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”はたらく”に歓びを

デジタルサービス磨くリコーが
Amazonビジネスで進めた
購買改革

組織が動くとき、仕組みも変わる。リコーは21年4月、カンパニー制を導入した。同社はA3レーザー複写機・複合機で世界シェアトップ。それだけの強みを持つ事務機を基盤に同社はいま、デジタルサービス会社へと業態の変革を進めている。カンパニー制で事業のスピード感を高め、顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援していこうと自社内もDXを急ぐ。その一環で、21年9月にアマゾンジャパン(東京・目黒)の事業者向け電子商取引(EC)サービス「Amazonビジネス」を導入。社員による立て替え払いも生じがちだった「間接材」の購買を効率化した。リコーはなぜ、Amazonビジネスを選んだのか。導入の成果は。「指揮官」となったある管理職を追った(以下、敬称略)。

「5社中3社が
Amazonビジネス!?」
イベント参加で驚く

「間接材の購買システムというと、他社さんはどんなところを使っているのだろうか」。リコーのプロフェッショナルサービス部で間接材購買センター所長を務める辻高史はかねがね、そんな関心を持っていた。

「間接材」とは、自社製品の製造で使う部品や材料といった「直接材」以外のもの。リコーでは「設備」「物品」「建築工事」「物流」「IT(情報技術)」「役務」の6分野と定義している。広い範囲に渡るが、辻は特に「物品」の調達について、プロセスDXで一段と改善を図っていきたいと考えていた。立替経費の精算などが生じると社員全体の生産性向上にかかわるからだ。

所属するプロフェッショナルサービス部は、21年4月のカンパニー制導入で新設された。「我々は本社機能を担う部署。ビジネスユニット(事業部門)に役立つように、自分たちのレベルを上げてプロセスDXをどんどん進めていかなければ」。辻はそう考えていた。

「ものづくり」で強みを発揮してきた日本企業。当然ながら、リコーでも直接材購買の費用削減や効率化には熱心に取り組んできた。だが、企業各社にとって間接材購買はこまごました消耗品も含むとあって、どこでどう発生するかも管理がしづらく直接材と比べると効率的な調達を進めにくかった。課題を感じながらも、プロセスDXによる効率化にこれから挑もうという企業が多いのも確かだ。

リコーの場合、会社はデジタルサービス会社への変革の真っ最中。「社内で『お役立ち』ができたなら、それは必ずお客様へのお役立ちにつながっていくはずだ」

辻 高史氏1 辻 高史氏1 リコー プロフェッショナルサービス部
間接材購買センター所長
兼 購買統括室室長
辻 高史氏

そんな思いを胸に、辻は間接材購買のDXにかかわる社外イベントがあれば、積極的に足を運び情報収集に努めていた。カンパニー制導入から2カ月目となる21年6月のこと。この日もあるフォーラムに参加した。

ディスカッションの時間に他社の参加者と交流した辻は驚いた。「うち、Amazonビジネスとつなげていますよ」。同じテーブルを囲んでいた5社中3社がAPI連携(データ連携)の仕組みの一つ、自社システムと外部の通販サイトを連携させる「パンチアウト連携」でAmazonビジネスを利用していると知ったからだ。

すかさず辻は、尋ねた。どの企業でも間接材の購入では、申請から納品物の検収や支払いに至るまでの一連のプロセスがあるはずだ。自社の仕組みと齟齬(そご)を来さずに運用するため、課題をどう乗り越えたか。そう投げかけてみたのだ。だが、場が場とあって、その場では「まあ、できますよ」といった程度の答えしか得られなかった。

「アマゾンなら買えるのに」
社員たちから
上がっていた声

リコーではカンパニー制導入の数年前から、間接材購買におけるプロセスDXの動きが進んでいた。一言でいえば、間接材の購入で全社共通となるプラットフォームを構築したのだ。

それまでは、何かを買ったり契約したりする際は申請、承認プロセス、発注、納品や検収、支払いといった一連の手続きを各部門が自分たちのやり方でこなしていた。このため、実際は異なる部門同士が同じモノを買っていても、社としてそれらの購買データを一元的に管理し、スケールメリットで調達コストを下げるといった効率化は難しかった。

プラットフォームを構築したことで、全社的な間接購買の動向を一元的に管理することが可能になった。このため、調達コストだけでなく、案件によっては下請法対応などのガバナンス強化にも従来以上につなげられる。

辻 高史氏2

それでも課題は残っていた。いや、新たに浮上した、といえるかもしれない。「これはアマゾンでもっと安く買えます。コスト削減になるので、アマゾンを使えないでしょうか」。「アマゾンならば、一番望ましいこちらの商品を購入できます」……。

プラットフォームを通じて、要望や改善希望などを受け付ける仕組みができたことで、辻ら間接材購買センターの面々に社員たちからのそんな声が届くようになっていたからだ。仮に、1件や2件なら、辻は動かなかったかもしれない。だが、「アマゾンを使いたい」という希望がいくつも集まり、ニーズとして顕在化していた。

