提供:超スマート社会推進コンソーシアム/東京工業大学

東工大が主導するコンソーシアム
スマート社会実現
向けた共創

集合写真

国立大学法人 東京工業大学
超スマート社会推進コンソーシアム事務局
工学院 特任教授 博士(工学)

福田 英輔

楽天モバイル株式会社
品質保証プラットホーム本部
QA マルチアクセス部 部長

朽津 光広

楽天モバイル株式会社
5G本部
ビジネスソリューション企画部
グループコーディネーション課 課長

田中 由紀

国立大学法人 東京工業大学
超スマート社会卓越教育院 教育院長
超スマート社会推進コンソーシアム コーディネーター
工学院 電気電子系 教授
学術博士

阪口 啓

5Gなどの通信網によってあらゆるものがつながり、現実とデジタル空間が融合した「超スマート社会(Society 5.0)」。少子高齢化や地方創生、労働力不足など、日本社会が抱える様々な課題の解決策として期待されている。東京工業大学は、産官学が連携して未来を共創する「超スマート社会推進コンソーシアム」を設立し、「オープンイノベーション」による研究開発と、「オープンエデュケーション」によるリーダー育成を進めている。この取り組みの現状と可能性について、同大の超スマート社会推進コンソーシアム事務局、福田英輔特任教授が阪口啓教授、参加企業である楽天モバイルの朽津光広部長、田中由紀課長と話し合った。

広がるスマート社会の基盤

福田 東工大の「超スマート社会推進コンソーシアム」は、2018年の設立から5年が経とうとしています。

阪口 当初のコンソーシアムの参加機関は約20でしたが、23年春には60機関になる予定です。オープンイノベーションのプラットフォーム構築を進める中で設定した「教育研究フィールド」も当初は量子コンピューティングや量子センサー、スマートロボティクス、スマートモビリティーなど4分野だけだったのですが、今では9つのフィールドで、「超スマート社会」実現への取り組みを進めています。

福田 阪口教授は、超スマート社会を実現するために重要な5G(第5世代移動通信システム)の研究をされています。改めて、5Gではどんなことができるのでしょうか。

阪口 20年に商用ネットワークの運用が始まった5Gは、超高速大容量・高信頼・低遅延の通信で、一斉にたくさんの機器類を接続できる特徴を持っています。例えば社会の中の様々なセンサーが周囲の状況のデータを収集し、ネットワークでつながったAI(人工知能)がそのデータを元に状況を分析、ドローンやロボットなどを自動的に動かすことが可能になります。

福田 5Gを活用した研究開発や実証実験はさらに活発になっていますが、通信の研究はある領域以上になると、個人レベルでは進めにくくなります。そこで、楽天モバイルと連携し、学内を5Gの実験場にして、実際に技術を社会の生かす仕組みを整えていますが、コンソーシアムとして研究するメリットは何ですか。

楽天モバイル 朽津  5Gのネットワークそのものも進化しています。携帯電話システムの基地局というと中身がブラックボックスのハードウェアで構成されているイメージが強いかと思いますが、楽天モバイルはソフトウェアで色々なことに対応できるオープンな5Gシステムの構築を進めてきました。コンソーシアムでは、技術検証用の基地局環境を共有して使うことができるので、我が社としては参加メンバーと密接に共同研究・開発できることを期待しています。

福田 まだ世の中にないサービス開発が期待できますね。

楽天モバイル 田中 この5G以降のネットワークインフラを使ってどんなサービスが実現できるのか、阪口先生や東工大の様々な専門分野の先生方、コンソーシアムのメンバーと一緒に実証実験を進めていく予定です。

阪口 例えばスマートタウンの実証実験は、その一つです。東工大のキャンパスがある大岡山のように成熟した街は、スマート化することがすごく難しいのですが、地域の自治体や企業とも連携し、どうすればこの街をスマート化できるかを考えているところです。AR(拡張現実)の技術を活用して、街の印象を変えたり巨大広告を見せたりして、街全体の活性化に繋げるアイデアもあります。まずはこの地域をモデルケースにして、他地域にも広げていきたいですね。

写真:福田氏

国立大学法人 東京工業大学
超スマート社会推進コンソーシアム事務局
工学院 特任教授 博士(工学)

福田 英輔

写真:阪口氏

国立大学法人 東京工業大学
超スマート社会卓越教育院 教育院長
超スマート社会推進コンソーシアム コーディネーター
工学院 電気電子系 教授
学術博士

阪口 啓

イメージ

研究も教育もオープンに、学生も社会人も最先端を学ぶ

福田 コンソーシアムでは未来の担い手である学生も様々なプログラムに参加しています。学生と直接関われるメリットはありますか。

田中 コンソーシアムに参加して、楽天モバイルとしても初めてインターンを受け入れました。社内では英語の公用語化が進んでおり、研究開発のメンバーも様々な国から来ていますが、インターンの学生の方の中にも留学生が何名かいたので、ダイバーシティーあふれるコミュニケーションが取れました。

