「事後保全」から「予防保全」へ
国土交通省のチャレンジ

予防インフラの進展には、「事後保全」から「予防保全」への転換が不可欠です。インフラが大きく損傷してから修理・修繕する事後保全ではなく、インフラが致命的なダメージを受ける前に少しずつメンテナンスを重ねること、それが予防保全の考え方です。国土交通省では予防保全への転換を進める取り組みを多元的に展開しています。その一部をご紹介します。

インフラをとりまく現状

高度成長期以降に集中的に整備された道路、橋梁、トンネルをはじめとする社会インフラの多くは、整備から50年以上が経過し老朽化が進んでいます。一方、そのメンテナンスを担っている市区町村では、人や予算などのリソースが不足しています。

国交省ではこうした状況に対し、2012年から「社会資本メンテナンス戦略小委員会」を設置し、インフラ長寿命化の効果的な対策を検討してきました。14年には「国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)」を策定し、全国のインフラの概況を把握する取り組みを進めてきました。また、21年には次の3つを柱とした「第二次国土交通省インフラ長寿命化行動計画」を策定しています。

●計画的・集中的な修繕の確実な実施による予防保全への本格転換
●新技術・官民連携手法の普及促進等によるインフラメンテナンスの生産性向上の加速
●集約・再編やパラダイムシフト型更新等のインフラストックの適正化の推進

この中でも特に喫緊の課題となっているのが予防保全への本格転換です。

予防保全とそのメリット

これまでのインフラメンテナンスは、インフラに致命的な損傷が起きてから対症療法的に修理・修繕・刷新をすることにとどまっていました。これに対し予防保全とは、不具合が軽微なうちに予防的なメンテナンスを繰り返すことでインフラの健康寿命を延ばす考え方・手法を指します。

図版1

国交省が所管するインフラを対象に、将来の維持管理・更新にかかるコストを推計した結果、「予防保全」を実施することで「事後保全」よりも大幅にコストを削減でき、今後30年間の累計でも約3割のトータルコスト縮減が見込まれています。

図版2

また、予防保全は損傷が軽微のうちに修繕等を行うため、安全を担保しつつ設備の運用とメンテナンスを並行して実施できるケースも多く、結果的に人々の暮らしや社会への影響を抑えることも可能です。

なお、昨今、激甚化が著しい気象災害や切迫する大規模地震などに対応するためには、整備されたインフラを適切にメンテナンスし、その機能を常に発揮させる必要があります。このため、インフラメンテナンスを予防保全型に転換することは重要であり、国全体の方針にも内包されている考え方です。

多様な主体との連携を推進

こうした状況の中、国交省においては、従来は個別に発注していたメンテナンスの業務を取りまとめて民間事業者に委託することで、施設管理者の業務負荷の削減などにつなげる「包括的民間委託」の採用を提唱するとともに、国交省の有識者委員会より、今後のインフラメンテナンスのあり方に関する提言として『総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」~インフラメンテナンス第2フェーズへ~』が取りまとめられるなど、予防保全への転換を着実に前進させるべく取り組みが進められています。

具体的には、「包括的民間委託」および「地域インフラ群再生戦略マネジメント」の取り組みを広げるべく「広域的・戦略的インフラマネジメントセミナー」の開催や、先導的な民間提案を活用し、包括的民間委託やPFI(民間資金を活用した社会資本整備)事業によるインフラの維持管理・更新等を推進する「官民連携モデリング事業」などを実施しています。

さらに、このようなインフラメンテナンスの取り組みを広く社会に周知できるよう、次のような活動を展開しています。

  • インフラメンテナンス大賞
  • ●インフラメンテナンス大賞
    日本国内のインフラのメンテナンスに係る優れた取り組みや技術開発を表彰し、ベストプラクティスとして広く紹介することで、インフラメンテナンスに関わる事業者、団体、研究者等の取り組みの活性化を促進するとともに、インフラメンテナンスの理念の普及を目的に実施するインフラメンテナンス大賞。第7回となる23年度から内閣総理大臣賞・環境大臣賞が新設されるとともに、新たに環境省も参画するようになるなど、行政横断で包括的に取り組むほどに規模を拡大しています。

●インフラメンテナンス国民会議
産学官民が一丸となってメンテナンスに取り組む社会の実現に向け、多様な主体が参画し技術や知恵を出し合うプラットフォームとして、インフラメンテナンス国民会議を設立しました。16年の発足以降、23年4月末時点で自治体の加入率は7割を超え、全国10ブロックで地方フォーラムが設立されるなど活動は本格化。インフラの維持管理における分野横断的な連携、多様な主体との連携を推進し、技術やノウハウの共有を進めています。

図版3

さらに、国民会議の一環として「インフラメンテナンス市区町村会議」が22年4月からスタートしています。多くのインフラの管理者は市区町村であることから、23年4月末時点で全国954の首長が参加。先進的な取り組み事例の共有やメンテナンスの今後の方向性に関する意見交換、メッセージ発信などを展開しています。

  • ファクトブック
  • また、こうした活動を一覧できる「インフラメンテナンス国民会議 ファクトブック」を発行。情報の共有と活動の周知徹底を図っています。


    インフラは私たちの生活の安全・安心を下支えするベースとなるもの。それだけに、その健康寿命を延ばすことは、国全体の活力を支えることにもなる重要事項なのです。

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