会社のビジョンは
「"はたらく"に歓びを」
現場の声に応えたい

USBメモリーやケーブルなどのパソコン周辺機器、デスク用の鍵……。社員らは、一般消費者向けのアマゾンで検索し「使いたい」と声を上げていたようだ。ただ、個人向けのアマゾンで購入OKとしたならば、その後に立て替え経費精算が生じてしまい、結果的に社員の業務負荷は改善されない。DXによる生産性向上というミッションは果たせなくなる。

一方、Amazonビジネスを自社のプラットフォームから使えるようになれば、品ぞろえは数億種類にのぼり、安価な法人価格で提供している対象商品だけでも3000万種以上に及ぶ。利点はコスト削減だけではない。モノを購入する社員側はプライベートでアマゾンのサイトを使うのと同じ感覚で業務に使う必要なモノを購入できる。だから、新しい仕組みの導入に伴う研修も不要だ。システム投資も生じない。極論すれば、問題があれば契約解消で済む訳だ。

実は過去に1度、Amazonビジネスと自社プラットフォームの連携を検討したことがある。その時点では自社の調達プロセスと合致させるうえで、いくつか課題が見受けられた。Amazonビジネスが国内でサービスを開始したのは17年のこと。参考になる他社事例が当時は少なかったこともあり、そのときは状況を見守ろうと導入を見送った。

だが先述の通り、21年6月にあるフォーラムに参加したことで辻の認識は変わった。同じテーブルを囲む5社中3社がAmazonビジネスとつないでいるとその耳で聞いたからだ。

Amazonビジネス

「アマゾンを使いたい」。日々、入ってくる現場からの要望。リコーでは17年に就任した山下良則社長の下、働き方改革の取り組みが進み、「“はたらく”に歓びを」とのビジョンも掲げられている。ただでさえ、職場改革が進んでいる折、辻は「こまごましたモノの購入で社員を煩わせたくない。現場の声に応えたい」とAmazonビジネスへの関心を深めていった。

スピーディーだった
アマゾンの対応
2カ月で導入へ

自社の調達プロセスと果たして整合性を取れるのか。辻が抱いていた疑問を解消する機会はほどなく訪れた。21年7月、辻はアマゾンジャパンが開催したカンファレンス「Amazon Business Exchange」に参加。その場で配られた参加者向けのアンケートに、自社プラットフォームと連携させるうえでの疑問点を書いて提出し、帰途についた。

辻がクリアにしたかったのは、こうした内容だ。たとえば、サイト上の商品価格の変動について。社員が購入を申請した時点と、上長の承認時点とで価格が異なるのは好ましくない。支払いの起点とする時期についても確認したかった。自社の仕組みでは、現物が届いて検収を終えたところが起点となる。一方、Amazonビジネスではアマゾンの出荷時が起点のようだが、そこは動かせないのか。支払いサイトは自社ルールに合わせられないか……。

ほどなく、辻のもとにメールが届いた。差出人はAmazonビジネス営業担当、福本大河。辻の疑問に応えるべく、打ち合わせを提案する内容だった。

思いのほかスピーディーな対応があっただけでなく、細かな疑問点にも親身に対応し他社事例なども紹介してくれる福本の人柄に辻は好感を抱いた。「この人となら、課題をクリアしていける」。こうして21年9月、リコーのプラットフォームからAmazonビジネスが使えるようになった。辻と福本との出会いからたった2カ月というスピード導入だった。

社員調査で満足度上がる
「もっと
早くすれば良かった」

リコーでAmazonビジネスが利用された件数は約半年で5000件を突破した。辻の部下で、間接材購買統括室設備・物品購買グループの安藤秀樹は、「社内の満足度調査で『Amazonビジネスとつながって利便性が上がった』とか『欲しいものが買えるようになった』といった声が寄せられました」と手応えを感じている。

辻 高史氏3 辻 高史氏3

前述の通り、リコーの間接材には「設備」や「役務」も含まれる。工場建設や設備の購入といった、専門知識が必要となる間接材の調達には、それなりの工数がかかっても致し方ない。だが、「こまごまとした備品を買うときは、やはり買いたい社員が買いたいものをすぐに買えて、しかも簡単に手続きができるようにしたい。当たり前ですよね」。辻はそう語り、「もっと早く導入すれば良かったです」と苦笑する。

間接材調達では長年、商社から買うという日本企業ならではのルートも重宝されてきた。ただし、VUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)とも称される変化の激しい時代。Amazonビジネスのように、かつて存在しなかった、プロセスDXにマッチするサプライヤーが登場しているのも確かだ。コスト削減という観点からも、より効率的な間接材購買のあり方が検討されていいだろう。

「自社では現在、年100件の機能改善を図るくらいの意気込みで細かな点も含めたアップデートを重ねています」。福本からリコー担当を引き継いだAmazonビジネス営業担当の佐野良はこう語る。そのうえで、「アマゾンといえば個人向けサービスの印象が強いでしょう。けれど、個々の企業様のニーズへの対応力を一段と高めていくことで、『ビジネス利用でもアマゾン』と想起いただけるように努めて参ります」と決意を述べた。さらなる良きビジネスパートナーへ、きょうもサービス向上に向けたAmazonビジネスの取り組みが続いている。

辻 高史氏4 辻 高史氏4

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