年に2回開催される「マッチングワークショップ」では、企業側がこれまで取り組んできた実証実験を紹介し、学生の方は自身の研究を発表するセッションがそれぞれあり、両方に参加しました。私たちの取り組みに対してアカデミックな観点から学生の方々の非常に新鮮なフィードバックをいただきました。5Gを活かした新サービスの開発では、様々な分野の方々との連携が重要で、若い学生の方々の面白いアイデアも今後のコラボレーションにつながるのではないかと期待しています。

福田 コンソーシアムでは異分野融合を重視しているので、交流が増えているのはいいですね。

楽天モバイル 朽津 5Gのネットワークインフラを使ったサービスを開発する側からするとインフラがまだ十分に整備されていないという意見が出て、通信会社がサービスまで手掛けようとするとどうしても限定されたものになってしまう、そんな状況もあるかと思います。実用化する価値があるものを追求していくためには、異分野の人と密接に話し合いができることがとても重要で、今後、コンソーシアムの交流の場がさらに有意義になると思います。

阪口 コンソーシアムでは年に4回、情報共有や全体の方向性を確認する委員会を開催しています。他にもテーマ別の集まり、例えばスマート農業やスマートオーシャンのフィールドでは分科会を開催して、同業種の企業でも競争の前段階として社会課題について一緒に議論できるエコシステムも構築しています。もっとインフォーマルな場、例えばキャンパスのすぐ近くにある喫茶店に、色々な人がフラっと行って自由に話せるような空間も自然発生的にできています。大学の周りに人が集まってくる場が増えていくといいですね。

福田 コンソーシアムには同業種の企業も参加できるのですね。

阪口 新技術の研究開発では「競争」と「共創」の2つの軸があると考えています。同業種の企業でもどんどんコンソーシアムに参加していただきたいですね。実はこのコンソーシアムは東工大が所有しているわけではないので、他の大学も参加できます。すでに数校に参加を検討してもらっています。

楽天モバイル 朽津 新分野で通信の活用方法が出てくれば、我々がサービスを展開するチャンスも増えます。そんなチャンスがあるコンソーシアムに先んじて参加することは、メリットがあると思っています。

福田 新しい技術の開発が進み、社会実装するためには、実装の担い手も学び続ける必要がありますね。

阪口 コンソーシアムでは「オープンエデュケーション」を掲げています。例えば量子コンピューティングやスマート農業について学び直しやリスキリングができる「ワン・デイ・スクール」も、コンソーシアムでは参加メンバー向けに開催しています。MBA(経営学修士)のように社会人が理論や考え方を学べる場はありますが、最先端の技術に触れることができる場はあまりないのではないでしょうか。

楽天モバイル 田中 私もワン・デイ・スクールに参加してAIについて学びました。他にも自動運転を学んだ社員もいました。自分で調べたり取引先と議論したりということはできても、改めて体系的に学ぶことは難しいので、非常に良い機会になっています。

写真:朽津氏

楽天モバイル株式会社
品質保証プラットホーム本部
QA マルチアクセス部 部長

朽津 光広

写真:田中氏

楽天モバイル株式会社
5G本部
ビジネスソリューション企画部
グループコーディネーション課 課長

田中 由紀

山も海もスマート化、5Gで広がる可能性

阪口 オープンイノベーションとオープンエデュケーションを両輪に、コンソーシアムでは参加機関が連携して様々な研究開発を進めていきます。その一つが一次産業のスマート化です。例えば農業のスマート化では、キャンパス内の小さな農地で作物を育てて、デジタルの手法で水や光、肥料をどう与えれば作物がうまく育つかをシミュレートし、その結果を踏まえて水やりを行う完全遠隔農業が実現できる段階です。同様に巨大養殖場を作って自動給餌するスマートオーシャンのプロジェクトも始まっています。各分野の様々な課題を、コンソーシアムが推進するオープンイノベーションを通して解決していけるという手応えを強く感じています。

オープンイノベーションの必要性が指摘され久しいが、軌道に乗ったケースはまだ少ないとも感じる。東工大の超スマート社会推進コンソーシアムは、研究開発に加えて、開かれた学びの場でも新しい発想を生み出そうというユニークな枠組みだ。明日の日本のため、関係者らの積極的な参加が期待される。

集合写真

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