーに比肩する味わい」と称される“スーパー・タスカン(トスカーナ)”の筆頭として、根強い人気を誇る。
ワイナリーはフィレンツェから車で2時間ほどの海辺の町・ボルゲリにあり、「世界に類を見ない極上のワインを造ること」を理念に、1985年の初ヴィンテージ以来、現在は世界的にも活躍する醸造責任者のアクセル・ハインツ氏がフィネスのあるワインを生み出している。
地中海から10kmの場所に位置するボルゲリはイトスギ並木で有名な中世の町で、夏のリゾート地として知られるが、ワイン造りの歴史の長いイタリアにおいてはまだ新しい土地でもあった。だが、土壌は砂岩と泥灰、海洋生物の化石まじりのもの、粘土質など、バラエティーに富んでおり、加えて、地中海からの冷涼な風も手伝って、“マイクロ・テロワール(多様な性質の土壌がまざり合うテロワール)”を形成していることから、熟度が高く、美しい酸味を備えたブドウが育つ。「オルネッライア」からは、イタリアらしい陽光を思わせる果実の明るさと涼やかさを含んだピュアな酸味が感じられ、確かに、ボルゲリの繊細なテロワールを感じさせる。
また、注目したいのがアーティスティックなラベルだ。「オルネッライア」では、ワインとアートの融合「ヴァンデミア・ダルティスタ(芸術家の収穫)」を2009年から開始した。これは「オルネッライア」の最新ヴィンテージを一語で表現し、その言葉をモチーフに、国際的に有名な現代アーティストがワイナリーの敷地内に作品を作り、また、限定数のボトル用にアートラベルをデザインするというもの。2019年のヴィンテージには「イル・ヴィゴーレ(力)」という言葉が選ばれた。ハインツ氏はこう語る。
「イル・ヴィゴーレとは、ブドウが健やかに成長する力のこと。精神と体の躍動、畑や天候から受ける自然のエネルギーや生命力、そして、栽培・醸造チームの結束力も意味します。自然の豊かな力が、ボトルに詰められているのです」
その言葉どおり、香りも味わいもとてもパワフル。それでいて、高貴な優雅さが味わいの奥から伝わってくる。心躍り、幸福感を感じる味わいだ。
2019年の作品を手がけたのはスウェーデンの芸術家ナタリー・ユールベリ氏とハンス・ベリ氏で、2人は「イル・ヴィゴーレ」を変容、自然の周期、そして地球と人間の関係性と解釈し、ラベルには人が指で地球をなぞるデザインを描いた。
実はこの「ヴァンデミア・ダルティスタ」は、2009年以来、サザビーズ監修によるチャリティー・オークションにおいて、売り上げのすべてを世界中の芸術基金や美術館に寄付してきた。2019年からは、このプロジェクトの収益はソロモン・R・グッゲンハイム美術館における革新的なプログラム「マインズ・アイ」(視覚に障害がある人でも芸術を楽しめることを目的とした支援プロジェクト)のために寄付されることになった。この3年で、鑑賞する手段が飛躍的に広がり、美術館の作品を五感で鑑賞できる機会が増えたという。
このアートボトルのオークションは、今年は10月5日から19日まで、サザビーズのオンラインオークションにかけられる予定だ。
ワインは“幸福の飲みもの”だと評される。「オルネッライア」はその最たるものといえるだろう。香りの豊かさ、味わいのエレガントさはもちろんながら、自分を含めた誰かが確実に幸福感を感じるというその“パワー”。だからこそ、秋の静かな時間には、誰かの幸福を願いながら、グラスを傾けたいと思うのだ。
Text: Kimiko Anzai Editor: Kaori Shimura