持続可能性を重視しながら稼ぐ力も高めるサステナビリティートランスフォーメーション(SX)を、経営の重要テーマとして打ち出した日立ソリューションズ。その主役として期待するのが社会問題や環境問題に敏感な若者たちです。若手社員の力を引き出そうと「挑戦」を後押しする制度を相次ぎ導入しているほか、組織や上下の枠を取り払い、社内のコミュニケーションを促すことにも力を入れています。山本二雄社長との座談会で、若い世代から挑戦に向けた熱き思いがあふれ出しました。
山本 2021年度からSXを意識した活動に取り組んでおり、ワークショップを開くなどして、まずは社員がSXをきちんと理解し、何を意識すればいいかを考えるようにしています。22年度からはSXの活動を事業分野にも広げています。私たちが社会に存在するパーパス(存在意義)の再定義や誰でも自由に参加できるアイデアソンなど、お客様の課題を本当に解決できることって何だろうというプロジェクトを多角的に進めています。
乾 お客様のSXへの意識がより高まっていると感じます。決済代行会社の決済システムを入れ替える際、中長期的な変化に対応でき、持続的な成長が可能となるような基盤づくりを要望されます。SXパートナーとして寄り添い、持続可能な経営に貢献したいです。
中村 クラウド型の業務アプリの営業をしている中で、新常態を契機に、クラウドシフトの動きが一層加速していると実感しています。データをクラウドサービスで利活用したり、経営に生かせるように分析したりしたいと、先々を見据えた相談をよく受けるようになりました。
清水 担当業務は情報システムのセキュリティーの検査を行う脆弱性診断です。脆弱性診断の市場で競争力を保つために、社内教育や勉強会を通じてスキルアップを図り、人工知能(AI)を活用して業務プロセスの大幅な効率向上につなげようと努力しています。
山本 いろいろな課題をデジタルで解決していくにあたり、大切なのはお客様と一緒に考えたり、トップダウンではなくボトムアップで発想したりすることです。10年、30年後の社会問題や環境問題に取り組む主役は、若い人たち自身です。だから若い世代の発想を採り入れ、成長する機会を継続的に提供しないと、これからの企業は成り立たないでしょう。
そのため、ある社員が考えている課題に共感できる人が自発的に集まってディスカッションするオンラインコミュニティーや、だれでも応募でき、米シリコンバレーでスタートアップ設立に挑むプロジェクトなど、社員の挑戦を後押しする制度をスタートしています。
清水 全社的に、社員一人ひとりの挑戦を支援する環境を整備しようという動きが感じられます。私もオンラインコミュニティーに参加しており、先輩方の自発的な姿勢から刺激を受けています。将来的にはスタートアップをめざすプロジェクトへの参加など、新しいことにもどんどん挑戦していきたいと考えています。
新たなスキル習得のための挑戦として社内募集に手を挙げて、今年10月から2年間、現在の部門から離れることになりました。この挑戦に対して上長やチームメンバーが応援してくれています。そういった雰囲気があるので、またこの部門に戻りたい、戻ったときには今以上の価値をお客様に提供できるようになりたいと、自ずと感じています。
乾 最近、社内では感謝の気持ちをポイントで付与し合うシステムが展開されています。社員がお互いを褒めて、働く意欲を高めようという取り組みです。上長との「1on1」という形でのコミュニケーションでも、発言しやすい空気が醸し出されています。
オンラインコミュニティーには情報収集の場として私も参加しているのですが、参加している方がすごく前向きな発言をしています。そうした前向きな姿勢に自分も触発されています。ここで得た知識を積極的にプロジェクトに反映しようという気持ちになり、仕事の実務やモチベーション維持みたいなところで活用させてもらっています。
事業化アイデアソンとかサステナビリティーアイデアソンもあります。自分のアイデアを社会課題という視点で捉え直して仕事に直結させることができるようなプロジェクトが立ち上がっているので、これを機会に自分が携わっている領域にこだわらず、考えている課題をアイデアとしてぶつけてみようという思いがすごくしています。
中村 ここ数年、いろいろなコミュニケーション策が導入され、社員同士が積極的に関わっていこうとする動きが強まっていると感じます。在宅勤務、リモートワークが主になってきた今だからこそ、ありがたみが感じられ、私もすごくポジティブな気持ちで働けています。今置かれている環境とか決められた枠組みの中ではなく、自由に挑戦できるチャンスが増えてきているのかなと感じています。
山本 めざすのは社員が幸せである会社です。自分たちが幸せであってこそ、いいソリューションを提供できるし、お客様も幸せにできるでしょう。一人ひとりの課題をみんなが「自分ごと」として考え、チームで解決するような会社にしていきたいと思います。
乾 私は半年間の育休を取り、今は在宅で仕事をしながら育児にも関われます。ただ、他社の知人などから在宅勤務の環境が整っていないということや、育休を取りにくいといった話も聞きます。快適に働くことや幸せな生活に向けて、ITで幅広く貢献していきたいと考えています。
中村 現状の仕事は日本と海外と分けて考えがちですが、今後はもっと国内外一体となってビジネスを推進するようになると思います。グローバルに散らばるリソースやノウハウを、バーチャルも交えて最適な形で活用していくようになると思います。
清水 この先、AIスピーカーやあらゆるものがネットにつながるIoTを用いた家電の普及で、情報技術が生活に大きな利便性をもたらすと思います。そうした中でセキュリティーの常識を覆すような変化が起こる可能性もあります。将来起こりうる事態に備えて、新しい技術をグローバルに学び、安心・安全な社会の実現に貢献したいと思います。
山本 デジタル技術による社会イノベーションに取り組む日立グループの中核となって、社会課題を解決できる会社でありたいと考えます。社員みんながそれに向かって努力し、私たち経営陣はそうした社員をサポートしていきたい。役職を超えて、多くの社員とオープンにディスカッションし、社内で「垂直の協創」を加速させることで、そこに向かって進んでいます。
社員の挑戦を「後押ししたい」(山本社長)という日立ソリューションズは、そのための社内制度を相次ぎつくっている。イノベーター育成を目的にしたオンラインコミュニティーを2019年度に立ち上げた。現在はイノベーターとその予備軍を中心に約500人が参加。ビジネスチャットアプリ「Teams(チームズ)」で情報交換や討論をしたり、ワークショップを開いたりしている。
米シリコンバレーで、自社発のスタートアップ設立をめざすプロジェクトを22年度に始めた。社員を2人1組でシリコンバレーに派遣し、ベンチャーキャピタルの下で起業方法を学んだ後、見通しが立てば創業する。このほど最初に派遣する1組の選考を終えた。
座談会出席者 プロフィル(右から)
清水 碩人さん(しみず・ひろと) セキュリティサイバーレジリエンス本部セキュリティコンサルティング部。担当業務はシステムの脆弱性診断とコンサル。お客様のシステムやネットワークに疑似的な攻撃を加え、セキュリティー上の問題点などを洗い出す。
乾 泰輔さん(いぬい・たいすけ) デジタルソリューション本部デジタルソリューション第1部。ポイント決済システム開発のプロジェクトリーダー。ベトナムでのポイントシステム導入の仕事も経験、責任者としてシステムをつくり上げた。
中村 菜々さん(なかむら・なな) デジタルイノベーション営業本部Modernization営業部。マイクロソフトの業務アプリの営業を担当。2019年7月からタイ駐在。同国市場で業務アプリの営業・拡販に携わり、22年4月に帰国した。