50歳を目前に頭をよぎった
「人生二毛作」という言葉
――起業までの経緯を教えてください。
芳賀グルーヴナウの創業は2020年12月で、私が48歳の時です。それまでは、エネルギー関連企業でシステムエンジニア(SE)の仕事をしていました。昔からプログラミングに興味があり、「何でも屋」よりも「スペシャリスト」になりたかった。就職口に決めたのは、転勤せずに済む会社だったからです。今から思うと安定志向でしたね。仕事は主にグループ企業の社内システムの構築で、開発設計からメンテナンスまで一貫して数多く手がけてきました。
でも、50歳を目前にして「人生二毛作」という言葉がよぎり、一度きりの人生、やらないで悔いを残したくないと。「システムが故障した」と夜中に呼び出される生活に疲れたのも確かです。良かれと思って提案しても即断即決できない会社組織では挑戦しにくい。3人の息子がみな小学生になり、手がかからなくなったタイミングだったことも起業を考え始めたきっかけです。
伊豫田当時はTAMAがまだなかったので、東京・丸の内のTOKYO創業ステーションの起業塾に参加されたのが始まりでしたね。講師役の僕と初めて出会ってから、もう2年になりますね。
芳賀TOKYO創業ステーションはネットを検索して知りました。でも、それから半年間は悶々(もんもん)とする日々で、実際に起業塾に参加したのは2019年の秋。それでもなんだかんだ忙しく講座の半分も受講できず、大きな組織での「ワークライフバランス」の取りにくさに限界を感じていました。(今は完全に解放されています!!)

「起業塾」参加から始め、
「プランコンサルティング」へ
伊豫田TAMAも同様ですが、TOKYO創業ステーションには「Startup Hub Tokyo(スタートアップ・ハブ・トウキョウ、略称スタハ)」と「Planning Port(プランニング・ポート、同PP)」の2つの機能があります。スタハは主に起業の夢がまだ漠然としている人向け、PPは創業に向けて具体的な事業計画を練り、準備を進めたい人向けで、芳賀さんはPPのエントリーカリキュラムである起業塾に参加されたわけですが、この起業塾の特徴はワーク(実習)の多さです。ワークが多いとその都度、受講生は個別に講師からアドバイスがもらえ、講師も受講生の胸の内を把握できます。
芳賀起業塾は事業計画書の作成ノウハウを集中的に学びますが漠然と「子どもの夢をかなえる仕事がしたい」と考えていた程度の私には、短期間で計画書に落とし込むことができなかった。
伊豫田だからマンツーマンで指導を仰げ、より密度が濃い「プランコンサルティング」へとシフトしたのですね。
芳賀初めは資金面の心配があったので、お金に詳しいプランコンサルタントに何人か相談したのですが、最終的に伊豫田先生にお願いすることにしました。世にない価値やビジネスの創造を得意とされている伊豫田先生にひかれたことや、私が目指すプログラミングやゲーム関連分野への理解もあり、話を前に進めやすかったからです。
伊豫田実は僕も中学時代、パソコンを買ったり、プログラミング雑誌を買ったりしていて、お互い気が合いましたね。まさにご縁です。

グルーヴナウ社長・芳賀達彦さん

腹落ちすれば人は化ける
考えを煮詰める時間も大事
――プランコンサルティングは具体的にどのようなものだったのですか。
伊豫田プランコンサルティングは1回45分間で、最終的には創業に向けた事業計画書の作成を目指しています。毎回、僕は相手に考えさせるように心がけています。「本当にそれでいいの?」という問いかけを何度も何度も投げかけて。本人の腹が決まらない限り、心がすぐにブレる。逆にいったん腹落ちすれば、人は化ける。変わりようがすごい。
芳賀プランコンサルティングの場で、何度も「それでいいの?」と聞かれ、ニヤリとされる度に帰宅後、自分なりにあれこれ調べたり、考えたりの連続でした。その過程で漠然としていた思いがどんどんフォーカスされていき、自分が目指すべき方向性や、力を発揮できる分野が見えてきたのです。プログラミングやeスポーツと呼ばれるゲームの分野で頑張ろうと決めたのも、ゲーム開発やプロゲーマーなどが子どもたちに人気の職業で、学校教育の現場にも導入されてきたことや、私自身ゲーム好きで、SEの経験もしっかり生かせるな、と思ったからです。
伊豫田プランコンサルティングは私の場合2週間に1回のペースで相談に来る人が多いのですが、芳賀さんは1回相談に来たと思ったら、次はしばらく来なかったり。でも、それはご自身の考えを煮詰めている時間だったのですよね。

