人々が健康で安心して過ごせる社会へ――。高齢化社会に伴う社会保障費の増大や新たなパンデミックの脅威への備えなどの諸課題に直面する今日、H.U.グループホールディングスの社名の由来である「Healthcare for You」実現への挑戦が重みを増す。日本の未来を見据えた同社の事業とイノベーション、人材を育てる経営について、竹内成和会長兼社長が就活世代の大学生でもあるフリーアナウンサーの林佑香さんとの対談を通じ熱く語りました。
竹内 医療機関で採取された血液や尿を分析し、検査結果を届けることは、最適な診断や治療の第一歩。臨床検査事業を手掛けるH.U.グループはいわば「医療の入り口」という社会的に重要な役割を担っています。さらに新型コロナウイルスの感染拡大の検査業務を通じて、以前よりは若者にも身近な存在になったのではないかと思います。自社の軸足をBtoBに置きながらも、検査キットの一般用への転用などBtoCにもすそ野を広げています。
健康状態が異なる一人ひとりに寄り添い、「全ての人に最適なヘルスケアを届けたい」という思いを込め、2020年に社名を変更しました。人生100年時代とは健康で長寿を全うすること。そのためには若い時から健康診断を定期的に受け、自分の体を知ることが大切です。
林 知人が大きな病気を患ったのをきっかけに健康診断の大切さを認識し、周りにも勧めています。私は学業の傍ら朝の情報番組でお天気キャスターを務めていますが、普段から自分の健康状態にアンテナを張り、小さな変化も気にするようにしています。
竹内 医療・介護分野の業務受託サービスを含む事業も柱のひとつです。超高齢化社会の到来により在宅で終末期を過ごす人が増えることを見据え、訪問看護などの在宅ケアサービスの提供も行っています。
林 私はおばあちゃん子なので、祖母にいつまでも元気でいて欲しいと願っています。彼女なりに健康に気を配っていますが、将来、自宅で看護師に寄り添ってもらえると安心できます。
竹内 一方で私たちは検査薬も開発しています。目下、アルツハイマー型認知症の早期発見につながる血液用診断薬の実用化を目指しており、今後、米国で承認申請する見込みです。脳脊髄液を採取する検査方法があるのですが、患者さんの負担が大きい。それを血液検査に置き換えて軽減する技術です。私たちの技術は世界的に見てトップランナーに近い。医療を支えていると自負しています。
東京都あきる野市にあるグループの中核施設「H.U. Bioness Complex」の検査ラボには血液や尿など多数の検体を迅速に調べる世界最大規模の自動化ラインが備わっています。がんや希少疾病領域のゲノム医療を実現するための全ゲノム解析など最先端の技術も手掛けています。
施設内にはグループの中央研究所もあり、研究者が集結しています。そこでは画期的な検査法や検査薬の創出につなげるための基礎研究を行っています。研究現場で働く多くの若手社員は、イノベーションを生み出す源泉です。
林 就活世代のひとりとして、若者でも意見を言えたり、一人ひとりが主体的に参加できたりする職場や企業は魅力を感じます。
竹内 若手がグループ内でやりたい仕事があれば、会社として最大限に応えていく方針です。そのために、ある部署に3年間在籍すれば、上司の許可を得なくても希望部署への異動応募ができるフリーエージェント制度を23年に導入しました。社員教育の「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進人材育成プログラム」は全社員を対象にした「基礎教育」と高度な専門人材育成のための「専門教育」があります。
人的資本経営とは働く人を大切にすることです。今160以上のeラーニング教育プログラムも用意して一人ひとりの成長を後押ししています。ただし、スキルを上げていくのは自分自身のやる気です。
「会社の力とは、個人の力の総和である」を人事理念に掲げています。一人ひとりが大きく育っていかないと、会社そのものが良くならないため、4月から人事制度を抜本的に変える予定です。管理職のさらなるマネジメント力強化を1番の柱とし、人材育成を管理職の大きな責任として求めます。出る杭は打たれるのではなく逆に育てていくという感覚を、今まさに中間管理職に植え付けている最中です。
林 新入社員や若手社員が自分のニーズに合ったプログラムを選びながら伸び伸び仕事に励めるのは素晴らしいですね。就職活動している同世代も、その様な環境が整っている企業への就職を希望するのではないでしょうか。
竹内 若手と中間管理職はフランクな関係を築いていかなければいけない。上司、先輩、同僚らとのコミュニケーションが円滑な職場であれば、力を最大限に発揮して楽しく働けると思っています。
林 力を蓄え発揮すればするほど、社会の役に立てる実感も増すと思います。私も力をもっと蓄えてアナウンサーとして成長したいですし、帰国子女の強みである語学力を生かして外国と日本の架け橋となりたいです。若くても自由に意見が出せるような職場であれば、輝きながら仕事ができると思います。
竹内 どんな仕事でも幅は広く奥行きも深いです。経験することで得られるものは大きい。若いうちはまずやってみて、何でも吸収し自分の価値を上げながら目指す方向を絞り込んでください。
10年後、何が起こっているか正直わからない。現在、臨床検査では血液や尿などの検体を調べるのが主流ですが、科学、医学、AI(人工知能)の発達で検査の形が大きく変わるかもしれません。例えば患者さんが椅子に座れば、瞬時に体の状態を検査してくれる世の中になっている可能性もあります。
また将来は病気になる前に対処する「未病・予防」にさらにシフトしていくと思います。そのような未来において私たちは臨床検査に限定せず、広くヘルスケアに貢献する企業でありたいと考えています。
未来に向かってこうした事業を推進するのは林さんたちのような若い力です。若手に対して、長く活躍してもらえるようなベースを私たち経営者やミドルが築き支えていく。この立ち位置は、ずっと変わりません。
「人を想い、人が高める」。H.U.グループの人的資本経営のキーワードだ。従業員一人ひとりがお互いを思いやり、高めあう企業にする。そして人事理念と「Healthcare for You」の実現に向けて「人材開発・育成」など5つの重要課題を掲げた。
23年度からの2カ年目標を設定し、ダイバーシティなどで数値目標を盛り込んだ。4月導入の新人事制度は、自己実現と働くことが楽しい会社を目標にするとともに、従業員の「自立・自走・自責のキャリア形成」を後押しする。
知識を増やしスキルを磨けるようDXや公募型ビジネス講座など多彩な社内教育プログラムを拡充する。新卒採用ではグローバル、研究開発(R&D)、デジタルを重点的な人材獲得分野と位置づけて求人活動を強化する。
プロフィル
林 佑香(はやし・ゆか)氏 写真右
フリーアナウンサー
慶応義塾大学法学部在学。朝のテレビ情報番組でお天気キャスターとしても活躍。1歳半から9歳まで米国・ロサンゼルスに住んでいた帰国子女。