大阪会場では、投資を題材にした小説『Phantom(ファントム)』の作者である小説家の羽田圭介氏をスペシャルゲストに迎え、ファイナンシャルプランナーの鈴木さや子氏がコーディネーター役を務め、投資の専門家たちが羽田氏や来場者の質問に回答する形でパネルディスカッションが進められた。
冒頭で羽田氏は「10年ほど前、書店の純文学の棚が減っていくのを見て、これでは新しい読者が増えないのでは、と不安に感じました。そこで確定拠出年金や小規模企業共済を始めました。株や為替は変動が大きく難しいですね。もうけたいというよりも、傷を負わない方法を教えてもらいたいという感じです」と語った。
鈴木氏の「最初の一歩として何から始めたらいいのでしょうか」という問いに対して、投資信託などの商品企画に携わってきた三井住友銀行の丹治雄一氏が勧めたのは、まず投資を体験すること。「金融機関に口座を開設し、少額でもいいので一歩を踏み出すことです。今はネットでも口座が開設できますし、やりやすいところで開設しましょう」と語った。
少額から始められる投資信託は最初の一歩として最適な投資と言えるだろう。羽田氏も「株価指数等に連動するインデックスファンドから始めて、一般的な投資信託、株式と同じように売買できる上場投資信託(ETF)、そして自分の好きな株を買う株式投資へと広げてきました」と自身の経験を語った。
投資信託を企画して運用する野村アセットマネジメントの川嶋昭臣氏は「投資信託はファンドマネジャーというプロが運用するという点も魅力の一つです。商品としても株式市場の指数に連動するインデックスファンドと、より大きなリターンを目指すアクティブファンドがあり、それを混ぜたバランス型のファンドもあります」と語る。
「不動産投資信託(REIT)のメリット、デメリットはどんなところにあるのでしょうか」という鈴木氏の問いに対して、日本版REITであるJリートを扱う阪急阪神リート投信の板倉弘志氏は「Jリートとは投資家の資金を不動産に運用して利益を分配金として還元する投資信託です。少額で不動産に投資できて、不動産売買のノウハウがなくても売り買いできるのが魅力です」と語る。
Jリートは利益のほとんどが運用に回され、税務上のメリットもある一方で、不動産市場のリスクや金利変動リスク、自然災害リスクなどもある。板倉氏は「REITやその運用会社のWebサイトや報告書で情報をしっかり確認して、リスクを十分に把握したうえで投資することが重要なポイントです」と指摘した。
鈴木氏は「ここからは新NISAの活用法を考えていきましょう。新NISAには成長投資枠とつみたて投資枠がありますが、どう使い分けをしていけばいいのでしょうか」と新たなテーマを提示した。新NISAではそれぞれ年間240万円と年間120万円の非課税上限金額が設けられていて併用することができる。2つの枠を合わせて生涯投資枠は1800万円まである。
川嶋氏は「重要なのはタイミングの分散です。NISAは長期投資が前提です。日経平均は2009年3月10日には7054円 でしたが、今はその5倍にもなっています。ただ、2009年のタイミングで買って今も持っている人はほとんどいないでしょう。長期投資はそのまま放って置くことが重要です」と話す。
「世代別には新NISAをどう活用していくべきなのでしょうか」と鈴木氏は世代という切り口からの活用方法を次のテーマとして提示した。丹治氏は「より長期間メリットを受けることができる若い人は、つみたて枠を使って無理しない範囲で堅実に増やしていくのがよいでしょう。積立額は途中から引き上げることができます」と語る。
30代後半の羽田氏は「全世界株式のインデックスファンドとかなら放っておけますね。そして買う時間を分散させるという考えに関しては、なるべく早めの期間内に分散させるのがいいのではないかと思っています。というのも、保有株の成長というロマンにかけて、投資を行うわけですから。大局的に見た場合に右肩上がりが前提なら、どちらかというと早く買わないと、行動として矛盾している気がします」と自身の考えを披露した。
働き盛りの40代、50代について川嶋氏は「人それぞれの働き方によって違いがあります。70歳まで元気に働く人だとすれば、十分に時間を武器にできます。自分だけでなくお金にも働いてもらうことができます」と語る。
一方、リタイア後の人について板倉氏は「REITを持つことはリスクを分散しながら不動産のオーナーになることです。実際に不動産に足を運んで見聞を広めるという観点から投資を考えて見てはどうでしょうか」と提案し、羽田氏は「退職金を特定の不動産一軒なんかにつぎ込むのは危なくてしかたないですよね」と語った。
最後に羽田氏は「3年くらい前までの一時期、投資にハマっていたのですが、株価を気にする時間は無駄であり本業や人生の妨げになると実感し、むしろ意識的に情報を遮断してきました。ただ今日お話を聞いて、REITのために物件を見ることで視野が広がったりと、投資行動といえども実人生に彩を与える側面もあるのだろうなと感じました」と感想を述べた。
