普段の日にこそ楽しみたい、リュクスなペアリング
肌寒さを感じる日には、シチューやグラタンのような温かい料理が恋しくなる。そういえば、そろそろカニの季節。ならば、とっておきのカニグラタンで、ちょっとぜいたくなテーブルを楽しんでみたい。
「せいこ蟹グラタン」は、そんな気分にぴったりのひと品だ。作っているのは福井・三国の料理に定評ある老舗料理旅館「望洋楼」直営の食事処「越前 蟹の坊」で、カニのうまみをたっぷりと堪能できる。
セイコガニとはズワイガニの雌のことで、地域によってはセコガニ、香箱ガニなどとも呼ばれる。小さいながらも実詰まりがよく、濃厚なミソとプチプチした食感の内子と外子(卵)は、一度食べたら忘れられない味わい。漁獲期間が短く量も少ないため、ほとんどが地元消費され、なかなかお目にかかれない珍味なのだ。これを、グラタンで気軽に楽しめるのがうれしい。
最初のひと口で感じるのはベシャメルソースとマリボーチーズのコンビネーションのコクと奥深さ。セイコガニの脚身だけでなく、赤いダイヤと呼ばれる内子も外子もたっぷり入っており、これがまたベシャメルソースによく合う。ひとつの料理のなかにカニの脚身や卵など、さまざまな味と食感が感じられ、カニ好きにとってはパラダイスな美味といえるだろう。
この一品にワインを用意するなら、ブルゴーニュのアリゴテがいい。バターのようなニュアンスと繊細な苦みが、「せいこ蟹グラタン」のリッチな味わいに寄り添ってくれるのだ。
アリゴテは、ブルゴーニュ名物のカシスのカクテル「キール」に使われるワインとして知られる。19世紀まではシャルドネに負けない主役級の存在だったのが、19世紀末にブルゴーニュで猛威を振るったフィロキセラ禍(害虫)で、衰退してしまった。それが近年、地元の生産者たちの努力によって著しい発展を遂げ、素晴らしいアリゴテが次々と誕生している。
「ミシェル・ラファルジュ ブルゴーニュ・アリゴテ レザン・ドレ」もそのひとつで、白い花やカリンの香りとナッツのニュアンスが感じられ、体にすっとなじんでいくような優しさをもつ。酸味もフレッシュで、完熟したブドウの優しい甘みもチャーミング。ちなみに「レザン・ドレ」とは「黄金のアリゴテ」の意で、ピンクがかった淡いゴールド色をしているのが特徴だ。
「ミシェル・ラファルジュ」は、ヴォルネイで19世紀初めから続く老舗で、上品でガストロノミックなワインを造ることで評価が高い生産者。このワインも果実味豊かでエレガント、深みがある味わいだ。
希少なセイコガニのグラタンと、目覚ましい進化を見せる上質なアリゴテのペアリングは、“極上の越前ガニとシャンパーニュ”の正統派ペアリングと比べると、ちょっとマニアックながらも、どこかおしゃれなドレスダウン感が漂う。だからこそ、何もない普段の日にゆったりと、特別な時間を楽しんでみたいと思うのだ。
※掲載商品は、すべて税込み価格です。
Text: Kimiko Anzai Editor: Kaori Shimura