ロゴ画像 豊かな未来のために、
エネルギー生産性を高めよう

オムロン 執行役員常務
インダストリアルオートメーション
ビジネスカンパニー社長
辻󠄀永順太氏

※2023年4月1日 オムロン 社長 CEO就任予定

メイン画像 メイン画像 提供:オムロン

オートメーション技術で製造業の進化を支えてきたオムロンが、「エネルギー生産性」の向上を実現するソリューションを提供している。データ活用と長年蓄積した制御技術の融合で、エネルギー消費量の削減と生産性向上を高次元で両立させ、働き手の幸福にもつなげる取り組みだ。製造業が熟練技術者の不足や働き方改革といった社会的課題を乗り越えながら脱炭素社会実現に貢献することは、優れた製品を生産し続ける上で欠かせない道程。オムロン執行役員常務でインダストリアルオートメーションビジネスカンパニー(IAB)社長の辻󠄀永順太氏は、同社の若手社員との対談で、豊かな未来のためにモノづくりの持続性を高めようと語り合った。
2023年2月10日取材

脱炭素や人件費高
生産現場の課題多く

3つの「i」で現場の高度化を目指す

辻󠄀永 消費者や社会からのニーズが多様化するにつれ、製造業はどんどん高度化しています。高い性能やデザインを持った製品は、設備だけでなく優れた働き手がいなければ生まれません。しかし人をめぐる状況は厳しさを増すばかり。労働人口が減り技術者が不足しています。働き方改革や労働観の多様化も進んでいます。国際関係の複雑化や地政学上のリスクを背景に消費地近くに生産拠点を再構築する「地産地消」の動きが生まれており、人件費の増加要因となっています。人の問題だけでも製造業は多くの課題に直面しています。そこで生産の効率化や合理化のみならず、働きがいを喚起するオートメーションが求められるのです。

こうした課題に対して、我々は2016年からモノづくりを進化させるための独自コンセプト「i-Automation!」によるソリューションを提案しています。「integrated(制御進化)」「intelligent(知能化)」「interactive(人と機械の新しい協調)」の3つの「i」でモノづくりの高度化を実現する取り組みです。現在は「i-Automation!」をさらに進化させ、「人を超える自働化」「人と機械の高度協調」「デジタルエンジニアリング革新」の3方向から、お客様の実情に合わせて制御機器とソフトウェア、サービスを組み合わせ個々の現場に最適化することでモノづくり現場を革新しています。導入いただいたお客様は国内外3500社以上となり、提供したソリューション数は250を超えました。IABの売り上げの35%を占めるビジネスに成長し、お客様のお役に立てていると実感しています。

辻󠄀永社長 「我が社も製造業。より良いモノづくりを追求する中で培った技術やノウハウは様々な製造業のお客様にも活用していただけるはず」(辻󠄀永社長)

そして脱炭素社会への貢献など環境対応が企業の喫緊かつ重大な課題になる中、我々は生産高度化と環境対応を高次元で両立させる「エネルギー生産性」を向上させるソリューションを展開しています。エネルギー生産性とは、分母にエネルギー消費量、分子に生産性や品質など付加価値額を置いた指標で、分母を減らして分子を増やす生産体制の構築を目指します。

もちろん、どの製造業もエネルギーに対する問題意識は持っています。例えば、使っていない部屋の照明を消し空調を調整する。電気代の節約で工場のベースのコストを下げる。これはほぼすべての企業がやっていますが、さらに高いレベルを実現するには莫大な投資が要ります。環境対応で社会に貢献できても、消費者が満足するコストパフォーマンスの高い製品を供給できなければ、経営者として決断できる投資規模やスピードが変わるのです。その投資を大胆に促すために分母を下げて分子を高めるという「エネルギー生産性」という考えが生まれたのです。

エネルギー生産性の向上は2011年から当社の工場で実践しており、分母・分子それぞれを改善する技術やノウハウを積み上げました。IABはいわば製造業のための製造業です。よりよいモノづくりを追求する中で培った実績や成功体験は、業種問わず広くグローバルの製造業各社に共感していただけると考えます。

そしてこの考え方は世界の潮流となりつつあります。英国拠点の国際環境NGOは事業活動におけるエネルギー生産性の倍増を目標に掲げる企業が参加する国際企業イニシアチブ「EP100」を主催しています。当社は昨年11月に日本の製造業としては初めて参画し、2040年までに2倍にする目標を公表しました。

