Exploring the future 東洋大学

先端的・独創的な研究活動を支援する東洋大学の重点研究推進プログラム

バイオミメティクス」活用による
“持続可能な社会創出”を目指す研究プロジェクトが始動

提供:東洋大学

東洋大学
理工学部生体医工学科 教授
合田 達郎

ニュースキャスター
瀧口 友里奈

世界が抱える社会問題に大学はどう向き合うべきか――この課題に正面から向き合い、未来に対して学術的な見地から貢献を目指す大学は多い。国連が推進する「持続可能な開発目標(SDGs)」をもとに、大学の社会貢献度を評価する「THE大学インパクトランキング2021」で国内私立大学4位タイに位置する、東洋大学もその1つだ。同大学は“知の拠点”としてSDGsに積極的に取り組み、地球の未来に貢献する大学の実現を目指している。今回は、生物のもつ構造・機能・システムを解明して新たな技術を生み出す「バイオミメティクス(生物模倣)」を活用した、高機能かつ持続可能なものづくりの研究を進める東洋大学理工学部生体医工学科の合田達郎教授に、研究プロジェクトの目的や成果、さらに地球環境や社会にもたらす価値について聞いた。
(聞き手:ニュースキャスター 瀧口友里奈氏)

合田教授が研究する「バイオミメティクス」とは?

写真:瀧口 友里奈氏

ニュースキャスター
瀧口 友里奈

瀧口 東洋大学は2018年に学内公募型研究助成制度「重点研究推進プログラム」を創設し、医療・健康福祉分野で先進国をリードする研究、あるいはSDGsの達成に貢献する研究など、さまざまな領域の研究に取り組んでいます。そんな重点研究推進プログラムの1つとして、21年度に合田先生が研究代表者を務める「バイオミメティクス活用による高機能かつ持続可能なものづくり」が採択されました。研究プロジェクトの内容をうかがう前に、まずは合田先生の専門分野からお聞かせください。

合田 私は京都大学で物理工学を学び、東京大学大学院工学系研究科の修士・博士課程でマテリアル工学を専攻しました。その研究室では、ヒトの生体に接触させて使用する「生体材料」、例えばコンタクトレンズやカテーテル、人工血管、人工関節、人工心臓などに使われる材料の研究に取り組み、学位取得後は物質・材料研究機構、および東京医科歯科大学において、生体と人工物が接するバイオ界面やバイオセンシングを専門として研究に従事してきました。20年4月に東洋大学に移ってからも、生体と人工物との界面制御に関する研究に取り組んでいます。

瀧口 東洋大学で研究に取り組むなかで、今回の重点研究推進プログラムに採択された研究プロジェクトがスタートしました。その研究テーマにある「バイオミメティクス」とは、どのようなものなのでしょうか。

合田 実は、生体になじむ人工材料というのはなかなかありません。生体は非常に精密につくられており、タンパク質などの生体分子から細胞、組織、臓器、個体までがシームレスに階層化され、それらがシステムとして連動しながら機能しています。ところが、そうした生体に人工物を入れると、分子レベルから組織レベルまでの生体反応が起こり、異物を排除しようとします。例えば血液は体内で異物と接触した場合に固まってしまいます。そうした異物として認識される材料を人工血管に使ったりすると、血栓ができて血管を塞ぐといった問題が発生します。

 そこで異物反応を起こさない人工物をつくるために役立つのが、生物を模倣した構造・機能を生み出すバイオミメティクスという概念です。例えば血管内部表面と同じような化学構造をもつ人工物を医用材料の開発に役立てることができます。

高機能なものづくりに加えSDGsへの貢献も目指す

写真:合田 達郎氏

東洋大学
理工学部生体医工学科 教授
合田 達郎

東洋大学理工学部生体医工学科・大学院理工学研究科生体医工学専攻教授。東洋大学生体医工学研究センター・工業技術研究所所属。京都大学卒業。東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻修士課程、博士課程修了。博士(工学)。東京医科歯科大学生体材料工学研究所特任助教、同助教、カロリンスカ研究所客員研究員などを経て、2020年から東洋大学理工学部准教授に就任。21年から現職。専門はバイオセンシング、バイオエレクトロニクス、バイオマテリアル。

瀧口 そうしたバイオミメティクスを活用して、高機能かつ持続可能なものづくりに取り組んでいるのが、まさに今回の研究プロジェクトというわけですね。プロジェクトでは具体的に、どのような研究に取り組んでいるのでしょうか。

合田 本プロジェクトはバイオミメティクスをテーマとして、生体医工学を専門とする私のほか、機械工学、建築学、食環境科学、国際学、経営学、教育学の多分野で構成される7人でチームを組んで研究を進めています。

 バイオミメティクスとひと口に言っても、肉眼で見えない分子構造をまねるボトムアップと、肉眼でも見える生物の形状をまねるトップダウンという2つのアプローチがあります。ボトムアップでは1935年に米国デュポン社がカイコの出す絹糸(シルク)をまねて開発した合成繊維「ナイロン」から始まり、時代を経るにつれて人工酵素や人工生体膜といった材料が次々に開発されました。トップダウンでは40年代に衣服や動物の体に付着する植物(オナモミ)の種子から着想を得て開発された「面状ファスナー(マジックテープ)」から始まり、さまざまな技術が機械系技術とともに発展してきました。そしてボトムアップとトップダウンが融合し始めたのが2000年頃からです。例えば雨傘に使われる撥水技術は、水を弾くハスの葉の表面形状を電子顕微鏡で見て細かい凹凸を発見し、それを真似たことで実現されました。また、水泳競技で話題となった水の抵抗が少ない「サメ肌スーツ」も同様です。これらは分子やミクロな構造をまねるボトムアップの技術と、形状をまねるというトップダウンの手法が融合したバイオミメティクスから生まれたものです。