東京会場のパネルディスカッションでは、スペシャルゲストに元ラグビー日本代表のキャプテンを務めた廣瀬俊朗氏を迎えて行われた。現役引退後は経営学修士(MBA)を取得し、HiRAKUの代表取締役としてテレビ出演や企業・団体との協業、社会課題解決プラットフォームの構築、運営などに取り組み、様々な投資活動も行っている。
冒頭、コーディネーター役を務めたファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢氏から「投資をラグビーにたとえるとどんなイメージでしょうか」と聞かれた廣瀬氏は「パスです。前に放ることはできませんし、失敗のリスクもあります。しかし、通ればゲインできますし、トライにつながることもあります」と答えた。
パスは確かに失敗するリスクがある。それを防ぐために選手にはどこに誰がいるのか、どういう能力を持っているのかなど、情報を収集して分析する能力と日々の練習が求められる。投資を実践して経験を積み重ねることは練習を繰り返すことも同じだ。また、運用をプロに任せる投資信託でも、しっかり調べてどこに投資するかを見極めることが大事だ。
それでは初心者はどこから始めればいいのか。投資信託のプロモーション企画などを担当する大和アセットマネジメントの福﨑希氏は「問い合わせしやすいところかどうかを重視してはどうでしょう。いつも利用している金融機関でもいいですし、ホームページなどの解説を見て自分が理解しやすいかどうかという観点から相性のよいところを選んでもいいのでは」と語る。
廣瀬氏が「店舗に入ったら断れないということはないでしょうか」と尋ねたところ、パネリスト全員から「まったくありません」という声が上がった。みずほ銀行で投資運用商品の企画・推進を担当する鈴木陽子氏は「まったくそういうことはないので、気軽に相談に来てほしい」と話す。セカンドオピニオンを求める人もいるという。
銀行であっても証券会社であっても新NISAの制度が利用できる投資信託に投資することはできる。株式投資は証券会社で行うが、投資信託は銀行でも扱っている。「ただし、金融商品の中身には大きな違いがあるので注意が必要です」と福﨑氏は指摘し、風呂内氏は「買いたいジャンルの商品が選べることが大事ですね」と話した。
長期保有に向く商品としては投資信託以外にも不動産に投資して分配金を得るREITがある。ジャパンリアルエステイトアセットマネジメントの元岡將氏は「リスクで見ると株と債券の中間にあるのがREIT。REITは法人税の支払いがほぼない上、収益のほとんどを分配するので配当利回りが安定的に高いのが特徴です」と話す。
それではどう新NISAを活用していけばいいのか。廣瀬氏は「もともと自社株から投資を始めて、スポーツ関連など応援したい企業に投資するようになり、同じ気持ちで投資信託もやってきました。投資信託でもうけたいという気持ちはあまりありません。チェックのし過ぎで一喜一憂することのないような距離感を大事にしています」と廣瀬氏は自らの戦略を語った。
「インデックスファンドとアクティブファンドをどう選べばいいのでしょうか」という風呂内氏の問いかけに対して鈴木氏は「投資目的や資金特性から選ぶことになりますが、初心者であればインデックスファンドに投資し、投資がわかってきた時点で、ある程度リターンも狙ってアクティブファンドに投資してみることをお勧めします」と話す。
アクティブファンドの選び方としては、そのファンドが長期にわたって市場平均以上のリターンを取れているのかが鍵となる。「運用会社のホームページの月次報告書などをチェックして、信頼に足るファンドかどうか、リスクがどの程度あるのかなど、しっかり調べた上で判断してください」(鈴木氏)。
またREITの選び方について元岡氏は「基本は株式と同じ考え方です。現在約60銘柄がありますが、保有する不動産の物件数や物件のタイプなどのポートフォリオ、財務状況や分配金の状況など投資法人としての安定性、収益性などをチェックしてください。例えばオフィスビルとホテルでは、テーマや見るべきポイントが違ってきます」と指摘する。
投資初心者としてはどんなところを注意すべきなのだろうか。風呂内氏は廣瀬氏に「マイルールはありますか」と聞き、廣瀬氏は「一つは学び。知ることが大事だと考えています。もう一つはベストではなくベターでいくこと。ブレーキをどこで踏むのかあらかじめ設定しておくことも重要です」と答えた。
ディスカッションでは投資の構成割合を調整するリバランスについても話題になった。「当初割合を決めていても、相場が変動して実質的な割合が変わってしまうことがあります。それを元のポートフォリオに戻してリスクを一定にするのがリバランスです。相場が大きく動いた時とか時期を決めて定期的に見直すと良いでしょう」と鈴木氏は語る。
最後に廣瀬氏は「新興国ではスラム街に住んでいる人もいます。自分のお金をそこの助けにつながるようにしたい。運用して次の世代へとつなげていくことが大事だと思います。応援することがリターンとして返ってくることもあります」とスタンスを語った。投資信託であれば、そういう視点からアクティブファンドを選ぶこともできるだろう。