自社で実証した
技術・ノウハウを他社へ

課題を可視化、働く人の意識も変える

田中 私が在籍する綾部工場では、製造設備に使われる多様なセンサーの多品種少量生産を推進しています。設備の性能を左右する製品なので、品質や生産効率はとても重要です。これらを高めつつエネルギー消費を削減するため大画面モニターの「環境あんどん」を工場内に設置して、生産進捗状況とエネルギー消費をひもづけてグラフや色で可視化しています。工場全体にとどまらず各工程まで情報がつながっています。工場全体でエネルギーを少し使いすぎているとなれば、その原因を個別の設備レベルで把握できます。

環境あんどん 工場内に設置される大画面モニターの「環境あんどん」

環境あんどんのチェックは工程管理者の役割ですが、各フロアに設置されているので、ほかの従業員もその状況が分かります。可視化のひとつのポイントは、部署や役割の違いを超えて全員が意識を共有することにあります。この第一歩がないと、効果的な現場改善につながりません。工場を見学した外部企業の多くの方々に環境あんどんに興味を持っていただいています。「当社は省エネだけに取り組んでいたので、大いに刺激を受けた」という感想もいただきました。

辻󠄀永 綾部工場はIABの工場の中でも取り組みがかなり進んでおり、エネルギー生産性の数値は10年間で1.6倍になりました。この数値はかなり誇れると思っています。一般的に工場が生産を拡大するには設備増強を伴うため、エネルギー消費が増えやすいのです。高性能だけれどエネルギー消費量が大きい設備を導入する場合もあるでしょう。そう考えると、工場内の照明を消すような取り組みだけでは1.0の数値すらキープ出来ないのです。

省エネだけ考えると投資を決断しにくい案件でも、エネルギー生産性という大きな視野で考えるとその判断が変わると思います。経営の立場からすれば社会へ貢献することと環境問題への取り組みの2つは必須要件です。最近では環境意識の高まりを受けて、製造業に対する消費者をはじめステークホルダーの視線も厳しくなっています。いくら性能や品質が良く環境に優しい製品をつくっても、生産工程や運搬過程などのプロセスでエネルギーを多く消費し環境に負荷をかければ事業活動は支持されません。

一方でモノづくり現場は、いかに不良品を出さず効率よく生産するかということをミッションとして背負っています。環境負荷の低減と生産性の両立がない限りは、経営資源の配分がうまくいきません。

エネルギー生産性のご提案は欧米でも展開を始めました。環境やエネルギー問題への感度の高い地域で、EP100の宣言とともにビジネスを展開します。

お客様の課題を、
自分事で取り組む

仕事を通じ社会とのつながりを意識

奥山 私は中四国エリアの製造業各社に生産高度化と省エネ実現のためのご提案をしており、直近では村田製作所グループの岡山村田製作所様と同社のクリーンルームのエネルギー生産性向上に取り組んでいます。少し詳しく言いますと、工場の現状と課題を把握するためにデータ活用サービス「i-BELT」を導入いただいた段階です。あらゆるモノがネットにつながるIoTが製造現場に入って様々なデータの取得が可能になりました。課題解決につながるデータを洗い出して取得、分析して改善案を練り、i-Automation!を具現化した協調ロボットなどのソリューションの導入により現場課題の解決を図るイメージです。

奥山さん 「お客様それぞれが抱える課題を自分事と捉えて一緒に取り組むことは大きな挑戦で、やりがいがあります」(奥山さん)

同時に、エネルギー生産性向上に対するお客様との意識共有も一緒に進めています。脱炭素社会の実現という大きな目標の実現は同じ意識をもって団結しなければ難しいからです。その際に綾部工場の実例がとても役立っています。取り組み過程で生じた社員間のあつれきなども正直に話し、泥臭く乗り越えたことをお伝えすると、現場を知らないただのコンサルティングとは違うなと信頼していただけ、安心感を持ってもらえます。

担当エリアを回っていて、昨年ぐらいから環境対策や生産性向上への関心が高まっていると感じます。お客様それぞれが抱える課題を自分事と捉えて一緒に取り組むことは大きな挑戦ですし、やりがいがあります。