 このような生物の持つ構造や形状は進化の過程で獲得・最適化してきたものであり、そこに着想することで可能となる高機能なものづくりが、本プロジェクトにおける研究テーマの1つとなっています。プロジェクトではバイオミメティクスを活用した「スポーツギアの開発・事業化」「木造建築の耐震化」を進めています。科学技術の向上により、ようやく自然の素晴らしい仕組みや構造がわかるようになってきたのです。まさに自然は大いなる先生ですね。

瀧口 バイオミメティクスの活用による高機能なものづくりというテーマに対する取り組みをご紹介いただきましたが、テーマに掲げるもう1つの“持続可能”という点についてはいかがでしょうか。

合田 生物がもつ持続可能性に倣ったものづくりという研究テーマも進めています。これは、希少元素を用いない汎用元素のみを利用した機能性有機材料の開発や、動物や植物が進化の過程で獲得した「糖鎖」(細胞間コミュニケーションや識別など生命現象プロセスで重要な役割を果たす多種多様な糖の構造)を活用する研究です。例えばインフルエンザウイルスに対する受容体である細胞膜糖鎖を模倣して、ウイルスを効率良く検出する導電性インクを開発し、それをマスクに印刷してその場で検出する研究を進めています。また、植物や微生物の糖鎖を介した共生活動を人へ応用する研究や、ヒトが飲用しているミルクオリゴ糖による免疫増強効果の解明を目指す研究にも取り組んでいます。

 さらに、バイオミメティクスの活用からイノベーションを引き起こすには、企業や産業分野とも協力しながら、持続可能なものづくりの実現性を探る必要があります。そして社会・経済におけるバイオミメティクスの技術適用の可能性について、文理融合で研究していくことも重要です。そこで本プロジェクトには、国際地域学、経営学、教育学を専門とする教授陣も研究メンバーとして参加し、国際援助におけるバイオミメティクス技術の適応、都内中小企業との産学連携、小学生向けのバイオミメティクス教材の開発にも取り組んでいます。

 高機能なものづくりだけでなく、こうした持続可能な仕組みや枠組みづくりにも取り組むことで、本プロジェクトは国連が策定した「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち「③すべての人に健康と福祉を」「⑧働きがいも経済成長も」「⑨産業と技術革新の基盤をつくろう」「⑪住み続けられるまちづくりを」「⑫つくる責任つかう責任」という5つの目標達成に貢献することができると考えています。

 人間は金属、セラミックス、有機物などの多様な物質を用い、化石燃料などを大量に消費して中央集権的に生産しています。一方、自然界では地表に降り注ぐ太陽光エネルギーによって植物が光合成を行い、動物が食物連鎖によってエネルギーと物質を循環させます。このように、生物は分散型かつ循環型のものづくりによって地球上で人間よりも長く存続しており、その生体系システムは持続可能性を持っていると言えます。

“研究の場”にふさわしい環境が整備された東洋大学

瀧口 今回の研究プロジェクトあるいは研究テーマに懸命に取り組む合田先生のモチベーションはどこにあるのでしょうか。

合田 人間本来の喜びの一つに、新しい知識を得ることがあると私は思います。研究を続けていくと、教科書には載っていない、自分しか知らない発見に出合うことがあります。何度も試行錯誤を重ねた後に、新たな発見を見いだした時の喜びは筆舌に尽くしがたいものがあります。もちろん、誰も答えを知らないわけですから、研究には慎重さと客観的視点が求められるのは言うまでもありません。こうして得られた発見がやがて人々の幸福につながるのであれば喜びはひとしおです。

 とはいえ、研究を自分一人で進めることは難しいので、多くの仲間をつくり、それぞれの専門分野を横断的に研究することが大切です。そういう意味でも、本プロジェクトの枠組みはとても貴重であり、そこに参加していることが大きなモチベーションとなっています。

瀧口 合田先生の“研究の場”として、東洋大学はどのような環境にありますか。

合田 私自身は20年度に東洋大学へ着任したのですが、当初の予想を上回る研究設備や環境に驚かされました。哲学者の井上円了を創立者とする東洋大学は、「諸学の基礎は哲学にあり」「独立自活」「知徳兼全」を建学の精神として掲げ、文系・理系合わせて13学部・15研究科を擁する大規模な総合大学であり、非常に大きなポテンシャルを秘めています。本プロジェクトを支援する重点研究推進プログラムのように、専門領域が異なる研究者がチームとして分野横断で社会課題に挑めるところも、優れたところだと自負しています。近年はさらなる教育研究の高度化を目指し、教職員が一丸となっており、研究の面でもますます活躍できるようになると考えています。

瀧口 最後に、東洋大学との産学連携に興味がある企業経営者の皆さんへメッセージをお願いします。

合田 東洋大学には、大学と企業が連携して研究を行う「産官学連携推進センター」があります。ここでは企業からの技術開発相談も受け付けており、私自身も対応に当たったことがあります。東洋大学は地域にも広く開かれた大学であり、産学連携が進むことにより、研究成果が社会の発展に貢献していくことは間違いありません。それを実現していくためにも、東洋大学のリソースをぜひ活用してください。

瀧口 本日は貴重なお話をありがとうございました。

写真:対談風景

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