~議決権行使情報の開示と対話~

進むスチュワードシップ活動の高度化

私たちは責任ある機関投資家として
スチュワードシップ活動の高度化に
取り組んでいます

(順不同)

今年は新型コロナウイルスの感染拡大へ警戒が続く中での株主総会シーズンとなった。機関投資家が投資先企業の持続的成長のために果たすべき役割を示した「日本版スチュワードシップ・コード」が3月に改訂され、機関投資家の議決権行使情報の開示や株主提案などが注目された。改訂のポイントとスチュワードシップ活動の高度化の動きについて、2人の専門家に聞いた。

北川哲雄氏写真
青山学院大学名誉教授
東京都立大学特任教授
北川 哲雄
小野塚恵美氏写真
カタリスト投資顧問
取締役副社長COO
小野塚 恵美

環境は将来世代からの「借り物」
投資判断でも配慮を

――2回目となる今回の日本版スチュワードシップ・コード改訂のポイントは。

北川 最も注視されるのは、機関投資家が投資先企業のサステナビリティーやESG(環境・社会・企業統治)を考慮すべきことが強調された点だ。ESG投資は企業価値そのものを高めて、最終的には受益者の中長期的な投資リターンの拡大につながるということが明示された。

小野塚 投資家は株主、従業員など他のステークホルダーに対しても責任を負っているということが重視されている。環境は将来世代からの「借り物」と言え、彼らもステークホルダーであると位置づけられる。したがって投資家は企業の環境に対する姿勢を考慮した投資判断を行うべきだと読み取れる。

――アセットオーナーへのメッセージが盛り込まれた点も新しい。

小野塚 グローバルなアセットオーナーに比べると、日本の企業年金などの機関投資家はスチュワードシップがいまひとつ浸透していない印象だ。それは、日本のアセットオーナーがスチュワードシップに真摯に取り組もうとするあまり、難しく考えすぎているからではないか。
 数字で測れないものには取り組みづらいという声が多いが、この点についてはアセットマネジャーが知識を向上させ経験を積む過程で、モニタリングの仕方などプラクティカルな問題も含めて、アセットオーナーとともに業界一丸となって解決していかなければならない。

――コロナ禍で企業の存続が優先される中、スチュワードシップをどうとらえたらよいか。

北川 今後コロナが克服できたとしても働き方は大きく変わる。サプライチェーンの分散化・効率化やリスクマネジメントの必要性が高まり、中長期的な視点で経営戦略を考えることがより重要になる。この点について、企業がアニュアルリポートでどう発信するかに注目したい。

小野塚 コロナに関係なく日本企業が抱える課題は変わらない。足元のことにとらわれすぎずに現状のビジネスに競争力があるか、イノベーション(技術革新)を生めるか、人材を確保できるかなどを企業のトップは考えるべきだ。競争力アップや生き残りのためにデジタルトランスフォーメーション(DX)にどう取り組むかという方向性も示してほしい。
 コロナ禍があった今年、統合報告書やアニュアルリポートが去年と同じでは意味がない。どこまで真摯に自分たちを見つめているかを測るものになる。

増えるリモート総会
「株主の民主化」進む

――議決権行使や結果の開示の動向と有効性は。

北川 議決権行使の方針や個々の議案に対する賛否の開示はここ2年ほどで非常に進んできた。
 緻密な行使基準に基づいた議決権行使は軌道に乗ってきた。むしろ重要なのは行使後だ。議決権は〇か×かの二者択一なので、「取締役選任に賛成したが100%納得しているわけではない」とか「この点は条件付きで賛成」といったグレーゾーンがある。そうした点については総会後に話し合いで補っていかなければならない。
 ただし話し合うには機関投資家もその企業のことをよく知っていなければならないし、説明を聞く能力も必要だ。企業と機関投資家が理解を深め、お互いに高め合っていくことが大切だ。議決権行使の開示だけではなく、その後の議論がスチュワードシップ報告書に織り込まれているかどうかで、機関投資家のクオリティーが判断できる。

小野塚 グループ内での利益相反を超えて職務を全うできているかを投資家が可視化するために、議決権行使の結果の開示は有効だ。
 今年はリモート開催の株主総会が増えた。双方向でないものが多いが、遠隔地にいる個人投資家も参加しやすくなった。株主提案が年々増え、総会が機関投資家だけではなく個人を含めた株主全体が意見を述べる場となっていることも含めて、今後、さらなる株主の民主化が期待される。
 背景には、企業の株主になることと株を短期的に売買することの違いが理解されてきたことがある。個人投資家もアセットオーナーであるという認識が深まるのは望ましいことだ。

企業と投資家の議論が重要
次元の高い対話を期待

北川 企業側が真剣に考えなければならない株主提案が増えており、それが企業にとって自分たちの行く末をしっかり考える契機となる。
 企業と投資家が、ビジネスの将来性やリターン向上、社会とのつながりなど、当たり前のことを正面切って議論することが重要で、機関投資家にはトップアナリスト並みの分析能力が要求される。企業側もそれに応えていくことで、次元の高い相互のエンゲージメントが起きることを期待したい。

小野塚 日本でスチュワードシップ・コードが策定されてから7年目に入る。スチュワードシップ活動は充実してきているが、それが企業のリターンやバリューにどうつながっているかわかりやすい形で世界に発信する必要がある。
 一方で、SDGsのゴールである2030年までの10年間に何をすべきかも今考えなければならない。スチュワードシップはそうした時間軸でとらえるべきものだ。

「責任ある機関投資家」の諸原則

≪日本版スチュワードシップ・コード≫
再改訂の主なポイント

原則1:

スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針の策定と公表

  • 運用戦略に応じたサステナビリティーを考慮すべき
  • サステナビリティーに関する課題をどのように考慮するかを示すべき
  • アセットオーナーは自らの規模や能力に応じ、運用機関のスチュワードシップ活動を促進、あるいは自ら投資先との対話に取り組むべき
原則4:

投資先企業との建設的な対話と、問題改善

  • 中長期的な企業価値向上や持続的成長に向けた対話を意識するべき
原則5:

議決権の行使と行使結果の公表

  • 投資先企業との建設的な対話に資する観点から重要な議案については、賛否を問わず、その理由を公表すべき
  • 議決権行使助言会社の助言策定プロセスを踏まえて利用し、その会社の名称やサービスの活用方法について公表すべき
原則7:

投資先企業との対話とスチュワードシップ活動

  • 運用戦略に応じたサステナビリティーを考慮した対話や判断のための実力が必要
  • コードの各原則を定期的に自己評価し、その結果を投資先企業との対話を含むスチュワードシップ活動の結果と合わせて公表すべき