辻󠄀永 当社の事業はB2Bであり、主にモノづくり現場の方をお客様にするので、事業活動と社会貢献の関わりを外部にお伝えしにくい面があります。ただ、お客様の生産活動の改善をお手伝いすることは消費者が手に取る最終製品がより良くなることにつながるので、産業の発展を通じて社会と結びついていると自負を持っています。

昨今、持続可能な社会づくりや環境、エネルギーという視点が加わり、事業活動の意義について多くの方に理解して頂けるようになってきたと思います。そこで特に未来を担う若い社員には、仕事のやりがいや喜びを少しでもたくさん感じてもらいたいです。

田中 私たちがつくったモノが次のモノづくりに使われ、それがまた次のモノづくりの役に立って製品が社会に届けられる。そのつながりを意識すると、一個でも多くより良いものをつくりたい、使ってもらいたいというモチベーションにもなります。生産性の改善も同様です。自社の改善事例がほかのところでも展開されるというのは、自分たちの創意工夫が認められたことでもあり、常に意識して働いています。

田中さん 「社会とのつながりを意識すると、一個でも多く良品をつくりたいというモチベーションにつながります」(田中さん)

企業の理念・ビジョンが求心力に

社員を育む、実践と評価の好循環

辻󠄀永 私は、社員それぞれが仕事にやりがいや楽しさを感じ、よりよい社会づくりとのつながりを実感することが、活気あふれるいい組織をつくり上げるカギだと思っています。仕事内容は異なっても同じ方向性を持てることが実感共有のベースとなるので、企業理念は大事です。オムロンでは「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」というミッション(社憲)が社員の求心力の源泉です。今般、IABはオムロングループの長期ビジョン「Shaping the Future 2030」の下で事業ビジョン「オートメーションで人、産業、地球の豊かな未来を創造する」を定めました。これもまた社員の仕事に対する方向性をそろえるためのものです。こうやって高まった組織力は、お客様への提案や共創する場面で生きるのです。

奥山 私はオムロンの企業理念に惹かれて入社を決めたと言っても過言ではありません。現在は営業担当として何をするべきか、お客様とどう向き合うべきか、など仕事上で迷ったときの拠り所でもあります。先輩や上司も企業理念を大事にしており、社内で浸透していると感じています。

田中 オムロンでは毎年、企業理念の実践を表彰するTOGA(The OMRON Global Award)を開催し、さまざまな事例を掘り起こし共有しています。毎年、社員が何らかの形で関わるので企業理念の組織浸透につながっていますし、評価されることが自分の成長を促すと思います。

辻󠄀永 製造業が社会の変化に対応し、ニーズを先取りして価値創造を続ける上で多様な人財の活躍が欠かせません。田中さんや奥山さんのような志のある若者と一緒に働き、より良い社会づくりに貢献していきたいと思います。人的資本経営が注目されていますが、私も社員の幸せが企業の活力になると実感しています。事業ビジョンに盛り込んだ「人」とは社会で暮らす人々であり、同時に社員のことでもあるのです。オムロンは入社直後から自分の強みや個性を発揮できるチャンスを提供できる会社です。仕事に誇りを持つ社員が増え、オムロンという企業への認知が高まることを期待します。

そして、我々は一緒にソーシャルニーズを創造するパートナー企業も求めています。脱炭素社会の実現をはじめとする社会的課題が山積する中で、企業のチャレンジ要素は増えています。今ある技術や製品ですべて対応できるとは考えておらず、外部企業と協業したり新しい技術や知見を取り入れたりすることが欠かせません。より良い社会をつくるために、やるべきことはこの先も愚直に取り組んでいくつもりです。

座談会出席者

座談会出席者 プロフィル(左から)

田中 彩(たなか・あや)氏
生産SCM本部 綾部工場 第1製造部
汎用センサ課
2018年入社。大学で学んだ情報工学の知識を生かし、多品種少量生産を手掛ける綾部工場で生産設備の自動化などを担当。23年から汎用センサ課に所属し、光を利用して物体の位置などを検出するフォトマイクロセンサーの生産工程や品質管理を担っている。

奥山 昭太(おくやま・しょうた)氏
営業本部 第2営業統括部 中四国営業課
社会のために働ける企業への就職を希望し、2020年にオムロン入社。初任地の名古屋営業所では自動車業界を担当し、2年目は大阪営業所で2次電池関連企業を担当。23年4月から岡山営業所で岡山村田製作所のエネルギー生産性向上に取り組む。

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