プランコンサルタント・伊豫田竜二さん

入念に練り上げたプランで、
融資もスムーズに
芳賀伊豫田先生からは「地元密着」というヒントをもらい、今も心がけています。eスポーツのイベントを地元で開催した際、地元の駄菓子屋さんとコラボして、集客につなげました。息子からいつも利用している駄菓子屋さんの話を聞いたときに「これだ!」と思いつき、すぐにお店に押しかけてしまいました。私は「初めまして」だったのですが、コラボ話を切り出し10分ほどで意気投合し、トントン拍子で実現した。それは大きな組織では味わえない醍醐味でしたね。
伊豫田芳賀さんの会社は「スピリッツ」と呼ばれる東京信用保証協会と東京都中小企業振興公社の提携保証制度に基づく融資案件第1号だったんですよ。
芳賀プランコンサルティングを受けながら入念に練り上げた基本プランだからでしょう。融資申込書を1枚記入しただけで、スムーズに融資が受けられたのは助かりました。プランコンサルティング後は創業助成金にチャレンジされる人が多いと聞きますが、狭き門でもあります。私の場合は会社が商店街の中にあるので、商店街活性化のための助成金が活用できました。その助成金の利用をすすめてくれたのもTOKYO創業ステーションTAMAの別のプランコンサルタントで、随分と助けられました。

地元サッカーチームのジャンパーに協賛し事業PR

グルーヴナウは、子ども向けロボット・プログラミング教室などを運営する
リスクよりワクワク感が
上回っていれば起業できる
――最後に施設の上手な活用法や今後の夢などお聞かせください。
芳賀起業塾に参加し、起業の夢を抱くほかの仲間と出会えたことが大きいですね。自分よりもっと若い人もいれば、年上の人もいた。起業は決して特別なことじゃない、孫さんや三木谷さんみたいな人ばかりじゃない、と安心感を持てました。リスクへの心配も大きかったのは確かですが、プロの指導を仰ぎながら、正しく進めていけば、ある程度回避できると今は思います。そのためにもステーションをとことん使い倒してほしい。将来的にはeスポーツで強豪チームの育成や大会を主催してみたいですね。
伊豫田リスクよりも期待感やワクワク感が上回っている人が起業できるのだと思います。不安や先のビジョンが見えないという理由だけで起業を踏みとどまるのはもったいない。事業計画書を作成した上で、やめるという選択肢だってあるわけで。新型コロナウイルス禍はピンチでもあり、チャンスでもあります。世の中が大きく変わる時こそ、新しいことを始める、もってこいのタイミング。TOKYO創業ステーションTAMAには様々な経験とノウハウを持った専門家がたくさんいます。ぜひベストな出会いを求めて皆さん、門をたたいてみてください。
「TOKYO創業ステーションTAMA」は「スタハ」と「PP」の2つの機能を備え、起業に興味がある人や、自分の「好きを仕事」にするために動き始めた人に寄り添い、自分の力で階段を上るのを手伝うのが役割だ。起業という大海原に向かって船をこぎ出すとき、不安や迷いはつきものだろう。そんな時、役に立つのが「創業羅針盤」だ。創業アイデアを事業化させるためのステップを体系化して、一つ一つこなしていくことで事業化へと導く同施設のツールになっている。漠然とした夢をカタチにし、起業準備のカギとなる事業計画書の完成までを専門家が支援し、創業後5年間しっかりと見守ってくれる。2020年7月、JR立川駅北口近くに誕生したそんな心強い施設をぜひ活用してみてほしい。
